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第3話 エルフの村とエルダ村長と本好きの横着者

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 リルとニルに案内されて、森の中を10分ほど歩いた。
 すると突然に森が開け、十数軒の木組みの家が建ち並ぶ村が現われる。
 森の中のエルフの村。ますます異世界っぽくてすごくいいね。
 実際、異世界なんだけど。

「ここ」
「これが2人の住んでる村か」
「はい。えーっと、おねーちゃん、おきゃくさんはどうするんだっけ……?」
「そんちょーのとこに、れんこーする」
「ああ、そうだった。ケントさん、こっちです」

 れんこー。れんこう。連行。
 非常に言葉の響きがよろしくないのは、ちょっとしたジェネレーションギャップならぬワールドギャップということにしておこう。
 とにかく頭にぬいぐるみを乗せた2人と村に入り、一際大きな家へと歩いて行く。
 他の村人からパンダを見る目で見られながら、玄関ドアの前までやってきた。
 ミルがノックしようとしたのに、リルはガチャリと開けてずんずかずんずか入っていく。

「そんちょー」
「ちょっとおねーちゃん、ノックくらい」
「ふぁっふぁっふぁ。まあええわい。それでリルにミル、今日はどうした?」
「こいつれんこーしてきた」
「口が悪いな。どうも、ケントっていいます。よろしく」

 俺は家の中に入ると、村長らしき男性エルフに挨拶した。
 立派な白ひげをたくわえ、いかにもな木の杖を持っている。
 ザ・村長って見た目をしてるな。

「ほほぅ。わしは村長のエルダじゃ。にしても人間とはこれは珍しい。最後にこの地へ人間が来たのは、もう1000年以上も昔のことじゃろうか」
「そんちょー、そのときのにんげんとあった?」
「当然じゃ。わしは今年で1334歳じゃからな」

 やっぱりエルフって長命なんだな。
 1334年だなんて、人間の寿命からしたら想像もつかないような年数だ。

「それでケントさん、ここにはどんな用があるんじゃ?」
「実は俺、めちゃくちゃ遠い場所から来て。この辺のことは分からないし、食料もないしで2人に連れてきてもらったんです」
「つまり、ケントいちもんなし」
「そうだけど直球で言うな? あと年齢の割に言葉のレベル高いな?」
「ふぁっふぁっふぁ。リルは本が大好きじゃからの」
「ほんはちしきのほーこ。あと、ほんよんでべんきょーっていえば、にくたいろうどうサボれる」
「まあ本が好きなのは良いことだけど、最後の一言で台無しだわな」

 リルは素知らぬ顔で、村長の家の本棚から分厚い書籍を取り出し読み始めた。
 ミルはといえば、頭の上のリスをほのぼの愛でている。

「リルもミルも、おぬしによく懐いておるようじゃな」
「ぬいぐるみのおかげですね」
「ほほぅ。あれはおぬしがプレゼントしたのか」
「唯一の得意技っていうか、スキルがぬいぐるみ出すことなんで。でもほら、ああして動けるし言うことも聞くぬいぐるみですよ」
「これは……確かに珍しい。というか、初めて見る代物じゃ。おぬしが作ったのか」
「そうです」

 エルダ村長は、本に熱中するリルに近づいて頭の上のスライムを観察する。
 撫でてみたり、突っついてみたり。
 しばらく感触を確かめた後、俺の前に戻ってきた。

「確かにぬいぐるみじゃが、普通ではない。見た目はモンスターじゃが、襲ってくる気配など微塵もないしのう」
「面白いでしょう?」
「ああ、これは良いものを見せてもらった。ところでおぬし、これからどうするのだ? 食料が必要というのなら、あのぬいぐるみいくつかと引き換えに売っても良いが」
「そうですね……。正直、ここを出ても行く当てないし、彷徨って野垂れ死ぬ気しかしないというか。ここで暮らせるならありがたいなーって思ってみたり……」
「よいぞ」
「これはこれはあっさりと」
「ぬいぐるみ気に入ったし、子供たちも懐いておるしの。ただし、ここに住むからには村の仕事をしっかりやってもらう」
「できることは何でもします」
「決まりじゃな」

 あっさりと、異世界での生活拠点が定まってしまった。
 いきなりリルとミルに会えたこと、そして何より【ぬいぐるみテイム】が思いのほか優秀だったおかげだ。
 よそ者を受け入れてくれる村長の心の広さにも、感謝しなくちゃいけない。

「腹が減っておるか?」
「そうですね……。だいぶ」

 スポーツカーにぶっ飛ばされたあの時、ちょうどラーメン屋へ向かう途中だった。
 それがなくなり、空腹がずっと維持され続けている。
 もうそろそろ限界だ。

「時間もちょうど良いし、昼食にするとしよう。リルもミルも食べて行くといい」
「あ、じゃあ、おてつだいします!」
「……」

 そそくさと動き始める妹と、本に熱中してもはや聞こえてすらいないリル。
 本当に姉妹か? しかもリルが姉ってまじか?
 俺は何ともマイペースで自由なリルに半ば呆れつつ、ミルと一緒に食事の準備を手伝い始める。
 そしておよそ20分後、食卓にはパンと肉料理、さらに野菜とフルーツが並んだ。
 お腹がぐぅ~と音を立てる。

「いただくとしよう」
「いただきます」
「いただきます」
「……」

 異世界に来て、初めてのご飯。
 まずはパンを手に取り、肉を一切れ乗せてソースをかける。
 そして一思いにパクリ。

「うまぁ……」

 口の中に肉汁がほとばしり、それが酸味の利いた深い味わいのソースと混ざり合う。
 このソースはぶどう酢を使っているそうで、ちょっと高級な印象を受ける味だ。

「ケントー」
「どうした?」
「いまケントがたべたの、わたしにも」
「本はやめて自分で食事したらどうだ?」
「きょうだけ。それに、ケントここまでつれてきてあげた」
「はぁ……。今日だけだぞ」

 俺はパンを取って同じものを作り、ぽっかり開いたリルの口に詰め込む。
 しばらくしてから、リルは本を読みつつ咀嚼し始めた。
 どんだけ自由だよ。

「村長、すごく美味しいです」
「それは良かったわい。どんどん食べてくれ」
「ありがとうございます」

 環境としてすごく良い森だからか、肉も野菜もフルーツも、どれをとっても嫌味や雑味がなくてとても美味しい。
 こんな食事が毎日食べられるなら、村の仕事というのもやる気になるってもんだ。
 約一名、絶対に働かなさそうな奴がいるけど。

 ちらっと視線を向けてみれば、リルはぽっかり口を開けて次の食料を待っている。
 俺はため息をつくと、再び肉とパンをねじ込んでやるのだった。
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