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屋敷に帰った後、母さんが俺を見てニヤニヤしていた。なんでも、楓といるところを見ていたようで、とりあえずウザい。


「もう、暁人も隅におけないわねぇ。あんな可愛い子を口説いてるだなんて」

「なっ、ばっ!……別に、そんなんじゃねぇし。少し、楓と話してただけだろ。口説いてなんかないから」


こちとら恋愛経験なしなんだ。そんな簡単に口説けたら前世でも彼女くらいつくれたはずだ。多分。


「あらあら、そんなこと言っちゃって。でも、そう。楓ちゃんというのね。どこの子?」

「……樹里院」


母さんは俺の出した名に驚いたようで、目を見開いた。そして、少しだけ考えるようにして、笑顔を見せた。


「そうねぇ。じゃあ、申し込んじゃいましょうか。婚約」

「は?え、ちょ、母さん!?」


なぜそうなったのか問いただしたい。割と本気で。


「そうと決まれば、早いほうがいいわね。安心なさいな。ちゃんと婚約を取り付けてあげるから」

「だから!なんでそうなるんだよ!」


俺が慌てて母さんを止めようとすると、キョトンとした顔を向けられた。まるで、俺の行動の意味がわからないとでもいうように。


「あら、だって暁人、楓ちゃんのこと好きなんでしょう?楓ちゃん、可愛いからさっさと婚約しなきゃ他の子に取られるわよ。それに、樹里院の子なら婚約者として申し分ないもの」


確かに、楓は可愛いと思う。だからといって、そんなに早く婚約しなくても、と思ってしまうのは前世の、庶民の記憶があるからだろう。まぁ、確かに楓と婚約はしたいと思うが。あのままだと変な虫とかつきそうだし。多分、瞳の色云々も、小さい子によくある好きな子(気になる子)をいじめたいだとかそんなことなのだろう。


「……楓の意思を尊重したい。だから、無理矢理とかは、やめて、欲しい」


それが、俺の出した答えだった。それで楓に断られたりなんてしたらそれはそれで落ち込むのだろうが。今日、話した感じでは好印象だったと思うし、受けてくれると期待したい。


「えぇ、わかったわ。楓ちゃんの意思を最優先にしてもらえるよう、話を通しましょう。でも、暁人ならきっと大丈夫よ。もう、今日は休みなさい。疲れたでしょう」


母さんに優しく髪を撫でられると、眠気が襲ってくる。その辺りは体に引きずられているらしい。


「ん、わかった。おやすみ、母さん」

「えぇ、おやすみなさい」


母さんに挨拶をしてから別れると、風呂に入ってからすぐにベットに潜る。


楓がどんな返答をしたとしても、側で守れたらいいと思う。婚約者としてでも、友人としてでも、どちらの立場になったとしても、だ。少なくとも、楓をゲームの楓のように悪役令嬢になんかさせる気はないし、一人にはしない。


「こんなことになるなら、あいつの話をちゃんと聞いておけばよかった……」


なんで死んだかは覚えてないし、別に興味もない。だが、こうして乙女ゲームの世界に転生したからには思わずにはいられなかった。
なんであいつの、妹の話をもっと聞いてやらなかったんだと。聞いていれば、楓のことも色々わかったかもしれないのに。

あぁ、そういや妹は大丈夫なんだろうか。まぁ、あいつも成人はしていたし心配はしていないが。

なんてことを考えているうちに、俺はいつの間にか眠りについていた。
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