5 / 5
3
しおりを挟む「さあ、暁人くんは私と一緒に舞台裏に行くとして……。二人は体育館の場所はわかるかしら?」
「楓、大丈夫か?もし何かあれば杏里を盾にしてでも逃げろよ」
「体育館の場所なら大丈夫。盾にはならないけど、楓は僕に任せて暁人は挨拶のこと考えたら?」
「暁は心配し過ぎです。私は大丈夫ですから。暁の挨拶、ちゃんと見てますね」
俺の心配は当たり前だと思う。それくらい楓は可愛い。ただでさえ容姿が整いすぎているというのに、表情がコロコロ変わるしその柔らかい雰囲気も男を惹きつける。本人がそれを自覚していないのが余計にタチが悪い。
「杏里はお姉ちゃんに何もないのかしら?」
麗華さんが杏里に何かを期待するような目で問いかけた。それに対し、杏里は顔をしかめ、麗華さんから視線を逸らす。
「別に、姉さんなら言う必要なんてないでしょ。そういうところは信用してるし」
「ああ、もう可愛いわね!ふふ、聞いた?信用してるですって!」
麗華さんが上機嫌で怖い。そんな麗華さんを放置して、杏里は楓を連れ体育館へと行ってしまった。いや、正直この状態の麗華さんと二人きりにはされたくないんだが。
「いた!麗華!いくら弟さんが入学したからって早々に仕事を放り出していくのはやめてください!しかも、挨拶の順番を変えるだなんて……」
体育館とは反対の方から走ってきたのは赤いネクタイのメガネをかけた男の先輩だった。制服のリボンやネクタイは学年ごとに分かれていて、今年の一年が紺、二年が赤、三年が濃い緑となっているので先輩は二年なのだろう。
「司、私はなにも杏里に会うためだけにきたわけじゃないわよ?杏里のところへ行けば、ついでに暁人くんにも会えると思ったのよ。予想通り、暁人くんは捕まえられたし、丁度戻ろうと思っていたの」
俺はついでらしい。それは良いとして、捕まえたってなんだ。確かに、麗華さんが来なければ楓と体育館へ行こうとしていたが。俺の扱いが、というよりも杏里以外の扱いが雑すぎはしないだろうかこの人。
「ってことは、その一年生が主席の天宮暁人くん?」
「一年一組の天宮暁人です。よろしくお願いします、先輩」
外面の笑顔を貼り付け挨拶すると先輩は興味深そうに俺を見た。
「二年三組の水城司です。君とは同じ苦労人同士、仲良くできそうですね」
疲れ果てた表情を見せる水城先輩に、思わず麗華さんを見た。苦労人にされたくないんだが。麗華さんの被害にはあいたくないし、出来る限り緩和剤である杏里と行動した方がいいのかもしれない。
*
俺たちは体育館の舞台裏で待機していると、すぐに麗華さんの挨拶となった。本来ならばもっと後らしいが、麗華さんのわがままでこのタイミングとなったらしい。
麗華さんは流石生徒会長と言いたくなような凛とした姿で登壇した。その姿を見ていると、先程までの周りを振り回す自由奔放な様子が嘘のように思えてくるのだから不思議だ。
しかも、さりげなく俺へのプレッシャーをかけ、ハードルを上げてくるという嫌がらせまで自然にやってのけている。本気でやめてもらいたい。
麗華さんが挨拶を終え、戻ってくるといつもの麗華さんに戻っていた。
「さ、次は暁人くんの挨拶ね。新入生代表として、素晴らしい挨拶をしてくれると期待せて聞いているわ」
「そうやってプレッシャーかけてくるのやめてもらいたいんですが……。まぁ、楓にいいところを見せられるように善処しますが」
「はぁ、本当暁人くんは楓ちゃん一筋よねぇ」
どこか呆れたような麗華さんを無視して俺は一歩踏み出した。舞台裏とは違い、壇上はかなり眩しい。目が悪くなりそうだ、などと思いつつも外面の笑顔を貼り付け、背筋を伸ばす。女子生徒からの視線が痛いのは気のせいだと思いたい。
中央までくると、今度は見渡すふりをして楓の姿を探す。楓は左の中央辺りにいた。その姿に自然と笑みが零れる。
楓が可愛い。天使すぎる。中学の時よりもずっと大人っぽくなり、綺麗になった楓は周囲の男どもの視線を集めていてとても目立つ。だから、心配だったのだ、などと思いつつも笑顔で新入生代表の挨拶を終えた。
「暁人くん、お疲れ様。完璧な挨拶だったわよ。本人は楓ちゃんに見惚れていたようだけれども?」
「楓は可愛いですから。それに、あれだけ目立っていれば自然と視線も行きます。可愛いですから」
「可愛いって二回言ったわね……」
「本当のことですから」
麗華さんがうんざりしたような表情を見せるが楓が可愛いのは本当なので仕方ない。ってか、やっぱりわざとハードル上げてたのかこの人。
0
お気に入りに追加
44
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます
葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。
しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。
お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。
二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。
「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」
アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。
「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」
「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」
「どんな約束でも守るわ」
「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」
これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。
※タイトル通りのご都合主義なお話です。
※他サイトにも投稿しています。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
【完結】公女が死んだ、その後のこと
杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】
「お母様……」
冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。
古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。
「言いつけを、守ります」
最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。
こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。
そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。
「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」
「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」
「くっ……、な、ならば蘇生させ」
「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」
「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」
「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」
「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」
「まっ、待て!話を」
「嫌ぁ〜!」
「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」
「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」
「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」
「くっ……!」
「なっ、譲位せよだと!?」
「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」
「おのれ、謀りおったか!」
「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」
◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。
◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。
◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった?
◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。
◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。
◆この作品は小説家になろうでも公開します。
◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!
私の婚約者は6人目の攻略対象者でした
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
王立学園の入学式。主人公のクラウディアは婚約者と共に講堂に向かっていた。
すると「きゃあ!」と、私達の行く手を阻むように、髪色がピンクの女生徒が転けた。『バターン』って効果音が聞こえてきそうな見事な転け方で。
そういえば前世、異世界を舞台にした物語のヒロインはピンク色が定番だった。
確か…入学式の日に学園で迷って攻略対象者に助けられたり、攻略対象者とぶつかって転けてしまったところを手を貸してもらったり…っていうのが定番の出会いイベントよね。
って……えっ!? ここってもしかして乙女ゲームの世界なの!?
ヒロイン登場に驚きつつも、婚約者と共に無意識に攻略対象者のフラグを折っていたクラウディア。
そんなクラウディアが幸せになる話。
※本編完結済※番外編更新中
婚約破棄はいいですが、あなた学院に届け出てる仕事と違いませんか?
来住野つかさ
恋愛
侯爵令嬢オリヴィア・マルティネスの現在の状況を端的に表すならば、絶体絶命と言える。何故なら今は王立学院卒業式の記念パーティの真っ最中。華々しいこの催しの中で、婚約者のシェルドン第三王子殿下に婚約破棄と断罪を言い渡されているからだ。
パン屋で働く苦学生・平民のミナを隣において、シェルドン殿下と側近候補達に断罪される段になって、オリヴィアは先手を打つ。「ミナさん、あなた学院に提出している『就業許可申請書』に書いた勤務内容に偽りがありますわよね?」――
よくある婚約破棄ものです。R15は保険です。あからさまな表現はないはずです。
※この作品は『カクヨム』『小説家になろう』にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる