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第5話 宴と悪ふざけとひゅんひゅんひゅん!

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「みんな伝え聞いているとは思うが、改めてわしから紹介するぞ。本日付でこの村に引っ越してきたケントじゃ」
「どうも。ケントっていいます。よろしくです」

 村長の隣に立って挨拶すると、村のエルフたちから拍手が起こった。
 住民は全部で30~40人ほど。
 村の真ん中にある広場で大きなキャンプファイヤーが轟々と燃えていて、それを囲むようにみんなが集まっている。

「新たな住民など久しぶりじゃな。さあ、今夜は宴じゃ。好きなように飲んで食え」

 村長の号令で、一斉に宴が始まる。
 肉、魚、野菜、キノコ、フルーツ。
 水にジュースにお酒。
 それぞれ多種多様、そして豊富にそろえられていて、とんでもなく盛大な宴だ。

「ケント、わたしはにくがたべたい」
「そうか。取ってくればいいんじゃないか?」
「ケントとってきて」
「えー」
「もう、おねえちゃん!」

 相変わらずのめんどくさがりを発揮するリルの前で、しっかり者の妹が腰に手を当て頬を膨らませる。
 リルは宴の直前にお目覚めになったけど、ミルはずっとお手伝いしてたもんな。
 この差って何ですか。

「きょうはケントさんのためのうたげなんだよ!」
「むー。ミル、おこらないおこらない」
「だーめ。ほら、わたしたちのぶんと、ケントさんのぶん、とりにいくよ」
「のぁぁぁ~」

 情けない声を上げながら、リルはミルに引きずられていく。
 途中で振り返って、ミルが俺に尋ねた。

「ケントさんって、おさけはのまれますか?」
「あーじゃあ、飲む」
「わかりました!」

 ぶっちゃけ、お酒を飲んだことはない。
 高校生だったし。
 でも物は試しっていうしね。
 さすがにこの世界で、20歳未満は飲酒禁止なんてルールはないはずだ。
 そもそも20歳未満っていうのすら、日本独自のルールなわけだし。

「おまたせしました!」
「もってきてあげた。かんしゃして」

 ミルがお皿を、リルがコップを差し出してくれる。

「ありがとう」

 たんまりと持ってきてくれたようで、ずっしりと重い。
 お皿には料理がバランスよく盛り付けられ、見た目にもきれいで楽しい。
 さすがはミルと言ったところだ。

「ミルは盛り付け上手だな」
「えへへへ。ありがとうございます!」

 感謝と共に褒めてあげると、ミルは嬉しそうに笑った。
 この子はよく働くし、よく笑う。
 良い子だな。

「むむー」

 そんな様子を見ていたよくサボるし無表情な子が、不服そうにこちらを見てくる。
 褒めろってことか?
 でもコップにお酒注いで来ただけ……いやいや、まあ今日のなかでは一番働いたか。

「ありがとな」
「ちっちっち」
「その仕草、好きな」

 舌打ちを交えて、人差し指を左右に振るやつ。
 最初に出会った時もやっていた。

「ただただ、わたしがコップにおさけをついできたとおもってる?」
「ん? 違うのか?」
「ビールとぶどうワインとりんごのおさけ、まぜてある」
「何しとんじゃい!?」
「おねえちゃん!? そんなことしたの!?」

 どうりで何だか黒っぽい色なのかよ!?
 夜で暗いからかな~とか、熟成したワインてこういうものなのかな~とか思ってたけど、何でドリンクバーの悪ふざけみたいなことやってるんだよ……!

 というかリンナとの会話の時は完全にツッコミを入れられる側だった俺が、この世界ではリルにツッコミを入れてばっかりだ。
 どうにも調子狂うんだよな。

「わたしのけいさんでは、それはすごくおいしいか、すごくまずいかのどっちか」
「絶対に美味しいもの作ってこいよ。というか、混ぜなくていいから絶対に美味しいまま持ってこいよ」
「さあさあ、のんでみなされ」
「その口調は何なの?」

 そうは言いつつも、俺は試しにリル特製カクテルを口に含んでみた。
 そして、しっかりと地面に吐き出す。
 はっきり言って、飲めたもんじゃない。

「すごくまずい」
「それはざんねん」
「俺の酒人生、最悪のスタートなんだが……。本当にやばいから飲んでみ?」
「わたし、まだ5さい。おさけはのんじゃいけない」
「上手く逃げやがった!」

 俺とリルが押し問答していると、新しいコップを持ったミルがやってきた。
 コップの中には純粋な水が入っている。

「おねえちゃんがごめんなさい。くちなおしにどうぞ」
「ありがとう。んぐっ……んぐっ……んぐっ……。ああ、口の中が洗われたよ。ミルは本当に良い子だなぁ」

 俺はコジローもろとも、ミルの頭を優しく撫でる。
 嬉しそうに目を細めるミル。すごくかわいい。

「わたしもいいこ!」
「今のリルは悪い子だ」
「むー!」

 私も撫でろと言わんばかりに、リルが頭を押し付けてくる。
 といっても、直接俺の手に当たっているのはプヨタローの方だ。
 独特のふかふかさが気持ち良い。
 コジローも、そして俺の隣で丸くなっているグレイも、本当にこのぬいぐるみたちは癒しだな。
 そういえば、グレイはパンを食べていたけど、プヨタローたちは何も食べていない。
 何か食べさせてあげないとかわいそうだ。

「リル、ミル。プヨタローとコジローにも、ご飯をあげるといいぞ」
「プヨタロー、ごはんたべるの?」
「コジローもごはんたべるんですか!?」
「俺のグレイは食べたぞ」
「ぬっ! ネコ、いつのまに」
「気付いてなかったのかよ」

 リルはグレイに近づくと、わしゃわしゃ撫でまわす。
 そして案の定、安眠を妨害されたグレイにネコパンチを喰らった。
 でもそこはぬいぐるみ。
 ぱふっという優しい音がする。

「コジローは、どんぐりみたいな木の実をあげれば喜ぶんじゃないか? プヨタローは……プヨタロー……スライムのエサって何だ?」

 ネットで調べようにも、スマホはないし電波もない。
 そもそも調べたところで、スライムのエサなんて出てくるはずがない。
 プヨタローには何をあげたらいいんだろうか。

「だいじょーぶ」

 飼い主のリルが、自信満々に胸を張る。
 うん、何も安心できない。
 あれこれ合成しまくったダークマターを食わせかねない。

「プヨタローにあるかせる。それで、きにいったやつをたべればいい」
「意外とまともだった」
「いがいはよけい」
「じゃあおねえちゃん、わたしたちのごはんとコジローたちのごはん、とりにいこうか」
「あるきたくないけど、しかたない」

 何だかんだ言いながら、姉妹仲良く料理集めへ出て行く。
 その背中を見ながら、俺は手元の料理を口に運んだ。

「うまいな」

 野性味のある肉に、甘味のあるフルーツのソースがかかっている。
 旨い肉と、旨いソース。
 お昼もそうだったけど、この取り合わせが鉄板だ。
 付け合わせの野菜も、しゃきしゃき瑞々しくて、すごく新鮮なのがよく分かる。
 そして食事を進めること10分くらい。
 リルとミルが戻ってきた。

「びっくりしました!」

 第一声、料理の乗った皿を持ったままミルが言う。
 目を真ん丸にして、声も大きい。
 めちゃくちゃびっくりしたみたいだ。

「どうした?」
「ひゅんっって! ひゅんって! ひゅんひゅんひゅんって!」
「ミルはコジローのごはんのこと、はなしてる」
「解説助かる」

 確かにこのぬいぐるみの食事は、最初に見たらびっくりするよな。
 目の前の食材が、一瞬で消え去るんだから。
 それもぬいぐるみたいは全く触れていないのに。
 それとどうやら、ミルはテンションが上がると言語化できなくなるタイプみたいだ。
 冷静にサポートしたリルが、史上初めてお姉ちゃんっぽく見えた。

「ちなみにプヨタローは、何が気に入ったんだ?」
「みず」
「みずって……水?」
「みず」
「んーまあ、スライムっぽいっちゃぽいか……」

 満腹になったプヨタローとコジローは、グレイも交えてじゃれ合いを始めた。
 あくまでもぬいぐるみなだけあって、見た目はかなりデフォルメされたほんわかした見た目なだけに、じゃれ合っているのは何ともほのぼのした気持ちになる光景だ。

「わたしたちもたべる」
「うん! いただきまーす!」

 リルとミルも俺の隣に腰掛け、夕食を楽しみ始める。
 誰かと美味しいご飯を笑いながら食べるって、すごく楽しいことなんだな。
 不意にそんなことを考える異世界初日の夜だった。
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