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三章 エイヴィの翼 前編(入学編)
150、寮入り 6(ウォーフの挨拶、ルーのお誘い)
しおりを挟む寮長の軽い挨拶とやらも済み、皆思い思いの時間を過ごす。
まだ晩餐会は始まったばかりで、流石に寮に戻るものの姿はなった。
キリエやルーラたちと談笑していた所、大きな影がかり、アルベラは顔をあげた。そこに居たのは百八十㎝はあるであろう、がっしりとした体つきの、青年にも見える少年だ。
「よう、ディオール家様。お初にお目にかかる」
大きな彼は、見た目に似合わず美しい所作で頭を下げる。
「あらあなた、さっきジーンといた」
アルベラも「はじめまして」と、相手に習い、社交界でするような馬鹿丁寧な挨拶を返す。彼を見上げ、目を細めて微笑んだ。
「ウォーフ・ベルルッティ様ですね。アルベラ・ディオールです。どうぞよろしくお願いいたします」
「なんだ。名乗る必要ないのか」
「ええ。存じております」
(知っていますとも、ヒーロー様。こちらから会いに行く手間が省けたな)
アルベラの視線を受け、ウォーフは口の端を持ち上げる。
「ご令嬢様、随分と好戦的な目だな? 同爵位家への対抗心でもお持ちか?」
アルベラは口元に手を置く。
「あら、私そんな顔をしてまして? ただ面白い方が挨拶をしに来てくれたなと思っただけなんですが」
「ハハッ。俺の家系は代々、人の戦意に敏感なんだよ。あんたが俺を見てどう思ったかは知らないが、そこに戦意があったのは確かだ。………だがなんだ? 卿から聞いていた印象と少し違うな。ディオールのお嬢様は泥臭いことがお嫌いな腑抜けだと聞いていたんだが。………昼間の水のアレを見るに、泥臭い事を避けてきたわけじゃなさそうだよな?」
肩をすくませて、ウォーフはアルベラを見下ろす。
「水のアレが何かは存じ上げませんが、初対面で『腑抜け』とは。そちらの『卿』とはいったいどちらの卿様でして?」
「覚えてないってか? まあ何でもいいさ。なかなかいい壁だったぜ。若い兵士になら通用するレベルだ。何の努力なしにできるもんじゃない」
(姐さんの見立てと同じレベルか)
アルベラは反応は返さず、内心でただ納得する。その顔が何を考えてるのか読み取れず、ウォーフは方眉を上げた。彼が楽し気であるのは違いない。
「なるほどな。ディオール家のお嬢様って感じだ。―――『卿』はあんたのおじい様だよ」
「おじ………」
アルベラは反射的に苦い顔をする。
「もしかして、ブルガリ―伯爵の事でしょうか?」
ブルガリ―伯爵。北の辺境を任された、レミリアスの父であり、アルベラの祖父だ。ちなみに入学祝いだとかで、今週末ストーレムの公爵邸に来る予定だ。そのためアルベラは、この週末早速帰郷する事となっている。
「ああ。なんだ、人間らしい反応もするんだな。………伯爵からは『腑抜けな孫』だと聞いていた」
「よく存じてますわ。………他に『我儘』『高慢』『高飛車』な女の予備軍だとも仰っておられませんでした?」
「なんだ、本人も聞いていたのか」とウォーフが笑う。
『我儘で高慢で高飛車なだけの女』。それはブルガリー伯爵が酷く嫌う物の一つだ。
アルベラが小さい頃、彼女を溺愛する父へ「そういう大人には絶対するな」と釘を刺しているのを何度か聞いた。そして彼自身、アルベラにそういう性質がある事を、幼い彼女の内に見抜いているようだった。
その心根を何とか律そうとしたのか、それとも単純に男の子を期待していた悔しさを晴らすためか、祖父はアルベラに剣を持たせようとした事もあった。
だが、幼い彼女が武芸に興味を持つ事は一切無く、さらには厳格な祖父を怖がり、七~八歳の頃には祖父の姿を意識して避けるようになっていた。
それから祖父は、アルベラの事をもう諦めたかのように構わなくなったのだ。自分を怖がる子供を連れて、わざわざ遠出までして顔を出しに来る事は無いと。ずいぶん前に父の部屋で偶然見た手紙に、そんなことが書かれていたのを覚えている。そしてそれを見た当時の自分が「よっしゃあ!」と思った事も、アルベラははっきり覚えていた。
(さて。今の私はおじいさまにとって腑抜けと映るかマシになったと映るか。………私がおじいさまを前にして、まだ怖いと思うのかどうか………)
正直幼い頃の印象が抜けきれておらず、週末の事を思うと気が気ではなかった。
「ブルガリー伯爵は土地柄、騎士や兵士の育成に力を入れているからな。年に数回、ベルルッティ家が稽古をつけにあちらへ出向いてやってるんだ。そういう話、伯爵から聞いて無いか?」
「ベルルッティ家の話は初耳でしたわ」
(そもそもお爺様とのコミュニケーションを避けていたわけだし……)
「そうか? まあそういう事で、アルベラ嬢のおじい様には良くしてもらっている。これからよろしくな。あと、」
彼はニヤリと笑う。
「できれば手合わせもしてみたい。ちゃんと手加減なら心得てるぜ? 怪我したら手厚い介抱だってしてやる」
「あら、勇ましいです事。手合わせは別として、ご校友としてならよろしくお願いいたしますわ、ベルルッティ様」
「ウォーフで良いさ」
「そう? では『ウォーフ』様」
去り際、彼は肩越しに「あんたはアリだ。今度茶でも」と言って去っていった。
隣で他の御令息と言葉を交わしていたキリエが「アリって何だ」と、心の中闘志を燃やしていた。
去っていくウォーフの背を見送りながら「案外まともに会話できるタイプだったな」と意外に思う。
(もっと荒々しくて落ち着きがないかと思ってた。好戦的で女好き。確かそんなキャラだっけ。まあ、大体あってるか)
アルベラが見送った今まさに、彼は先輩と思しき女性に声を掛けて談笑していた。
(同じ女好きでも、ルーとはまた違うな。ウォーフはワイルドに力押って感じ。ルーはあれで物腰柔らかい方だったのか)
当然だが、女好きにも色々あるのだな、と変な実感と共に奥深さを感じた。
「よう」
「………」
(でたな。女好きその一)
丁度思い浮かべていた顔が現れ、アルベラは目を据わらせる。
ウォーフと話している間、スカートンやキリエ達と挨拶を交わしていたのを視界の端に捉えていたので、なんとなく次はこちらかとは思っていた。
「なんだ? もう疲れたか?」
「ええ。少しね」
アルベラは丁度通りかかったスタッフへ空のグラスを渡し、代わりに甘めのアルコールをもらう。
それを一口含み、会場を見回した。
「余裕があれば一周してみようかとも思ってたんだけど、なんかもうどうでも良くなってきちゃった。必要なら授業で顔を合わせるし、同級生とはその時挨拶すればいいかって」
(まあ、主要人物全員の顔を確認できたからってのが大きいけど)
「は? 俺はもう会場の女子全員と挨拶済ませたぞ? 怠慢じゃないのか?」
「は?! 正気?!」
「何驚いてんだよ。そんなの余裕だ。俺は王族様だぞ?」とルーが冗談めかす。
「王族がそんな能力持ってるなんて存じませんでしたわ」とアルベラは呆れる。
「で、お前は? 王子様や騎士様との挨拶はもう済んだのか?」
「殿下とジーン? まだだけど、後でタイミング良ければ挨拶するかもね」
「ははは、良いのか? 婚約者候補がそんなんで」
「あれ見て行こうとは思わないわよ」
アルベラはラツィラス達の方をグラスで示す。そこには、先客の挨拶が終わるタイミングを見計らうご令嬢やご令息が、素知らぬ顔をしながらラツィラスの周りで待機していた。
ラツィラスの隣で、ジーンが順番待ちをしているだろう人々を見渡し、うんざりという顔をしている。「一人で帰ってやろうか」とでも考えてそうな彼の姿に、アルベラはクスリと笑みを溢した。
「あの見えない行列に並ぶのも踏み倒すのもごめんね。………それに、番人がそこで目を光らせてるし、」と、アルベラは近くにいるスカートンを見る。
彼女は長い前髪の下、目を丸々と見開き、王子の周囲を見張っていた。
「あ、あれ………? あの子、さっき挨拶した時あんなんじゃなかったけどな。もっとこう儚げでさ」
「恋か憧れか尊敬は、時として人をアサシンにするの」
「アサシンなのか?」
「さあ」と、アルベラは適当に返す。
ラツィラス達を眺めたついでで周囲を見ると、ミーヴァや他の生徒と談笑しているユリの姿が目に入った。
彼女もアルベラの視線に気づき、微笑み返してくる。アルベラはそれにただ微笑み返す。ほほ笑みながら、「なにこの中途半端な関係、嫌だな」と内心で総毛立つ。
「なあ」
「ん?」
「疲れてるならちょっと俺と風に当たりに行かないか?」
「バルコニー? いいわよ」
「いいや。庭だ」
「庭?」
「ああ。庭に出るなとは言われてないからな」
「まあ………確かに」
ルーに先導され、アルベラは後に続く。
「ちょっと庭に行ってくる」
そこに居るスカートンかキリエか、その両方かにそう言い置く。そして、エリーへと目を向け指で庭を示す。エリーが理解した様に笑顔で頷いた。
食堂を出てすぐの階段へと向かっていく二人の姿を、キリエが心配そうに目で追う。
それを見たルーラが、ニヤリと笑んでキリエに耳打ちした。
「キリエ様、まさか聞き耳をたてに行こうとか、無粋な事考えていらっしゃらないわよね?」
(………う)
キリエは苦しそうに笑い、持ち上げそうになっていた足を何とかその場に縫い留めた。
女生徒に声をかけられ、談笑していたガルカが顔を上げる。話も丁度いい区切り目だったので、「ご主人がお呼びみたいです」と言って、女生徒たちから離れた。
食堂から出ていくアルベラとルーの姿に、当たり前のように後をついていこうとするが、階段に足をかける前にその襟首が誰かに掴まれた。
エリーだ。
「無粋よ」
彼女の瞳がギラリと光る。
「知るか」
ガルカは口の端を吊り上げてエリーを睨み返す。
「―――何で、魔族とエルフが仲良くしてるの?」
そこに真っ白な人影が立っていた。彼は今しがた廊下の奥から来たようだ。これから晩餐会に参加するのか、お手洗いか何かで一時的に席を外していたのか。お手洗いなら食堂の中にもあるので、わざわざ廊下に出る事もないはずだが。
「なんだ貴様」
ガルカは彼を睨みつける。白い人影、セーエンは魔族を無視して、エリーへ目を向けた。
「エルフって言っても、混ざりものみたいだけど。………あ、気にしないで。別に嫌味じゃない。俺も同じだから」
「エルフの混ざりもの、か………。ほう」
ガルカはエリーを見上げる。
彼女は「文句ある?」とガルカにほほ笑む。
セーエンはにらみ合う二人を暫し見つめると、興味が逸れたのかその場を通り過ぎ、食堂へと入っていった。
「神臭いガキだ」
ガルカはエリーの手を払い除け、襟首を正す。そして当たり前な顔で一段下の階段へ足を下した。
「待ちなさい」
エリーの長い腕が伸び、ガルカの首を掴みなおす。
「だから、無粋だって言ってんでしょう?」
そのこめかみには青筋が浮かんでいた。
庭は当然だが寒かった。
上着も何もなく、軽い気持ちで出てきたアルベラは両手で体を抱きしめる。
(さ、さぶっ!!)
「ははは。その格好でついてきて、何の準備もなしかよ。ほれ」
きらりと光る何かが放り投げられ、アルベラはそれを咄嗟にキャッチする。
細い金のブレスレットだ。月明かりの下、表側の中心を赤いラインが走っているのが見えた。ブレスレットの内側には魔術印が輝いている。
「へえ、魔術具」
「防寒のな」
「私にこれ渡して、貴方は寒くならないの?」
「予備だよ。季節的なものはしっかり備えてるさ」
ルーは「当然」と肩を竦める。
「そ。じゃあ遠慮なくお借りしますわ。ありがとう」
アルベラがそれを手にはめると、今しがたまで感じていたはずの寒さが一瞬で感じなくなった。適温。完璧な温度調節だ。
「やるよ」
「へぇ。太っ腹ね」
「はした金だからな」
「流石王族様」
「だろ?」
彼のどや顔を、アルベラは「はいはい」と受け流す。
バルコニーを見上げれば、食堂からの明かりを背にし、外を眺めながら話し込んでいる人影が見えた。バルコニーの手すりやパラソル席は満席、と言った感じか。
庭にも点々と明かりは灯っているが、寒いせいか人影は見えない。
雪解けの魔術で整備された道を歩きながら、ルーが呟くようにぽつりとこぼす。
「なあ。お前、俺の婚約者にならないか?」
「………え?」
アルベラは脚を止める。振り返ったルーの目を、その真意を伺うように見つめる。そしてもう一度声を出す。
「え? ………何で?」
それは何とも色気のない言葉だった。
今日の予報は晴だったはずなのに、急に雨が降ってきた。そんな時に零すかのような、少し不服さも孕んだ言葉。
ルーはアルベラへと向き合い、肩をすくめた。
「なんだよその言い方。ムードねーな。お前、あいつの第一妃狙ってるわけじゃないんだろ? てか驚いてんのか?」
「………そりゃ、まあ………驚いてる」
「あいつの第一妃」、つまりはラツィラスの婚約候補の話だ。
王族の婚約者候補達が、他に婚約者を作ってもそれは不敬とはみなされない。候補者の内に、別の婚約者との話が成立することはよくあるのだ。
または、元々婚約者がいる身であっても、候補者の話を受けることもざらだ。もしも候補者の話が進展し、正式な婚約者となった場合は、ご令嬢側は当然のようにもう一人の婚約者との話を破談とする。婚約者側も、王族の婚約者と正式に認められた女性からは当然身を引く。誰も好き好んで王族と一人の女性を奪い合おうなどとは思わない。
「今までの付き合い的にも、俺、結構良い線いってると思ってたんだけど―――」
ルーの声は軽い。その顔は相変わらずへらへらして見えた。その姿に呆れつつも、アルベラは「彼らしいな」と納得してしまう。
ルーは片膝をつきアルベラの手を取る。
「―――ダメか?」
「正直、あなたの事は嫌いじゃない………」
「へえ、それで?」
「………けど、良く分らないのでお断りしておくわ」
アルベラはさらりと自分の手を回収し、体の後ろに引っ込めた。ルーは「ちぇ、」と笑って膝を払う。
「もっと悩ませられる自信はあったんだけどな」
「あなたのその自信満々なところとか、世渡り上手な感じとかは人として『尊敬』はしてる」
「ん? あと顔もだろ?」
「そうね。いいお顔です事」
「ははは。照れるな」
「どこが。………ていうか急すぎだし、警戒されて当然だと思わないの?」
「全く。そもそも断られる事自体かなり低確率と見積もってたな」
ルーはまさに「HAHAHA」という表記の合う笑い声をあげる。
(本当に清々しい)
「後で惜しくなって縋りついてきたら考えてやるよ。いつでも言いに来い」
「それはありがたい。絶対無いとも言い切れないものね」
アルベラも軽いノリで微笑み返した。
(ちぇ。随分落ち着いたもんだな)
ルーは頭を掻く。
求婚されたというのに、いつもと変わらない軽口を返してくるご令嬢。彼女には一切舞い上がってる様子はない。
彼女が自分を心から無下にしたわけでも、高慢さからそうしているわけでもないのが伝わってくるので、断られた事に関しては「まあいいか」と軽く思う事ができた。
「お前さ、」
「ん?」
「気になってる奴いるだろ」
「自信のある言い方ね。なんでかしら?」
アルベラは顎を持ち上げ、見下ろすような目をする。
「俺を断るなんて、他に気持ちを置いてる奴が居るか、頭か心を病んでるかだ」
「へー。成程ー。サールード様も随分病んでいらっしゃるようで。………外はお寒いですものね。中に戻りましょうか。温かくして早めに寝ることをお勧めしますわ」
「お気遣い痛み入ります。けど冗談はともかくだ。………気になってる奴がいるっていうのは満更でもないんじゃないか?」
彼は目を細めて笑った。オッドアイの片側が小さく赤く輝いた。
アルベラは彼の自信ありげな表情を眺め、首をひねり息をつく。月を眺め、しばし沈黙した。
そしてまた首を傾げ、そしてまた息をつく。
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………誰?」
真面目な顔で見つめ返してきた彼女に、ルーは一瞬「は?」と間の抜けた声を溢す。
「え、いやいやいや。そんな不思議そうにされると逆に怖いんだが」
「怖いとは失礼な。………それで?」
アルベラは業とらしくルーの元へ体を寄せる。自分より背の高い彼の胸へ手を当て、下から彼の顔を覗き込む。
「ルー様は、私が誰に気があると思ったのかしら。教えて下さる?」
囁くような問いかけ。緑の瞳が揶揄う様に細く輝く。
新入生であるはずのそのご令嬢は、地位も年も上の先輩へ向け、なんとも大人びた笑顔を浮かべる。
余裕を感じるその笑みに、ルーは年上の女性から弄ばれてるかのような錯覚を覚え内心面食らった。でなくても、大抵の年上女性だって、王族の自分と話していて浮かれる者は多いのだ。
後輩であれば尚更、自分にこんな顔を見せられるほど余裕のある者など、今までいなかった。
(………エリーさんの入れ知恵か? ………くそ)
「くくくっ」と彼は笑い、両手を上げて身を引く。まるで「降参」のポーズだ。
「素なのかすっとぼけてんのか知らないけど、余計な事は言わないでおくわ。余計に意識させるオチになるの嫌だし。俺は他人の、俺に向けて以外の恋愛を応援する趣味はねーから」
アルベラは眉を寄せると、「本当にいい性格してるわ」と、やや前かがみになっていた身を起こす。
「折角なら誰と思ってるか聞いときたかったのに」とぼやきながら体を伸ばした。
「あいつもさ」
「ん?」
「お前を第一妃にするつもりないっぽいけど」
どうやらラツィラスの話のようだ。
「そうなの?」
「ああ。………けど、多分他の方法で手に入れようと考えてると思うぜ。今のところ、目をつけてるのは、俺とあの騎士様とディオール家のお嬢様だ。………まあ、あいつが王様に成れたらの話だけどな」
「なにそれ」
ラツィラスが王様に成れたら? それ以外があるとでもいうのだろうか。
アルベラは、彼が王になる以外の未来を考えたこともなかった。原作では彼は時期王だ。そうならないエンドは無いと聞いている。
そしてこの世界でも。他に兄弟はいれども、一番の王の器と称されてるのが彼だ。王様の様子や、我が父や母の様子からも、それは伺えた。そして幼い頃から受けてきた、スレイニー先生の授業でも。王権の話で、時期王は彼だろうと聞いていた。
「気になるか?」
「ええ。今の話もろもろ」
何とも大真面目な、緊張感のある彼女の返事に、ルーは嬉しそうに「くくく」と笑う。
「じゃあそれはまた今度。機会があればゆっくりしようぜ? 俺の部屋に招待するさ。だからお前も招待してくれよ。何なら他のご令嬢方をお誘いの上でも良いな。あ、エリーさんも忘れずに頼む」
「ちょっと、私に接待させる気?」
「なんだ? 二人っきりをご希望か?」
悪戯っぽく目を細め見下ろしてくるルーに、アルベラも目を細める。こちらは不服そうに。
「………本当尊敬するわ、」
彼女の言葉に、ルーはまた嬉しそうな笑みをこぼす。
「だろ?」
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