王宮に咲くは神の花

ごいち

文字の大きさ
上 下
62 / 138
第四章 三人目のハル・ウェルディス

小鳥の密書

しおりを挟む
 朝日を浴びて山肌が明るさを増していく。
 シェイドは椅子に掛けて、窓際からそれをぼんやりと眺めていた。これが、ここから見る最後の朝になるかもしれないと思いながら。

 待ちわびていた知らせが、今朝早く届けられたのだ。
 あの瑠璃色の羽をもつ鳥が夜明けと同時に運んできたものだ。





 シェイドは自分たちが生きて囚われていることを知らせるために、餌付けした小鳥に自らの髪の束を結び付けて離した。ミスルの離宮で見かけた青い羽根を持つ鳥が、あの離宮で待つ者に届くことを信じて。

 同じような鳥がこの山にはたくさんいるのかもしれないし、髪を結び付けた鳥がまっすぐ離宮に戻る保証もない。離宮に戻ったとしても、誰かが見つけてくれるとは限らない。
 それでも何もしないよりはいいと、一縷の望みを託したものだが、返事はすぐにあった。
 翌朝、小鳥は足に小さな蔓を巻き付けてやってきたのだ。離宮の温室で栽培されている『シェイド』の花の蔓だった。

 どれほど嬉しかっただろうか。
 シェイドはパンくずに夢中の小鳥の足に、今度は折り畳んで用意しておいた小さな紙片をそっと結びつけた。この旧砦の名と部隊について暗号にして記したものだ。

 その翌朝やってきた小鳥は、今度は足に青く固い小さな蕾を結び付けられていた。
 『花開く時まで待て』――暗号を読んだ者からの返答を、シェイドはそう読み取った。
 そしてその『時』とは、まさに今夜だった。

 今朝方窓辺にやってきた小鳥の足には、小さな紙片が括りつけられていた。
 逢瀬を契るささやかな恋文のように、そこにはたった一行『朔の夜に忍んでまいります』――サラトリアの筆跡でそれだけが記されていた。

 今夜は月の出ない新月の夜。星以外に地上を照らすもののない暗闇の夜だ。
 救出にこれほど相応しい夜があるだろうか。

 ゆっくりと息を吐き、恐れと緊張で震え出しそうな自分を抑える。
 今夜を逃せば機会が再び巡ってくることはないかもしれない。失敗は許されない。

 ウェルディの加護を乞うように、シェイドは組んだ両手に額を押し付けた。





 扉の向こうに人の気配を感じて、シェイドは窓に向けていた顔を振り向かせた。
 ゾッとすると同時に、体の芯が熱をもって疼き始めるのを自覚する。
 初めは死んだ方がましだと思うほどつらかったことなのに、どんな環境にも慣れてしまえるものだと、シェイドは自嘲気味に考えた。

 待つまでもなく施錠されていた扉が開き、男が一人、顔を覗かせた。

「……お利口にして待ってたか?」

 揶揄するような言葉とともに入ってきたのは傭兵たちをまとめるコーエンだった。そしてその後ろから続くのは二人の領兵。続きの部屋で見張りに当たっている男と、階段の下を警備している男だ。

 コーエンは窓際の椅子に座るシェイドに手を差し出すと、立たせて寝台の方へ導いた。
 シェイドは逆らわず、コーエンに背を抱かれるようにして素直に従う。領兵の一人が慣れた手つきで寝台の上に外套の使い古したものを敷いた。シェイドは身体に巻いていた掛布を床に落とし、促されるまま裸でそこに横たわった。

「こいつを咥えてろ。ここは声が階下に丸聞こえだからな」

 いつものように丸めた布を口の中に押し込まれる。男の精の匂いが染みついた、不潔で吐き気を催しそうな代物だが、汚れた布を咥えさせること自体が男たちにとっては愉しみの一つなのだろう。
 シェイドが大人しくそれを噛み締めると、男たちは目配せしあっていやらしい嗤いを浮かべた。
 立てて開いた膝の間に一人目の男が入ってくる。シェイドは肌身離さず手に持っていた経典を心臓の真上に乗せて、祈るように両手で押さえた。

 この小さな経典はラナダーンから与えられたものだ。
 こうすれば胸の中央に烙印されたファラスの紋章を隠すと同時に、いまだ腫れ上がってじくじくと痛む左胸の傷を、腕で押さえて隠すことができる。

「昨日はここに若様のお情けをいただいたか?」

 シェイドが答えられぬのを見越したうえで、領兵が言葉で嬲ってきた。
 男は指に油を取って、連日の荒淫で花開かんばかりにぷっくり膨れた窄まりにそれを塗す。下手に傷を残してラナダーンに不審を抱かれないためだ。

「……ゥン!……」

 油断しているといきなり二本の指が根元まで入り込んできて、シェイドはくぐもった声で喘いだ。
 使われ過ぎてひりつくその場所は、指で探られただけで、ぞくぞくした痺れが背筋を走り抜けてくる。
 臍から下が別の淫猥な生き物になってしまったように、意志に関わりなく腰が淫らに揺らぎ、肉壺の中に入れられた指をしゃぶり始めた。

「慣らす必要なんぞなかったな」

「……ンンッ!」

 男は言いざま、指で拡げた窄まりに猛った肉棒を宛がい、力任せに突き入れてきた。先走りが滑りになって一気に奥まで入り込む。尻に毛むくじゃらの陰嚢が当たった。

「どうだ、いいか」

 確信を込めて男が問いかけた。シェイドは観念しきったようにガクガクと頷く。
 腹の中を脈打つ肉の芯が埋めている。ピクピクと痙攣するそれに好い場所を押し上げられて、シェイドは雄の匂いがする布を噛み締めながら、喜悦の啜り泣きを漏らした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

犬用オ●ホ工場~兄アナル凌辱雌穴化計画~

雷音
BL
全12話 本編完結済み  雄っパイ●リ/モブ姦/獣姦/フィスト●ァック/スパンキング/ギ●チン/玩具責め/イ●マ/飲●ー/スカ/搾乳/雄母乳/複数/乳合わせ/リバ/NTR/♡喘ぎ/汚喘ぎ 一文無しとなったオジ兄(陸郎)が金銭目的で実家の工場に忍び込むと、レーン上で後転開脚状態の男が泣き喚きながら●姦されている姿を目撃する。工場の残酷な裏業務を知った陸郎に忍び寄る魔の手。義父や弟から容赦なく責められるR18。甚振られ続ける陸郎は、やがて快楽に溺れていき――。 ※闇堕ち、♂♂寄りとなります※ 単話ごとのプレイ内容を12本全てに記載致しました。 (登場人物は全員成人済みです)

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

獅子帝の宦官長

ごいち
BL
皇帝ラシッドは体格も精力も人並外れているせいで、夜伽に呼ばれた側女たちが怯えて奉仕にならない。 苛立った皇帝に、宦官長のイルハリムは後宮の管理を怠った罰として閨の相手を命じられてしまう。    強面巨根で情愛深い攻×一途で大人しそうだけど隠れ淫乱な受     R18:レイプ・モブレ・SM的表現・暴力表現多少あります。 2022/12/23 エクレア文庫様より電子版・紙版の単行本発売されました 電子版 https://www.cmoa.jp/title/1101371573/ 紙版 https://comicomi-studio.com/goods/detail?goodsCd=G0100914003000140675 単行本発売記念として、12/23に番外編SS2本を投稿しております 良かったら獅子帝の世界をお楽しみください ありがとうございました!

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

俺☆彼 [♡♡俺の彼氏が突然エロ玩具のレビューの仕事持ってきて、散々実験台にされまくる件♡♡]

ピンクくらげ
BL
ドエッチな短編エロストーリーが約200話! ヘタレイケメンマサト(隠れドS)と押弱真面目青年ユウヤ(隠れドM)がおりなすラブイチャドエロコメディ♡ 売れないwebライターのマサトがある日、エロ玩具レビューの仕事を受けおってきて、、。押しに弱い敏感ボディのユウヤ君が実験台にされて、どんどんエッチな体験をしちゃいます☆ その他にも、、妄想、凌辱、コスプレ、玩具、媚薬など、全ての性癖を網羅したストーリーが盛り沢山! **** 攻め、天然へたれイケメン 受け、しっかりものだが、押しに弱いかわいこちゃん な成人済みカップル♡ ストーリー無いんで、頭すっからかんにしてお読み下さい♡ 性癖全開でエロをどんどん量産していきます♡ 手軽に何度も読みたくなる、愛あるドエロを目指してます☆ pixivランクイン小説が盛り沢山♡ よろしくお願いします。

愛してほしいだけなのに~純情少年は大人の嘘に堕とされる~

あいだ啓壱(渡辺河童)
BL
義父×少年ののち、歳の差×少年。 義父にセックスを教えられた高校生「宏隆(ひろたか)」のお話。 宏隆はある日、母の再婚相手に「大人になるため」と抱かれてしまう。 しかし、それがバレて母親に勘当され、行く当てがないときに32歳の会社経営者「健二(けんじ)」に拾われた。 宏隆は、義父が行った刺激を忘れられないまま健二に求められる日々を送るのだが…? ※R-18作品です。 ※調教/開発/乳首責め/寸止め/アナル責め/尿道調教/快楽堕ち表現がございます。ご注意ください。 ※2018/10/12>今後の展開をするため、01を少し改稿いたしました。

俺のパンツが消えた

ルルオカ
BL
名門の水泳部の更衣室でパンツが消えた? パンツが消えてから、それまで、ほとんど顔を合わせたことがなかった、水泳部のエースと、「ミカケダオシカナヅチ」があだ名の水泳部員が、関係を深めて、すったもんだ青春するBL小説。 百九十の長身でカナヅチな部員×小柄な名門水泳部エース。パンツが消えるだけあって、コメディなR15です。 おまけの「俺のパンツが跳んだ」を吸収しました。

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

処理中です...