上 下
87 / 91

第80話 アルテミシアとの対話

しおりを挟む


 私の体内に施されていた「制御魔方陣」の一部解除に成功した一同。
 というわけで私たちはついに、古の魔女アルテミシアとの対話を試みることになった。
 とはいえ、いきなり私が話しかけるのは怖いという意見が取り入れられ、まずはラティスが反応を伺うという形になる。

「それじゃあ、話しかけてみるよ魔王妃様」

 今も尚私の手を握っているラティスがそう告げる。
 これより先、何かミスがあってアルテミシアの機嫌を損ねると何が起こるか分からない。
 当事者の私はもちろんのこと、周囲でそれを見守るロキやオーキンス達もゴクリと息を飲む。
 もし、アルテミシアが暴走したら私はどうなるのかしらと思うと、知らず足が小さく震えるのだった。
 
「あーあー、聞こえる?」

 緊張感漂うこの場にはそぐわない、ラティスの軽い調子の声掛けがあたりに響く。
 それを合図として、私達は「いよいよ対話が始まったのか……」と更に緊張感を高めるのだった。
 しかし、そんな心中とは裏腹にラティスは軽快な様子で雑談に興じているように見える。
 もしかして、アルテミシアって結構良いやつだったりするのかしら?
 というよりも、この軍医がコミュニケーション強者すぎるだけかもしれないわね……。

----

 それからしばらく、ラティスは和気藹々とした様子でアルテミシアと対話し続けていた。
 待ち続けること10分程度、一同は黙ったままその場に立ち尽くしている。
 やはり、頑張って雰囲気を盛り上げているというより、普通に楽しんで喋っているだけだこれ。

「そうそう!それでさあ、魔王妃様ったら自分で調査に行っちゃうんだもん、信じられないよね~」

 楽しそうに喋っているラティスを見ていると、なんだか生前に長電話に興じていた母親の事を思い出す。
 というか、完全に無限に雑談するオバちゃんのそれである。
 それに、きっとこれ私の悪口で盛り上がってる感じよね……。
 こういった話題の種々は万国共通なのかもしれない。

「うん、それじゃあ魔王妃様に代わるね~」

 ラティスは漸く話に一区切りつけたようであり、そんな彼の対応に親戚との電話のようななつかしさを感じる。
 そして、楽しそうに会話していたラティスは「魔王妃様、アルテミシアと対話してごらん」と私にパスしてきた。
 突然そう告げられ、一瞬パニック状態になる私。
 そもそも、対話しろといわれてもやり方が分からない。
 というか、この流れ二回目よね?

「とりあえず、話しかけてみれば大丈夫だよ多分」

 気楽に行きなよと私の手をにぎにぎしているラティス。
 傍で見ていたオーキンスも「ラティスがこの調子なら、たぶんアルテミシアは昔のままだから大丈夫ですよ」と安心した様子で言う。
 たしかに、いまのやり取りを見ていた限りでは安全そうではある。
 とはいえ、以前の宿主である前魔王妃メルヴィナが初めてアルテミシアを解放する際には一悶着あったと聞いていた。
 なので、私達一同はそのことに関して心配していたのである。
 でも、彼らが大丈夫というなら、きっと大丈夫なのだろう。
 私がビビってても進まないしね……。

「じゃ、じゃあいくわよ?」

 肩書だけの小心者魔王妃である私は、周囲に確認を取ってアルテミシアに話しかけることにした。
 調査任務に赴いたりする割には、変なところでチキンな私なのである。

「ア、アルミテっ……っ……!!」

 そんな私は緊張して、舌足らずの幼女の様に大事なところで噛んだ。
 これは、一発目から関係を悪くしてしまうかと焦る私。
 しかし、アルテミシアの名前を噛んでしまったわけだが、帰ってきた反応は悪くなかった。
 というよりも、むしろ魔女の私に対する好感度が高すぎて少し引いている。

「やだぁ!!メルちゃんってば可愛いわ!!」

 美しく、鈴の様に綺麗な声を張って私を褒めるアルテミシア。
 そしてどうやら、私と直接対話する場合には周囲の人にも聞こえるようにできるらしい。
 つまり、私が人間スピーカーのようになっている状態である。
 なんというか、魔法って色々便利だったり不便だったりするのねと私は思うのだった。

「うお、アルテミシアの声か!どうやら相変わらず元気みたいだな」

 大戦期のアルテミシアの様子を知っているオーキンスが声をあげる。
 オーキンスの隣に立っていたドレイクも「魔力も衰えていないようだな、アルテミシア殿」と楽しそうに笑っていた。
 ドレイクの言うようにアルテミシアが感情むき出しで「メルちゃんかわいい~」と騒ぐたびに、周囲に膨大な魔力渦が発生しているのである。
 それを見ていたロキは「本当にこれ大丈夫なんすかねえ……」と半信半疑の様子でビビっていた。

 というか、メルちゃんってわたしのことよね?
 なんかこの前と様子が違いすぎないかしら?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は逃げます

恵葉
恋愛
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。 そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。 貴族のあれやこれやなんて、構っていられません! 今度こそ好きなように生きます!

転生できる悪役令嬢に転生しました。~執着婚約者から逃げられません!

九重
恋愛
気がつけば、とある乙女ゲームの悪役令嬢に転生していた主人公。 しかし、この悪役令嬢は十五歳で死んでしまう不治の病にかかった薄幸な悪役令嬢だった。 ヒロインをいじめ抜いたあげく婚約者に断罪され、心身ともに苦しみ抜いて死んでしまう悪役令嬢は、転生して再び悪役令嬢――――いや悪役幼女として活躍する。 しかし、主人公はそんなことまっぴらゴメンだった。 どうせ転生できるならと、早々に最初の悪役令嬢の人生から逃げだそうとするのだが…… これは、転生できる悪役令嬢に転生した主人公が、執着婚約者に捕まって幸せになる物語。

乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか〜

ひろのひまり
恋愛
生まれ変わったらそこは異世界だった。 沢山の魔力に助けられ生まれてこれた主人公リリィ。彼女がこれから生きる世界は所謂乙女ゲームと呼ばれるファンタジーな世界である。 だが、彼女はそんな情報を知るよしもなく、ただ普通に過ごしているだけだった。が、何故か無関係なはずなのに乙女ゲーム関係者達、攻略対象者、悪役令嬢等を無自覚に誑かせて関わってしまうというお話です。 モブなのに魔法チート。 転生者なのにモブのド素人。 ゲームの始まりまでに時間がかかると思います。 異世界転生書いてみたくて書いてみました。 投稿はゆっくりになると思います。 本当のタイトルは 乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙女ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか?〜 文字数オーバーで少しだけ変えています。 なろう様、ツギクル様にも掲載しています。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

【完結】ここって天国?いいえBLの世界に転生しました

三園 七詩
恋愛
麻衣子はBL大好きの腐りかけのオタク、ある日道路を渡っていた綺麗な猫が車に引かれそうになっているのを助けるために命を落とした。 助けたその猫はなんと神様で麻衣子を望む異世界へと転生してくれると言う…チートでも溺愛でも悪役令嬢でも望むままに…しかし麻衣子にはどれもピンと来ない…どうせならBLの世界でじっくりと生でそれを拝みたい… 神様はそんな麻衣子の願いを叶えてBLの世界へと転生させてくれた! しかもその世界は生前、麻衣子が買ったばかりのゲームの世界にそっくりだった! 攻略対象の兄と弟を持ち、王子の婚約者のマリーとして生まれ変わった。 ゲームの世界なら王子と兄、弟やヒロイン(男)がイチャイチャするはずなのになんかおかしい… 知らず知らずのうちに攻略対象達を虜にしていくマリーだがこの世界はBLと疑わないマリーはそんな思いは露知らず… 注)BLとありますが、BL展開はほぼありません。

幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。 ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。

処理中です...