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三章 エイヴィの翼 後編(前期休暇旅行編)

270、翼を取り戻す方法 1(王都へ)

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「真っすぐ癒しの教会でいいか」

 ガルカの声にアルベラははっとする。身を起し、ここで気を入れ直してもやる事など無いと気付き緊張を解いた。

(ずっと慌ただしかったし……王都に着いたらはまた忙しくなるよな……。丁度いいか。何もせず何も考えず、この移動時間は思う存分休息にあててしまおう)

「いいえ。王都に着いたら先ずは馬車のレンタルをお願い。適当な店でいいから」

 アルベラは腹の上に乗せたまだった鞄から血液パックを取り出す。パックから伸びているチューブを魔術の施されたテープで左手の手首に止めると、チクリとした小さな痛みと共にテープに「使用中」と母国語とは微妙に異なる綴りの言葉が浮き上がった。血液パックにも同じ文字が表示されているのを確認し、彼女はまたハンモックへ背中を預ける。

「それから『ワライグサ』って飲み屋で八郎拾って。その後は恵みの教会。私の靄についての相談と外国人の治療を癒しの聖女様に依頼して大丈夫か、駄目だったら他に良い方法が無いか、恵みの聖女様に伺いたいの」

「相変わらずまどろっこしいものだ」

「これが人の世ってものよ魔族様」

「なら俺は魔族に生まれた事を幸運と思おう」

「魔族ってだけで敵が増えそうなのに」

「敵の面してくる奴は片っ端から叩き潰してやるまでだ」

「血の気が多いこと」

(はったりとかでなくそう言えるのは羨ましい限りだけど)

 アルベラは眠気を感じ始めた頭でぼんやりと大きな翼がたまに羽ばたく様を眺める。

「休憩は俺のタイミングでさせてもらうぞ」

「ええ、好きなようにお願い」

 目を瞑って答える。瞼を下した途端、アルベラは体の奥から疲労感が込み上げてきたように感じた。それは体内をめぐり全身を満たしていく。周囲にあるのは風の音と僅かな振動―――。

 アルベラが気づく間もなく彼女の意識は深い眠りへと落ちていた。





 ***





 キッチンの前、金髪の女性が大きな音を立てて倒れた。

 彼女の手には包丁。胸には沢山の刺し傷。

 姉が床に転がり落ちたコップを拾い上げ「***の樹液……!」と声を上げた。***の樹液は体内の魔力を止め臓器の働きを狂わせる劇物だ。それをコップ一杯。一般的に知られる致死量の倍だ。

 俺も姉も当然魔術を展開し治療をしようとしたが***の樹液のせいで魔術が阻害され思うように傷の処置ができない。

 その間にも彼女の体からは血が流れ、毒は全身に回っていった。

 妹は笑っていた。完全に息絶えるまでずっと涙を流し、ずっと、ずっと嬉しそうに微笑んで―――





 ぼやけた視界の中、数人の人物が自分を覗き込んでいた。

 体は何も感じず、意識は視覚同様ぼやけていた。

 騒がしい音、悲鳴、熱、風。

 突然色々な情報が脳に入って来たかと思うと、彼女が自分の頬を叩いていた。

 周りには残骸。

 自分は半裸で、見下せば体に見覚えのある刺青が彫られていた。それを目にした途端急激に頭が熱くなった。

 怒りのまま喚き、暴れ、手あたり次第目にした人間の頭を殴りつけ、彫師らしき人物の目玉に針を突き立て墨を注ぎ―――





 俺は片手に掴んでいたガキを地面に叩きつけた。その背を踏みつけ、怒りのままに翼を引っ張り千切り取ってやった。

 流石に痛かったのかガキは面白いぐらいに叫び、目の前に転がる翼を見てしゃくりあげていた。

 その翼をぐちゃぐちゃに踏みつけ陣を描く。

 先ずはあの魔族を木っ端みじんに。その後はもう一人のガキだ。あのガキ、意識がある状態で臓物を抉り取ってやる。勝手に俺達の石を使った事を絶望するまで後悔させてやるんだ。

 だからまずはあいつを、あの魔族を全力で潰しに――――――大きな黒い腕が空を切る……俺の魔術が、陣が、光が―――体 が―――いた い―――





 ***





「―――!」

 アルベラの体がびくりと動き、次いで飛び跳ねるように上体を起こした。

 夜闇の中、自分の右手側、月明かりに照らされた大きな鳥足と二対のコウモリのような翼が視界に入り怒りと殺意が沸き上がる。

「あ の 」

 「あの忌々しい魔族が!」と言う言葉が口を突いて出そうになるが彼女はぴたりと動きを止めた。

 「は……?」と両手を見て体を見て「はぁ……」と溜息と共に脱力する。

(何寝ぼけてるんだか)

 周囲を見て今が夜であることに気付き、更に思い出し彼女は手首を見る。手首からはチューブを止めていたテープが離れ、使用済みと書かれ横に転がっていた。血液パックもからとなり使用済みの文字が書かれている。

 月は明るく灯は要らなそうだ。

(この夢……まさか寝るたびに見せられるなんて事ないでしょうね……。早く何とかしないと悪夢で頭おかしくなるんじゃ……とかないよな……)

 「ははは……まさかね」と乾いた笑いを零し、アルベラは用済みとなった輸血道具を鞄に仕舞い水筒と軟膏を取り出す。異様な喉の渇きを不思議に思いながらひと先ずは思う存分水を飲んだ。そして病院で貰った軟膏とそれに張られているメモを開いて眺める。

 ―――傷跡消し用:一日数回患部に塗ってください。

 ―――使用方法:厚めに塗り魔力を注ぐ。熱を感じなくなったら拭き取る。

 ―――『この範囲、この程度だと、薬での完全な治癒は不可能です。綺麗に痕を消したいのでしたら治療師に見てもらわないと駄目ですよ』

 病院にて、運び込まれた面々の様態をアルベラに説明した医師は、アルベラの腕と顔の火傷痕を見てそう言った。

 痕を完璧に消すには至らないらしいが、それでも多少の効果はある。全く消えないわけではないのだ。それに、薬を使って皮膚を柔らかく保ったり新しい皮膚の再生を促しておくことで、いざしっかりした治療に当たった際、治療時間を短くする事が出来るだろうとの事だ。

 アルベラは左手の包帯を解き、油気しか感じなくなっている湿布の布も剥がす。

(魔力……は、もう十分回復してるな。先ずは腕で試すか)

 左手の包帯を解いていると「起きたか」とガルカから声が掛かった。

 アルベラは「ええ」と答えながら作業を続ける。

「今どこら辺?」

「貴様の国の東部だ。あと半日で王都に着く」

「え? 二日掛かるって言ってなかった?」

「ああ。一日半はもう終えてる。貴様が暢気に眠りこけてる間にな」

「………………一日半……寝てたの?」

「そうだ。良いご身分だな」

「アンタはずっと飛びっぱなし?」

「アホな事を言うな。食事も休憩も必要分とっている。なぜ俺がそこまで切り詰めねばならない」

 アルベラは目を据わらせ「そっすか」と零す。

「言い方はあれだけどアンタがそういうタイプなのは助かるわ。余計な心配は無用ね」

「俺より弱い奴が俺の何を心配できる。ぼろ雑巾のようになっていた貴様を誰が助けたか忘れたか。王都に行ったら頭の方も診てもらってはどうだ。……おっと、記憶力は元からだったか」

「あー、もう、誰が口の悪い魔族の事なんて心配するか! 足が疲れて到着遅くなったら私が困るでしょ! だから私の心配! おわり!」

 悔しまぎれに言い放たれたのが見え見えのお嬢様の台詞にガルカの口端が楽しそうにもちあがる。一方アルベラはむすりとする。左腕の熱が無くなっていることに気付くとの軟膏を拭い右腕に同じ処置を施し始めた。

(休憩もとったうえで『あと半日』……って、早すぎでしょ。ピリの里に行くまで八日掛ったのに。寄り道ありきだけど。―――ガウルトと宝探しの一泊二日を抜いても四日だしな)

 右腕がじんわりと気持ちのいい熱に包まれる。アルベラは背中をハンモックに預けると蚊帳越しに空を、そして左右に通り過ぎる雲を見た。彼女がそうしたのは景色を楽しむためではない。通り過ぎる景色から飛行速度を感じ取ろうとしてのことだ。

 ガルカに引かれ、ハンモックは彼の後方を追っている。本来なら横倒しになっててもおかしくないだろうに、性能上ハンモックは横倒しになること無く上は上のまま、底は底のまま上下を保っていた。

 周りにものが無さすぎてイマイチ速さがわからないが、多分今までこの世界で乗ったどんな乗り物 (生き物)より早いのだろう。

(新幹線の中を思い出すな。―――ん? そういえば)

「ねえ、ガルカが途中からいなくなってたのってどうして? あいつらの仕業? 何か足止め?」

「ああ? ああ。『狭間の壁海(へきかい)』に飛ばされた」

「……は?」

 アルベラはいつかの書物で見た、前世の地球にあたるこのコイン型の星――もっともこの世界では自分達の暮らす円地を「惑星」や「星」と呼ぶことはない―――を思い浮かべた。その図の中、コインの両面を繋ぐ側面(厚み)の部分に注目の矢印が向けられ、「狭間の壁海」と注意書きが施される。

「ここから近くて間に合ったがな。あいつ等も急ぎで転送先を組んだのだろう。流石に真反対の面にまで飛ばされれば俺も間に合わなかったが」

「ま、え? 狭間の壁海!?」

 あまりに常識離れしたガルカの返答にアルベラはがばりと身を起こす。驚きのあまり瞳と髪が一瞬魔力に灯った。

「『狭間の壁海』って、あちらの面とこちらの面の間の? 円地(サーク)の側面の? 反対側に辿り着くのは運次第とか言われるあの?」

「その壁海だ」

「はぁ!?」





 「狭間の壁海」は両面の海や気候や魔力がぶつかり合い天候が安定しない。

 その海を越え片面に行くのに最短でも一ヶ月、平均でも半年かかると言われている。最短の一ヶ月と言うのもそうそうある話ではない。かなりの手練れが幾つかの幸運を生かし起こせる奇跡のような話で、運が悪ければ半年以上壁海をさまよう事もあるという。

 途中点々と島はあるので陸に下りて休むことも可能だが、人が長期間暮らすには厳しい環境だと言われている。野菜や動物を育てるには厳しい環境のため、食べ物の類を外に頼らないといけないからだ。暮らしている者達もいるが極僅かで、生活レベルは島々でかなり差がある。―――とアルベラは学んでいた。





 彼女は理解が追い付かず額に手を当てる。

「ええと……あんたは壁海に飛ばされて、飛ばされたその日のうちにここまで戻ってきたと……?」

「そうだと言ってるだろ。飛ばされたと言っても大陸の東側だ。ここから東方の海の先に繋がる側だから側面の中で言えば最も近い辺りだった」

「……貴方がいなかったの、せいぜい三~四時間だっと思うんだけど」

「細かくは覚えてないがそれくらいかもな。自分がいる場所に気付いてからは頭に血が上っていたし……そういえば久々に全力を出したからスッキリしたな。たまの発散にいいかもしれん、また行くか」

 と、ガルカは珍しく機嫌よさげに笑う。

「……」

「何だその間は。俺が嘘を言ってるとでも思ってるのか?」

「い、え……。―――魔族がそんなに早く飛べるなんて初耳だったから……。こんな話聞いたら他の種族の人たちも私と同じ反応するでしょうね」

「言っただろう、俺は強い。俺がずば抜けて優秀なだけだ。他の魔族でも皆が皆こうではない」

「ああもう……ええ、そうだったわね……。ちなみに今まで壁海を越えた経験は?」

「二度往復した」

「二度!? 一人で!? 翼で!?」

「ああ。一度目は二〇の頃。二度目は四〇の頃か。一度目は死にかけてあまり覚えて無いな。二度目はそれなりにゆっくり辿ったから一~二か月だ。今回はそれらに比べたら確かに大分早かったな。壁海に入ってすぐの辺りだったのと気候が安定していたおかげだな」

「流石七十代のおじいちゃんは経験豊富ね……」

「貴様らの寿命と同じにするな。大体、魔族にとって生きた年数イコール老いではない。魔族にとっての老いは内在する魔力が朽ち始めたらだ。それが防げなくなったらいよいよ終わりの時だな」

「何が切っ掛けで魔力が朽ち始めるの?」

「さあ、色々だ。器が何らかの原因で保てなくなったり、神や世界から目をつけられなくなったり」

「じゃあ人によっては十とか二十とかでも急に朽ち始めちゃうこともあるわけ?」

「そうだな。珍しい話じゃない。特に生まれながらにアスタッテの匂いが濃い奴はその傾向がある。全部が全部ではないがな」

「またアスタッテか……。魔族の寿命って理不尽なのね」

「生きてる限りいつ死ぬか分からないのは皆同じだろ」

「確かにそうだけど……」

(にしても思ってた以上に化け物だったな……。壁海を翼だけで二往復……しかも二回目は一~二か月って……)

「ねぇ、そのスピードって今出せないの?」

「その道具も貴様等の体もあの速度に耐えられるとは思えんな」

「なんだ、残念」

 もしかしたら一瞬で王都に行けるのではと思ったのだがそう甘くはなかった。今のこの速さが適切なのであれば、このままでも充分に早いのだし別に良いかとアルベラは納得する。





 その後ガルカからなぜ竜血石を使用するに至ったのかを訊かれ、アルベラは蜘蛛女との出来事を話した。蜘蛛女を倒すもダークエルフにコントンが捕まってしまった事も話し、口の長い瓶を女のダークエルフが持っていなかったかとアルベラからガルカに確認するも彼の記憶は曖昧だった。女が首を拾いに来た際、片腕が無くなっている事以外は大して見ていなかったそうだ。

 コントンがいない事と、彼女の発言から何らかの形で彼(コントン)がダークエルフ達に捕まったという事は察していたガルカは話を聞いてそういう事だったかと納得した。

族長さんエリーの父にも聞いたけどピリ達を運んだ時に瓶は無かったって言ってたし……やっぱりユドラかボイが回収してったとしか……くそ……ボイの体……。またあそこに探しに行かないと駄目かな……ガルカに頼むのが手っ取り早いんだろうけど………………うーん………………)

 息を吐き右手の薬を拭う。次は顔だと彼女は鞄から鏡を取り出した。中を覗けば黒く淀んだ瞳が目に留まった。

(コントンの事で不安を感じたからかな。靄は出て無くても瞳はこうなってたか)

 「気が抜けないなぁ……」とぼやきアルベラは頬にや顎に薬を塗る。

「靄の消し方もできるだけ早く聞き出さなくちゃね……」

 ガルカは彼女の言葉に眉を寄せた。

「聞く? 誰にだ」

「同じ体質の人たち。ダークエルフの姉の彼女、ユドラディエって言うらしいんだけど、彼女に訊いてもいいし他に木霊やラビッタの男、顔が焼けてるヌーダの男と……ヘビの獣人……?」

「どこの情報だ」

「あのダークエルフの男よ。―――あ、ちなみにあの人ボイディゴって名前だったらしいんだけど」

「知るか」

「はいはい。で、彼の靄が私の中に入ったせいか、彼の記憶みたいのを夢で見るの。その夢だか記憶だかの感じだと彼等もこうなる事がたまにあって、そうすると何らかの手で体に入った余計な靄を処分してるみたいだったんだよなぁ……。木霊やラビッタの人たちに対するボイの認識だか感覚だか的に彼等もその対処法を知ってる。多分だけど」

「その対処法は見てないのか」

「見た……気もする……。けど曖昧で覚えてない」

「役立たずめ」

「はいはい。ごめんあそばせ。だから知ってる人捕まえて聞きたいの」

「放っておいて戻ることは無いのか。自分で制御する手は?」

「分からない。溢れるほどでなければ制御してるみたいだったけど、どうだったかな……曖昧ね。彼等の感覚的にはここまでになったら本当はアウトみたい」

「アウト?」

「勝手にあふれるほど靄を貯め込むと、その本人の頭がおかしくなっちゃうみたい。私が何ともないのはアスタッテ様の加護ね。多分」

「あの玉とその石が平気な奴の言葉だ。アスタッテの加護とやらに納得いくのが悔しいな」

「そ。伝わって嬉しいわ」

「―――木霊か。木霊なら呼ぶのは容易い。目に付くのを適当に捕まえてそいつに訊けばいい。意識を繋げていれば目的の奴が出てくるかもしれん」

「そう。なら木霊はそんな感じで行きましょう。―――彼、緑の玉が欲しいみたいだったし玉を話の種に呼び出せればいいんだけど……それかあの『瓶』……」

 アルベラは木霊が「なんとかの瓶」を探していた事を思い出す。

(多分コントンが入ってるのがその瓶だ)

「はぁ……、あいつらが瓶を取り合って潰し合ってくれたら楽なのに……」

「都合のいい妄想はほどほどにしとけ。とにかく先ずは王都なのだろう。途中で木霊がいれば捕まえる。そいつが玉をどうしたいのかは知らんが必要な情報だけ聞き出したら片付ければいい」

「頼もしい。でも相手に敵意が無いなら片付けなくてもいいんだけど」

「捕まえるのは俺なのだろう。なら俺のしたいようにする」

 アルベラは目を据わらせる。しかし実際に自分には木霊を捕まえられるか分からないので「はいはい、」と適当に頷いた。





 顔の処置も済ませ、アルベラはハンモックに身を預け「今日のお昼王都に着くみたい」という自分の一文を眺めていた。八郎と共有のスクロールに書いたものだ。多分八郎は眠っているのだろう、その文字への返答が直ぐ返ってくる様子はない。スクロールを巻き閉じ、腹の上に置いてぼんやりと王都に着いてからの事を考える。

(王都に着く前に髪染めておかなきゃね。あと顔の傷を消せるファンデか軟膏を買って……、恵みの聖女様への面会は急になっちゃったしできるかな。できなかったら直接癒しの教会に向かうか。……恵みの聖女様と面会が出来たならシャワー貸してもらえないかな……―――あ、スカートンには合わないようにしよう。話し込んじゃいそうだし腕とか見たら凄いびっくりしそう)

 アルベラは驚く少女の姿を想像し「きっと良い反応するんだろうな」と悪戯心に笑みがこぼれる。

(……休暇中の土産話は色々終わってから……ピリの翼の治癒については学園が始まってからでも探せるけど、靄については早めに何とかしないと…………)





 ***





「おい、起きろ」

 ハンモックが揺さぶられアルベラは目を擦りながら「休憩?」と尋ねる。いつ自分が眠ったのか覚えていなかった。辺りはすっかり明るくなっており、到着もそろそろだろうかと寝ぼけ眼で考える。

「着いた」

「は!?」

「ほら、下りるぞ。馬車を取るんだったな」

「え、ええ……。ええ、そう馬車……」

 アルベラは慌てて荷物をまとめ鞄から髪染めを取り出した。髪に粉を馴染ませ茶色く変色させると、両手の包帯を巻き忘れていたことを思い出す。

 彼女がわたわたと準備をしている間にガルカは人気のない路地へと目を付け、その道脇のさびれた建物の上へと降り立った。

 二日ぶりの地上は喜ぶ暇もなく、巻き切れていない包帯を巻いたり八郎にメッセージを送ったりと慌ただしいものとなった。



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