31 / 35
第31話 毛刈りと食欲と本能
しおりを挟む
もはや歩く毛玉だろってくらい真ん丸でふわふわのヒツジを前に、俺はハサミを握った。
隣のミルが不安そうな顔で言う。
「だ、だいじょうぶなんですかね……。ヒツジさんのけ、かっちゃって……」
「大丈夫だ。毛が再生することは、他のぬいぐるみたちで実証されてるからな」
俺は一番近くにいたヒツジのぬいぐるみを抱えると、まずは優しく撫でて安心させた。
それからゆっくりと、ハサミを入れて毛を刈り取っていく。
正直、毛刈り体験はしたことがないので、これに関しては完璧に勘だ。
抱きかかえているだけで、ヒツジの毛独特のもふもふ感に癒される。
仕事しながら癒されるとか、もはや永久機関だろ、これ。
「あったかそう」
「リルの言う通り、ヒツジの毛ってすごく暖かいんだ。冬の寒さをしのぐには、もってこいだぞ」
「ふむふむ。いろいろじっけんしてみたい」
「そのためには、自分で素材を集めなきゃな」
俺は1頭分の毛を刈ったところで、リルにハサミを渡した。
そしてもう1本用意していたやつを、ミルに手渡す。
「続き、やってみな」
2人はこくこく頷くと、それぞれヒツジを抱きかかえて作業を始める。
心配していた割りに、ミルは大胆に刈り進めているようだ。
対してリルの方が慎重で、ペースも妹より遅い。
ウマに乗った時もそうだったけど、ミルの方が案外思いっきりが良いというか度胸があるんだよな。
「ほわぁ~。ふかふかで、たまらないです……」
「ねれる……」
「寝るな~」
時おり交替しながら、3人で作業を進めていく。
ぬいぐるみたちから産物を回収するのはもちろん、どうしても土埃などは入ってきてしまうので、ちょっとした掃除は必要だ。
それから彼らのエサやりも。
そんなこんなで作業開始から2時間。
ひとまず、ぬいぐるみハウス内でのあらかたの仕事が完了した。
「つかれた……」
「でも、たのしかったです!」
「これからは基本、毎朝この仕事をしないとな」
「うへぇ……」
「がんばります!」
明らかに嫌そうな顔をするリル。
でも何だかんだで、明日からもここへ来てくれるだろう。
今日もちゃんと来てくれたわけだし。
ミルの方は心配ないな。
「そしたら回収した牛乳に卵、毛なんかを運ぶぞ。それで本当に終わりだ」
「あ、わたし、だいしゃをもってきます!」
「お、それは助かる」
ミルは勢いよく、ハウスを飛び出して行く。
こちらが一段落したのが分かったのか、ぬいぐるみたちも再びのんびりモードに戻った。
寝るものは寝るし、散歩に行くものは行く。
ぬぁ~、平和な世界。
「おなかすいた」
ぼそっと、リルが呟いた。
朝起きてから、すぐに働き始めて2時間だからな。
俺もお腹はぺこぺこだ。
「よく働いたから、朝ごはんは作ってやるよ。ここで取れた卵とか使ってな」
「ホットケーキ!?」
「そんなにハマったのか? ホットケーキでもいいけど、本当はまた別のものを考えてたんだけど」
「んー、じゃあ、べつのがいい。あたらしいの、たべたい」
「任せとけ」
ホットケーキは、バターを作るのが大変なんだよなぁ。
めちゃくちゃシェイクしなきゃいけなくて、あの工程だけで腕がめちゃくちゃ疲れる。
「ちなみにリル、俺がこないだやってたみたいなバターを作れる装置ないのか?」
「あの、バカみたいにめっちゃぶんぶんしてたやつ?」
「バカみたい言うな。でもそう、それ」
「かんがえてみる。そんなにふくざつじゃなさそうだし」
「バターが楽に作れれば、ホットケーキとかそれ以外のものもだいぶ作りやすくなるんだよな」
「それはがんばる」
なるほど。よく分かった。
リルを動かすには、食べ物で釣るのが一番良いらしい。
寝るだけ寝て、食べたいもの食べて……本能のままか。
「おまたせしました!」
「お疲れ、ありがとう」
ミルが持ってきてくれた台車に、あれこれ全部乗せてゆっくり出発した。
牛乳などの保管場所は、リルの研究所にある地下室に決定している。
夏場でもかなり涼しく、それなりの期間は保存できそうだからだ。
そんなわけでリルの研究所に荷物を降ろすと、3人で朝ごはんを食べるべく、今度は俺の家へと向かうのだった。
隣のミルが不安そうな顔で言う。
「だ、だいじょうぶなんですかね……。ヒツジさんのけ、かっちゃって……」
「大丈夫だ。毛が再生することは、他のぬいぐるみたちで実証されてるからな」
俺は一番近くにいたヒツジのぬいぐるみを抱えると、まずは優しく撫でて安心させた。
それからゆっくりと、ハサミを入れて毛を刈り取っていく。
正直、毛刈り体験はしたことがないので、これに関しては完璧に勘だ。
抱きかかえているだけで、ヒツジの毛独特のもふもふ感に癒される。
仕事しながら癒されるとか、もはや永久機関だろ、これ。
「あったかそう」
「リルの言う通り、ヒツジの毛ってすごく暖かいんだ。冬の寒さをしのぐには、もってこいだぞ」
「ふむふむ。いろいろじっけんしてみたい」
「そのためには、自分で素材を集めなきゃな」
俺は1頭分の毛を刈ったところで、リルにハサミを渡した。
そしてもう1本用意していたやつを、ミルに手渡す。
「続き、やってみな」
2人はこくこく頷くと、それぞれヒツジを抱きかかえて作業を始める。
心配していた割りに、ミルは大胆に刈り進めているようだ。
対してリルの方が慎重で、ペースも妹より遅い。
ウマに乗った時もそうだったけど、ミルの方が案外思いっきりが良いというか度胸があるんだよな。
「ほわぁ~。ふかふかで、たまらないです……」
「ねれる……」
「寝るな~」
時おり交替しながら、3人で作業を進めていく。
ぬいぐるみたちから産物を回収するのはもちろん、どうしても土埃などは入ってきてしまうので、ちょっとした掃除は必要だ。
それから彼らのエサやりも。
そんなこんなで作業開始から2時間。
ひとまず、ぬいぐるみハウス内でのあらかたの仕事が完了した。
「つかれた……」
「でも、たのしかったです!」
「これからは基本、毎朝この仕事をしないとな」
「うへぇ……」
「がんばります!」
明らかに嫌そうな顔をするリル。
でも何だかんだで、明日からもここへ来てくれるだろう。
今日もちゃんと来てくれたわけだし。
ミルの方は心配ないな。
「そしたら回収した牛乳に卵、毛なんかを運ぶぞ。それで本当に終わりだ」
「あ、わたし、だいしゃをもってきます!」
「お、それは助かる」
ミルは勢いよく、ハウスを飛び出して行く。
こちらが一段落したのが分かったのか、ぬいぐるみたちも再びのんびりモードに戻った。
寝るものは寝るし、散歩に行くものは行く。
ぬぁ~、平和な世界。
「おなかすいた」
ぼそっと、リルが呟いた。
朝起きてから、すぐに働き始めて2時間だからな。
俺もお腹はぺこぺこだ。
「よく働いたから、朝ごはんは作ってやるよ。ここで取れた卵とか使ってな」
「ホットケーキ!?」
「そんなにハマったのか? ホットケーキでもいいけど、本当はまた別のものを考えてたんだけど」
「んー、じゃあ、べつのがいい。あたらしいの、たべたい」
「任せとけ」
ホットケーキは、バターを作るのが大変なんだよなぁ。
めちゃくちゃシェイクしなきゃいけなくて、あの工程だけで腕がめちゃくちゃ疲れる。
「ちなみにリル、俺がこないだやってたみたいなバターを作れる装置ないのか?」
「あの、バカみたいにめっちゃぶんぶんしてたやつ?」
「バカみたい言うな。でもそう、それ」
「かんがえてみる。そんなにふくざつじゃなさそうだし」
「バターが楽に作れれば、ホットケーキとかそれ以外のものもだいぶ作りやすくなるんだよな」
「それはがんばる」
なるほど。よく分かった。
リルを動かすには、食べ物で釣るのが一番良いらしい。
寝るだけ寝て、食べたいもの食べて……本能のままか。
「おまたせしました!」
「お疲れ、ありがとう」
ミルが持ってきてくれた台車に、あれこれ全部乗せてゆっくり出発した。
牛乳などの保管場所は、リルの研究所にある地下室に決定している。
夏場でもかなり涼しく、それなりの期間は保存できそうだからだ。
そんなわけでリルの研究所に荷物を降ろすと、3人で朝ごはんを食べるべく、今度は俺の家へと向かうのだった。
0
お気に入りに追加
394
あなたにおすすめの小説
ケットシーな僕とはじまりの精霊
結月彩夜
ファンタジー
異世界転生物のライトノベルはよく読んでいたけど、自分がその立場となると笑えない。しかも、スタートが猫だなんてハードモードすぎやしない……な?
これは、ケットシーに転生した僕がエルフな飼い主?と終わりまで生きていく物語。
退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話
菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。
そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。
超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。
極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。
生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!?
これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。
没落令嬢カノンの冒険者生活〜ジョブ『道具師』のスキルで道具を修復・レベルアップ・進化できるようになりました〜
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
事業に失敗した父親の借金の返済期限がやって来た。数十人の金貸し達が屋敷に入って来る。
屋敷に一人残された男爵令嬢の三女カノン・ネロエスト(17歳)は、ペットの大型犬パトラッシュと一緒に追い出された。
長い金髪を切られ、着ていた高価な服もボロ服に変えられた。
そんな行く当てのない彼女に金貸しの男が、たったの2500ギルド渡して、冒険者ギルドを紹介した。
不幸の始まりかと思ったが、教会でジョブ『道具師』を習得した事で、幸福な生活がすぐに始まってしまう。
そんな幸福な日常生活の物語。
転生したらチートすぎて逆に怖い
至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん
愛されることを望んでいた…
神様のミスで刺されて転生!
運命の番と出会って…?
貰った能力は努力次第でスーパーチート!
番と幸せになるために無双します!
溺愛する家族もだいすき!
恋愛です!
無事1章完結しました!
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?
N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、
生まれる世界が間違っていたって⁇
自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈
嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!!
そう意気込んで転生したものの、気がついたら………
大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い!
そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!!
ーーーーーーーーーーーーーー
※誤字・脱字多いかもしれません💦
(教えて頂けたらめっちゃ助かります…)
※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません
ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ
雑木林
ファンタジー
現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。
第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。
この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。
そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。
畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。
斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。
神獣に転生!?人を助けて死んだら異世界に転生する事になりました
Miki
ファンタジー
学校が終わりバイトに行く途中、子供を助けて代わりに死んでしまった。
実は、助けた子供は別の世界の神様でお詫びに自分の世界に転生させてくれると言う。
何か欲しい能力があるか聞かれたので希望をいい、いよいよ異世界に転生すると・・・・・・
何故か神獣に転生していた!
始めて書いた小説なので、文章がおかしかったり誤字などあるかもしてませんがよろしくお願いいたします。
更新は、話が思いついたらするので早く更新できる時としばらく更新てきない時があります。ご了承ください。
人との接し方などコミュニケーションが苦手なので感想等は返信できる時とできない時があります。返信できなかった時はごめんなさいm(_ _)m
なるべく返信できるように努力します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる