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三章 エイヴィの翼 前編(入学編)

154、ヒロインに水をかけよう! 3(八郎の訪問)

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「『魔族との混ざりもの』ってわけでもないようだし。はじめは『加護を受けられないなんて、哀れな子もいたものね』程度にしか思っていなかったんだけど。ここが加護で満ちてけば満ちてくほど、……ね、見まして? 清めの聖女様は近くだったし、よく見えたんでなくて? お二人の意見を聞いてみたいのだけど」

 癒しの聖女の言葉に、恵みの聖女の表情が不安に陰る。彼女がアルベラの事を示していたのは良く分った。

 最前列で聖女達を見上げていた緑の瞳。その奥に感じた、神の力に反発しようとする不穏な気配。

(アルベラ様……随分辛そうだったけど大丈夫かしら)

 恵みの聖女は胸の前で不安げに手を握る。

 恵みの聖女が口を開くか悩んでいると、先に清めの聖女が答えた。

「私は……」

 あまり言いたくない。だが、言っておくべきなのだろう。彼女の重々しい声から、そんな迷いが感じられた。

「……知人に似ているなと」

 癒しの聖女が興味を持ったように明るい声を出す。

「あら、似てる子がいらっしゃるの?」

「ええ。全く同じではありませんでしたが。……昔、清めの教会に居たのですよ。けどその子だって、人より少ないとはいえ神の御加護は受けられてました。教会は好かないみたいでしたけど……」

「ねえ、それってもしかして静養の重罪人の?」

「……ええ」

 清めの聖女がため息と共に頷く。

(それにあの感じ、前に行った南の村の……)

 清めの聖女は、記憶をたどり目を細める。

「へえ。あんな感じだったのねぇ」

 癒しの聖女は、興味深げに唇をなぞった。

「……って事は、あの子もいつか、同じような罪を犯してしまうのかしら」

「癒しの聖女様。冗談でもそんな事、おっしゃるものじゃありませんよ」

 癒しの聖女の性格を知る清めの聖女は、その言葉が「本当にただの冗談」である事を前提にし、柔らかい声でたしなめる。

 恵みの聖女の耳にも、その会話は届いていた。

 勿論、清めの聖女の話に出た「静養の重罪人」とやらの話も知っていた。恵みの教会でも、数年前に犯罪を犯す者が現れてしまっていることを考えると、「静養の重罪人」の件も他人ごとではない。軽んじてはいけない大きな前例だ。

 だが―――

「……ぁ、あの」

 恵みの聖女が遠慮気味に声を上げる。他の聖女達から、半透明のカーテンの中で、申し訳なさそうに小さく片手を上げている彼女のシルエットが見えた。

「恵みの聖女様?」

 やはり、分かりやすく興味の声を上げたのは癒しの聖女だった。

「あの。申し訳ないのですが。……実は私、あの方については交流がありまして、……あの体質の事も存じておりましたの。……その、……娘の、親しい友人でして」

(神の力がアルベラ様を避ける事、加護を受けられない事は存じていたのだけど……まさか祝福を受けてあのようになるなんて……)

 と、口には出さずに胸の内に留める。

「ですので、あの方については私が良くお話を伺って、何かお力になれるならフォローしていきたいと思っておりますので、……その」

「なるほどね。『私に任せろ』って?」

「はい。よろしいでしょうか?」

 清めの聖女が静かに頷く。

「恵みの聖女様がそうおっしゃられるのでしたら、私はそれでいいと思いますわ。けど、何かありましたら一人で抱え込まず相談してくださいませ」

 優しい言葉に、恵みの聖女は「ありがとうございます」と返し、安心し息をつく。

「そうよね。あなたはこれから仕事が増えるでしょうし。でなくても『清め』に集まる話は退治が大半。その老体にはきついでしょうものね」

 癒しの聖女の軽口に、清めの聖女は朗らかに「全く、そうなのですよ」と首を振り笑う。

「あ、ちなみに私もそれで良くてよ、恵みの聖女様。もともと、お二人に意見を求めたのだって、ここで裁きを決めたくてとか、見張りを付けるだとか、そういうお話をするためじゃなかったんですもの」

「そう、でしたか。良かったです」

「けど、見ての通り。清めの聖女様と違って私は身軽なの」

「……? はい」

「あの子を知ってしまった以上。何かあるようであれば私は直に動けるという事、胸に留めておいてくださいませ」

「……はい」

「あ、ちなみに即処分は致しませんのでご心配なさらず」

 癒しの聖女は微笑む。

「最前列の中央寄り……公爵様のご令嬢ってとこかしら。お偉い方ですし、先ずは拘束ね。幸いにも、魔力は常人並みですし、暴れられても無傷で捕らえて見せますわよ」

「……それは。何かありましたら……その時は仕方ないと思っています。―――ですが」

 恵みの聖女の、胸の前に組んだ両手に力がこもる。

「―――大丈夫です。あの方は、……あの子は、ちゃんといい子です。近くに道を示す者がいれば、『何か』なんて起きませんわ、きっと……」

 更に彼女は「それに」と続ける。その言葉は聞く者に強い自信を感じさせた。

「私の娘がついています。大丈夫です」

 恵みの聖女は吹き出し、くすくすと笑う。

「『親バカ』ね。良いじゃない。……信じてお任せさせて頂きますわ」





 聖女達が何かを話し合っている。

 櫓の外には声が届いていない。が、薄いカーテンの中で、発言した誰かへ顔を向け、それに反応するように体を動かす彼女らの様子から、周囲に居る者達は察することが出来た。

 声が聞こえないやり取りに、シスターたちは慣れたように、じっとその場に待機している。

 理事長は椅子に座り、秘書に渡された書類に目を通しながらたまに彼女らの様子を見て、話が終わるのを待っていた。

 秘書に肩を叩かれ、書類に目を下していた彼女は顔を上げる。

 丁度、癒しの聖女が櫓から降りきったところだった。清めの聖女と恵みの聖女もカーテンの中から出てきて、櫓の後ろにある階段を降りてこようとしている。

「お待たせいたしましたわね、理事長」

 癒しの聖女がニコリとほほ笑む。

「お話ならこの後のお茶会でもゆっくりできたでしょうに」

 理事長は和やかに返した。

「あら。ごめんなさいね。つい例の『聖女様の卵』の話で盛り上がってしまって」

「その話は私も詳しく伺いたいのですが。後でもう一度お願いいたしますね」

「もー。しょうがないわねぇ」

 癒しの聖女は冗談めかして息をついて見せた。

 清めの聖女と恵みの聖女も合流し、理事長へと挨拶を交わす。

 理事長は聖女達を引き連れて聖堂の奥へと向かった。

 白い扉へと向かい合い、手を触れて魔力を流し込む。すると、本来なら控室に繋がっているその扉は、細い金の装飾が施された、木製の扉へと変わる。

「どうぞ」

 理事長が扉を開き招き入れたのは、お茶とお菓子の準備された理事長室だった。

「ふふふ。それではお邪魔致しますわ」

 癒しの聖女が先頭に、清めと、恵みの聖女達も部屋へと入っていく。最後に理事長の秘書が、聖堂に残ったシスター達へ頭を下げ扉を閉じた。数秒後に木製扉が入れ替わり、本来の控室へとつながる白い扉へと戻った。

 聖堂には聖女を待つ数人のシスターたちが残り、他は速やかに各々の教会へと戻る身支度を進める。





 ***





「ごめんなさいね、スカートン。不安にさせちゃって」

「い、いや。アルベラが大丈夫ならいいんだけど。……けど、本当にそれ大丈夫なの? 本当に痛くない?」

「大丈夫大丈夫。本当に痛みとかはないから。それにここに来るまでで十分楽になったし」

 血の流れ出した片目に驚きつつ、二人はアルベラの部屋へと廊下を歩いていた。聖堂の退出順的に、二人より先に寮へ戻っている者達はいなかった。

(人目が無くてよかった……)

 アルベラは自室の扉を前にほっと息をつく。

「ありがとう、部屋の前まで送ってくれて」

「これくらい全然……。あの、ちゃんと休んでね?」

「うん。今日はたっぷりごろごろしとく」

 心配そうなスカートンを安心させるように、アルベラはくすりと笑って見せ、二人は分かれた。





『アルベラ!!!』

「んな?!」

「お嬢様?!」

 自室に戻ったアルベラは、扉を閉じた瞬間に、唐突に足元から飛び出してきたコントンに押しつぶされる。

 床にうつ伏せになったまま顔を上げると、自分の枕を手に持って固まるエリーの姿があった。とりあえず、今上に乗るコントンは後だ。

 アルベラは目を据わらせる。

「おい」

「お嬢様、そのお顔どうしたの! 目が赤い、ていうか血の跡?!」

「おいこら変態。お前がどうした。何してた」

 エリーは枕を小脇に抱えたままアルベラへと駆け寄った。

「おいこら」

「私の事はお気にせず、良く見せてくださいな」

 しゃがみ込んで、心配そうにアルベラの顔を覗き込むエリーに、アルベラは精一杯腕を振り上げる。

「気になるわ馬鹿!」

「ああん!」

 アルベラがビンタをかますと、エリーは「はんなり」と床に倒れ込み、嬉しそうに叩かれた頬に手を当てた。

「で、コントンは何?」

 自分の上で「はっは」と尾を振る、やけにテンションの高い犬はどうしたというのか。

『アルベラ ニオイ スゴイ。ドウシタノ?』

「す、凄いって?」

『イイニオイ オイシソウ ……イイニオイ オイシソウ!!』

「なんで二回言った」

(祝福を受けた後なら『臭い』と言われるもんだと思ってたんだけど……。目から血が出たりエリーが枕の匂い嗅いでたりコントンに美味しそうって言われたり……)

 アルベラは額に手を当て、深いため息をついた。

(……キャパオーバーだって)

「コントン」

『ウン?』

「ハウス」

 アルベラは地面を指さす。

 コントンはぶんぶんと尾を振ったまま、「ワン!」と一声鳴いてアルベラの影へとずるりと飛び込んだ。

(通じるんかい……)

 アルベラは再度ため息を漏らす。 





「それで? これはなんです?」

 椅子にアルベラを座らせ、エリーが血の滲んだ片目を開いて確認する。どうやら、瞼や眼球には外傷はないらしい。

(まあ、痛みも何もないわけで)

 念のためにと目薬を差し、アルベラはごろりとソファーに横たわる。

「聖女様の祝福を受けたの。……強烈だったわ」

「まるで攻撃を受けたように仰いますね。普通ならむしろ元気になるんですよ」

「そうだけど、私の体質的に駄目みたいね。今日分かった。こんな症状初めて。これからは聖女さま立ち合いの聖堂イベントは参加しないことにする。……聖堂ってだけでもごめんかも」

「アスタッテ様とやらの影響ですか? 流石魔族が称える神様ですね。なんでそんなのの加護を受けられているのやら」

「……さあね。エリーは魔族の血混ざってるのに聖堂とか神様平気よね。何で?」

「まあ、私の場合は外にもたくさん混ざってますし?」

「ふーん。血が薄いから、と」

「授業では、聖職系の魔法を教わることもあるんですよね? 大丈夫なんですか?」

 アルベラは横になったまま、ソファーに置いていたスクロールを開きながら適当に返す。

「そこらへんはまあ、その時々で。休める時は休むかも」

「仮病ですか?」

「まあ、その時々……ん?」

 目を通しているのは八郎とのやり取り用のスクロールだ。書いた内容がお互いに共有される。

 今日の式前にガルカに言って、このスクロールとの伝達用の物を八郎へ送り届けさせたのだ。そこには、自分の書いた内容の後に、自分が欠いたものではない文字が書き足されていた。

 どうやら翼でひとっ飛びし、既に八郎の元に届いていたらしい。

 スクロールに書かれた内容に、アルベラは顔をしかめる。

「あら? ハチローちゃんからもう連絡でも?」

「うん……」



『庭にて待つ』



「……庭?」

 その文字の横に寮の中庭の簡易的な地図と、そこにあるガゼボに矢印が付けられ「ここ」と示されていた。その横に「待機済み。いつでも来てね」と小さく書かれていた。

(なんでお前が寮内の構造を知っている。……っていうかこれ、『無断侵入』だよね。学園の警備ガバなの? それとも八郎だからできたの? ていうかスクロール受け取ってから来たとしたら、ガルカにしろ八郎にしろ、脚が早すぎるんだが……)

 いろいろと突っ込みどころが多い。

 アルベラはくるくるとスクロールを巻き閉じ、暫し無になった顔で仰向けになり天井を見つめた。

 部屋に返ってきたばかりだというのに。まだちっとも休めていないというのに

 「もう!」と小さく溢し、アルベラは上体を起こす。

「お嬢様?」

「エリー、回復薬頂戴」

「はあ?」

 受け取った珊瑚色の液体薬を飲み、アルベラはその小瓶をエリーへ返す。

「今から庭行く。八郎が来てるって」

「は?」

 エリーも少々驚いたようで、笑顔のまま固まった後首をかしげた。





 言われた通り庭に出て指定されたガゼボへ向かう。

 そこには見知らぬ生徒が座り、アルベラを見つけて中から手を振っていた。

(は?)

 誰? と思うが、もしかしてアレが八郎か? とそのままガゼボの正面に立ち彼を見る。

 知らぬ生徒が「とりあえず」とちょいちょいと手招きをするので、招かれるままガゼボの中に入った。

「は?! 狭っ!」

 狭いのは八郎側の席だけだ。

 そこには、いつも通りのオタクコスチュームの巨体があった。

「認識を変える魔術でござるよ。もしかして変装をしてると思ったでござるか?」と、八郎が笑う。





 八郎の要望でエリーは一旦ガゼボから出てもらった。

 既に遮音の魔術もかけてあったようで、八郎は「あのご老人についての話だったようなので、聞きにきたでござるよ」と何のためらいもなく転生に触れる言葉を口にした。

「ああ、そうか」

 アルベラはスクロールに「彼に会った。話した」とだけとりあえず書いていたのを思い出す。

「じゃあ、少し長引くかも。エリーには部屋に戻っててもらうわ」

 ガゼボの中は魔術がかけられていて暖かかったが、庭は真冬の気温だ。ずっとそこにエリーを立たせているのは酷だろう。

 アルベラはエリーへ手を振り注意を引く。こちらへ視線を向けた彼女へ、アルベラは自分の部屋を指さした。聞こえてないのは承知だが、「部屋戻ってて」と口にすると、エリーは「承知いたしました」と言って、指示の通り部屋へと戻って行った。

 去っていくエリーを見届け、八郎が尋ねる。

「アルベラ氏はこの後の時間は大丈夫でござるか?」

 八郎の言葉に、アルベラは不機嫌そうに眉を寄せた。

「これから休息をとるところだったの! 聖女様の祝福を受けてダメージ大!」

「……おう。それは大変でござったな。そもそも何でそんなイベントに馬鹿正直に参加したでござる?」

「三聖女の威力を知っておこうと思って」

「……まあ、把握しておきたい気持ちは分かるでござる。で、その様子だと『もううんざり』ってとこでござるか」

「そ。……ちょっとした貧血みたいな症状と頭痛。目から血。どう?」

「『どう?』とは……。結構重症でござるな。拙者にはそれなりの防御がある故、ある程度の聖職系の魔力も魔法も魔術も耐えられるでござるが……」

 八郎の言葉に、アルベラは「流石私のチート」と言いかけ、例の賢者様との話を思い出した。

「あ、そう、『チート』……『チート』の件! 『アスタッテ様』が正式にあんたの事使いまわして良いって」

「は? 『私のチート』? ……何でござるかアルベラ氏。突然の独占欲でござるか? 拙者はアルベラ氏の剣でござるか? ……ぐふふ。いいでござるよ、任せるでござる! 拙者、『お兄ちゃん』の一言で何でもするでござる」

「良いから黙って話聞いてくださるかしら、『お兄様』」

 急にデレデレしだした八郎へ、アルベラは冷ややかな視線と言葉を向ける。

(こいつ、絶対『お兄ちゃん』と呼ばれること自体には興味ないんだよな)





 昨晩にアルベラが「アスタッテ様」と交わした話を全て聞き、八郎は「そうでござったか」と感慨深そうに頷いた。

 アスタッテ様とやらが人間であり、賢者であるという話。神との喧嘩の話。八郎の転生時の状況。アルベラ転生時の状況。

 それら全てを聞き、八郎は気になっていたことが解消されてスッキリしたようだった。

「では、あとはアルベラ氏が賢者殿の娯楽に付き合って『悪役』をこなしつつ、種とやらを回収し終えればいいんでござるな。聞いた感じ、アルベラ氏の悪役仕事がその種の回収やらとイコールで繋がっているみたいでござるし。……けど、それで救えるのってこの国だけでござるよな。他の大陸や、サークルのあちら側のことも考えると完璧な浄化は望めない気が」

「ああ。それは大丈夫だって。一番しんどいのがある地域を舞台に選んだって言ってたから」

「ほう。それ以外はほっといてもいい程度って事でござるか?」

「詳しくは知らないけど、……まあ、みたいね」

 八郎は「ふーん」と考えるように、たぷたぷとした顎だか首だか分からないものを撫でる。

 アルベラは、八郎の持ってきたお茶を手に口に運び、彼の様子を眺めていた。コップも八郎持参の物だ。いつも幾つか持ち歩いているらしい。

「少し気になるとこでござるが……どうしても気になって寝れなければ、『贄の拒否』を受けて自分で聞きに行くでござる。……にしても、『私のチート』とはそういう事でござったか。なるほど。拙者も自害の手前だったでござるし、アルベラ氏にとってはちょっと残念だったござるな。『特別な能力を持った人員』より、自分で好き勝手に使える能力の方が欲しかったでござろう?」

「あら、ソレ聞きたいの?」

 アルベラの意地悪な笑みに、八郎は「おうふ……」と謎の呟きをもらす。

「……まあ、別にこうなってるんだから、今更ね。私が八郎みたいに強かったら、とかも考えてみたけど、結局どっちもどっちだし。貴方が私に協力的な事とか、薬とか素材の知識が豊富な事とか、人脈とか、転生仲間の相談相手がいる事とか。諸々を考えると今の方がいい気もするの。メンタル的にね。一人で抱え込むより心強いじゃない」

 アルベラは頬杖をつき、コップをつつく。地面に固定されているはずのテーブルがガタリ揺れた。

「アルベラ氏、それはつまり『拙者がいて良かった』と」

 八郎が目を輝かせ、身を乗り出していた。

 その圧に、アルベラは身を引く。

「……う゛。……ま、まあ、そういう事、に、なるわね」

「つまり、拙者を信頼して信用して唯一無二の友であると認めてくれていると」

「あんたが何を熱くなってんのか知らないけど、信用も信頼もしてるってば。……今更何なの」

 アルベラは若干恥ずかしそうに、そして酷く暑苦しそうに身じろいだ。

「おっほー! 改めてそう言われると嬉しいでござるな! 拙者、精一杯力になるでござる。アルベラ氏、どんと頼ってくれでござる」

「……へえ。なら遠慮なく」

 アルベラはお茶を口に含み目を逸らす。

 そして内心、「言質げんちは取ったからな」と、これからどう働いてもらおうかと思考する。

 恥ずかしそうに眼を逸らしたアルベラの後ろ。庭を歩く一人の生徒の姿が目に入り、八郎は目を凝らした。

「……? ……?!」 

 上がっていたテンションが一気に吹き飛び、八郎は呆然と動きを止めた。

 彼はじっと庭を見つめる。

 半開きになった唇が、動きもせずに「……ゆい」と小さく溢した。

「え?」

 僅かに聞こえた声にアルベラが顔を上げると、八郎の顔には「信じられない」と言った表情が浮かんでいた。

 その視線を追って、アルベラは後ろを振り返り庭に目をやる。



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