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楓視点

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樹里院の主催したパーティーで、変わった人に会った。私の紫の瞳を見て、変だとかおかしいと言わず、綺麗だと言った変わった男の子に。燃えるような赤髪に、マリガーネットの宝石を思い浮かばせるような金の瞳が特徴的で、とても容姿が整っていた。

そんな彼、暁人さんと出会った次の日、私はお母様に問い詰められた。


「楓、昨日一緒にいた男の子は誰?」


お母様の第一声に、気が遠くなるのを感じた。お母様やお父様が私から男の子を遠ざけていたのは知っていた。だから、今回もそうなのだろうと思ったから。

暁人さんと、会えなくなる。

そのことに、ショックを受けている自分がいた。


「あぁ、勘違いさせてしまったかしら?大丈夫よ。昨日、楽しそうに話していたでしょう?家さえ問題なければ、今のうちに婚約の話をつけておこうと思ったのよ」

「こん、やく……」


その意味はわかっていた。だが、暁人さんと婚約……。暁人さんは私のような人で良いのだろうかと不安が込み上げてくる。暁人さんなら、私なんかよりもいい人と婚約できると思ったから。


「楓?あなたが嫌なら良いのよ。きっと他にも……」

「い、嫌じゃないです!」


暁人さんは優しいし、かっこいい。それに、家じゃなくてちゃんと私を見てくれる。
そんな人に文句なんてない。あるはずがない。だけど、彼にふさわしい人がもっといるんじゃないか、そんな考えがどうしても頭をよぎるのだ。


「名前を教えてくれるかしら?」

「天宮暁人さん、です……」


それでも、私は暁人さんの側にいたいと思った。だって、暁人さんだけだから。瞳を綺麗だと言ってくれたのも、私をちゃんと見てくれたのも。何より、あの優しい瞳を思い出す。とても澄んでいた、綺麗な金色の瞳を。


「まぁ!あの天宮の?」


名前を聞いて、お母様が驚いたようなそぶりを見せる。
天宮グループといえば、日本トップクラスの財閥で、様々な事業を手掛けている。そんな家の子息なのだ。余計、私が暁人さんに相応しくないような気がしてしまう。


「そうね、彼なら楓の婚約者としても申し分ないでしょう。楓も良いのね?」

「はい!ですがお母様、暁人さんが嫌だと言ったら……」


不安そうな私を見てか、お母様が優しく微笑み、頭を撫でた。


「大丈夫よ。楓はこんなに可愛らしいもの。暁斗くんも断らないわよ。一緒にお父様のところに行ってみましょう」


私は、お母様の言葉に頷いた。



お父様の部屋に行き、婚約の話をお母様がしているのを隣で聞いていると、お父様が苦虫を噛み潰したような表情になった。


「楓、天宮暁人はどんな奴だ?」

「優しくて、明るい方です。色々なことを知っていて、とても落ち着いていました。瞳の色も、綺麗だと言ってくださりました」


お父様は益々顔を歪ませた。その意味がわからず、お母様を見上げると、お母様は笑顔でお父様を見つめていた。


「暁人くんはかなり優秀で、勉強もかなり先まで進んでいるそうよ。天宮財閥のご子息だもの。家柄も問題ないわ。……それで、あなたはなにを隠しているのかしら?」


お母様が問いただすと、目を泳がせた後、お父様は仕方なさそうに話し始めた。


「うっ……。はぁ。今朝、天宮の家から楓に婚約の提案があった。楓の意思を尊重して決めて欲しいそうだ」


それに驚いたのは私だけで、お母様は嬉しそうにしていた。お父様はうんざりした様子だったけれど。


「まぁ!良かったじゃない、楓!」

「はいっ!」

「……分かった。受けておこう。楓、婚約の破棄はいつでもできるからな。嫌になったらすぐに言いなさい」


お父様が真剣な声色でそう告げてきた。その言葉にお母様は呆れたようにしていたけれど。

でも、今の私にはそんなことはどうでも良かった。暁人さんとの婚約。そのことを考えると胸の奥が暖かくなるのを感じる。その不思議な感覚に私は首を傾げた。

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