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一章 10歳になって

9、人攫いと美女 3(魔術)◆

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 光を放つ種の上へ水をかけると、ミーヴァはその上へ手をかざし静止する。

 ミーヴァがまた小さく何かを呟き始めた。

 少し置いて掌に青い光が灯り始め、それに呼応するように種の明かりが明滅し始めた。

「……こい……こい……来い」

(『来い』?)

 さっきから彼がぶつぶつと言っているそれが、呪文ではなく何かにお願いでもするように、「来い」と言っているのだとアルベラは理解した。

 「あ」とユリが声をあげる。

 アルベラが種に視線を戻すと、幾つかの種が既に発芽していた。

 視線の先で更に土に植えた種から「ぽんっ」と飛び跳ねるように新芽が生える。

 紫がかったギザギザとした葉は、アルベラが日本でも見たことあるような「ヤブガラシ」だった。

(何だ、同じ――)

 と、思ったが……。

 ―――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!

 ―――ズルズルズルズル!!!!!

 可愛らしく芽吹いたかと思ったそれは突然に豹変し、思いもよらない速さで太い蔓を絡めあいながら太陽光へと向かい腕を伸ばした。

「うわあ!」

 予想外の勢いだったらしく、ミーヴァは葉に弾かれ尻餅をついた。

 根が地面を割って広がり、地中の奥底に食い込んでいくかのような音と、蔦が壁を這い上りあがる音が体の芯に響く。

 あまりの勢いに一瞬地面が揺れたとも錯覚したが、それは多分気のせいだ。

 蔦の先がなだれ込むように蒲鉾型の窓の外へと腕を伸ばしていく。

 格子に絡まった蔦は成長の勢いに任せ幾つかの鉄棒を引っこ抜いて外へと持って行っていた。

 その後、小窓の外に出た蔦の先が数十秒の間ビタンビタンと地面を打ち鳴らし蠢いていた。

 蛇やミミズを連想させる動きに、アルベラは少々気味悪さを感じたが、やがてその成長は緩やかになり、新しい葉をゆっくり開かせつつ完全に動きを止めた。

 今はもう、何の変哲もないちょっと太めな蔦がただ日向ぼっこをしているのみだ。先ほどの激しい動きの後だと何とも平和的な光景に思えた。

「あらまぁ……驚いた……」

 様子を見守っていた美女が呟く。

(あの子、あの年でもう魔法だが魔術を使えるのね……)

 だがこれは計算外だ。

 ここで事が起きれば強行突破である。

 女は階段の方へ目をやり、耳を澄まして上の様子を伺う。





 ***





「おい、今下で妙な音がしなかったか?」

 上の階ではテーブルを囲み男たちがポーカーを興じていた。その中の一人、ホネカワが声をあげる。

「おいおい。お前、こんな中途半端なところで切り上げる気か? まさか逃げる気じゃねーだろうな?」

 帽子を目深くかぶりった男が黄色い歯を見せて笑う。

「けど感じただろ、今の振動。だれか見て来いって」

「今のはギードラゴンの馬車の振動だ。音だって祭りの花火だろ」

「わかんねーだろ。もしかし何か下で起きてたらどうする」

「本当に言ってんのか? あんなガキに何ができる。あんな何もねー場所から自力で逃げ出せるわけがねぇ」

「だんなぁ。今まであそこから出られた奴なんていねぇし、お前の気のせいじゃねーか?」と、二人のやり取りに青髭の男も参加する。

 ずっと黙っていたもう一人、 ホネカワとは別の細身でスキンヘッドの男も口を開いた。

「……けどまぁ、今回は一人魔法が使えんのが混ざってただろ。あの眼鏡のクソガキ。子供の素手じゃどうにもならねぇだろうが、魔法が使えりゃ話は別だ」

「ああ、そういえばそうだったな。けど大した力じゃなかったぞ。あの牢をぶっ壊して出てくるのは無理だって。ましてやここを通らないと外にはいけねぇ」と帽子の男。

 彼の言葉に、青髭もスキンヘッドも頷く。

 ホネカワは「まあそうなんだけどよ……」と舌を打った。

「大丈夫だって、そう気を張るな。まぁ気持ちはわかるぜ、今日は上玉が揃ってる。――良い値で売れるぜ、特にあのお嬢様」

「あぁ、あの派手なのか。どこのガキかは知らねぇが、あれは良い儲けだな。身に着けてる物もいい。服や靴も、売ればいい足しになる」

「どこの家の子供だろうな」

「さぁな。けど金持ちの家には違いねぇ……」

 仲間たちの会話に、ホネカワは神経質そうにそわそわと下の階や扉の方を見る。辺りで誰かが聞いているのを警戒しているようで、彼は声を少し低くして言った。

「お前ら……金持ちならなおさら、身代金とか馬鹿な事言い出すなよ。親には絶対知られるな。この話が少しでも外に漏れればツーファミリ―が黙っちゃいねぇ」

 「あぁ……」とうんざりしたように帽子の男が頷く。

 スキンヘッドも「もちろんだ」と返す。

「あいつらよそ者には厳しいもんな」

「しかもかなりしつこいらしいぜ。みかじめ払わずとんずらしたやつが王都を挟んだ反対側まで逃げたのに追いつかれて沈められたって」

 他の二人の言葉に青髭は「へ、へぇ……」と少々おびえ気味に相槌を打った。

「はぁーあ。ガキどもさっさと金に換えて、女と一緒に酒でも飲みてぇもんだぜ」

 帽子の男は平たい酒瓶を口に運び文句を垂れる。

「ドグズのボスはあんな美人捕まえたうえ、俺らへの分け前ケチって薬につぎ込んでるって話だろ。薬は売るとか言って俺らには一切寄越さねぇし……」

 「気持ちはわかるぜ。むさ苦しい空間だ、全く」とスキンヘッドは帽子の男に同調した。

「けどあの薬は確かにすげぇよ。前の町の警備団の奴ら……、お前らも見てればよかったのによ。凄かったぜ、ボスのあの暴れよう」

「へいへい、もう聞き飽きたっての……」 

 ポリポリと頭を掻き、青髭は「おめぇらよぉ」と口を開く。

「そんなに女をご所望なら、姉さん呼んでくっか?」

 彼としては気を利かせたつもりだったのだが、他の三人は即答で「辞めとけ」「今はねえだろ」「はっ倒されるぞ」と却下した。





 ***





 蔦は大人の腕と同じくらいの太さの物が四~五本絡まって窓の外へと続いている。

 あとは格子がどうにかできれば、この蔦を伝って全員抜けられそうである。

 ミーヴァは残った格子についても考えていた。

 蔦を上り格子の元まで行くと、彼は窓に水差しを置いた。指を水で濡らし窓の周りにまた何かを描き始める。

 格子をはめている部分はレンガで枠を作っているが、その周りは土壁だ。ミーヴァが何かを描いているのはその土壁の部分である。

 彼は印のような文様のような物を描き終えると、器用に蔦の上でバランスを取りつつヤブガラシの種の時同様土壁へ手をかざし集中する。

 掌に光が集まり始めると、格子の周りも淡く明滅し始めた。

 ミーヴァが残った水を全て格子周辺へかけると、蔦がゆっくりと動き始めた。

 だがその動きは先ほどより緩徐かんじょだ。根元からではなく、土壁の湿った辺りから水気を吸って伸びるように、蔓はまた太陽へ近づこうと成長を始める。

 日光へ貪欲な蔦の動きとともに、格子にも変化が現れた。

 蔦に絡まり引っ張られ、格子がはめられたレンガの枠ごとズボリと外へ抜けたのだ。

「わあ……」

 子供たちから小さな歓声とも感嘆ともとれる声が上がった。





 まずは少女二人が外へ出て、その次に茶髪の少年、そして今はユリが蔦を上っている最中だった。アルベラは自分の番を待つ中ミーヴァへ尋ねる。

「ねぇ、さっきフォルゴートが描いてたの何?」

「は?」

「魔法使う時描いてたでしょ。指とか水で」

「あぁ……印だよ」

「イン?」

「魔術印だ。そんなことも知らないのか。――ほら、次お前だろ。早く登れよ」

「あんた平民なら貴族に対する口の利き方位気をつけなさい」

 アルベラは蔦に手をかける。

(良し……登れた……)

 ロープの件で苦い思いをしたばかりのアルベラは、日の下に出て胸をなでおろしていた。

 一方、ミーヴァも蔦をあと少しで登り切ろうとしていた。

 あと少し。

 あと少しで外の明かりが蔦を掴む少年の手を照らそうかという時……、ミーヴァの体がガクリと揺れる。

「ミーヴァ!」

「フォルゴート!」

 ユリとアルベラが声を荒げる。

「――な!!!」

 ミーヴァは驚きの声を上げ自身の脚を見た。

 その足首を、怒りに満ちた表情のホネカワが掴んでいた。

「くそが! 逃がさねぇぞ!」

 ミーヴァは何とか耐えようと踏ん張っているようだが、大人の力にはかないそうもない。 

 蔦から引きはがされかけた彼の手へ、ユリが腕を伸ばし頑張って引っ張り上げようとする。アルベラもユリを手伝って腕を伸ばした。

「フォルゴート、目を瞑って! ユリはそのまま全力で引っ張って!」

「うん!」

 アルベラは足元を蹴って穴の中へと砂を巻いた。

「この、クソガキ!!!」

 目つぶしは成功したらしく、穴の下でホネカワは体勢を崩している。だが、掴んだ少年の脚は意地でも離さないつもりらしい。

「くっそぉ……!」

「――っ!? わぁ!」

「ミーヴァ!!」

「ユリ!!」

 アルベラは砂かけの足を止めて、ミーヴァと共に引きずり落ちそうになっているユリの体を掴んだ。

 明らかに力で負けている。このままではユリも落ちる――と思ったのだが腕の中の重みが減った。

 アルベラはユリを引っ張り、ユリはミーヴァを引っ張りあげる。

 無事に全員牢からの脱出を遂げ、てユリとミーヴァは安心して息をついていた。

 アルベラは急いで穴の中を覗き込む。

 中では牢の中に大の字になって伸びているホネカワがいた。

(一体……)

「はぁ……こうなったら予定変更ね。仕方ないわねぇ」

 視界のはずれからそんな声がした。アルベラがそちらに目を向ければ、あの美女が先ほどまで腰掛けていた椅子を片手で持ち、バッドか何かの様に肩に乗せていた。

「くっそぉ……ねえ、さん……何を……」

 その声はホネカワだった。

 すぐに意識を取り戻した彼は頭を抑えながら立ち上がる。アルベラには彼の背しか見えないが、空気からかなりお怒りなのが分かった。

「あらあら、起きちゃったのね。可哀そうに……」

 「何をいってやが――」と頭に血が上っている様子だったホネカワだが、すぐにその顔が青ざめる。

 目の前では美女が大きく椅子を振り上げていた。そしてそれは躊躇いなく無慈悲にホネカワへと振り下ろされる。

「ぐがっ! がぁ……ま、待ってくれ、姉さん! は、話を――」

「だーめ! もう! ここまで来たらっ、負けを、素直に、認めて、あげましょう! それでこそ! 漢って! もん! で! しょっ!」

「げ! が! や、やめ……! ね……さん……!!!」

(うわぁ……)

 熱心に中の様子を覗いていたアルベラ。その隣に「アルベラちゃん、何見てるの?」とユリも膝をついて並び覗き込もうとするが、アルベラは彼女の両眼を覆ってそれを阻止した。

「ユリ、見ちゃダメ」

「え、なんで……ん? なに、この匂い……」

「え?」

 「ふぅ~」と満足げに汗をぬぐう美女も匂いについて呟く。

「何よこれ、変な匂いね」

(あぁ、もしかして……)

 最近嗅いだばかりの匂いにアルベラは穴の中に頭を突っ込み、蔦の根元を覗いてみた。

「やっぱり……、エリー……エリグラン――」

「なに?」

 美女が不思議そうに顔を上げる。

 「え?」とアルベラは返し、美女も「え?」と返す。

 外に出て日のに借りに照らされたアルベラ。その姿を捕らえ、美女の瞳がゆらりと揺れる。

 彼女は目を大きく見開き、「まぁ……」と感嘆した。





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