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第15話 魔物たちが暮らす街

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 吹き抜けのホールと城内をつなぐ連絡通路を守る衛兵たちに挨拶をして、私たちは魔物たちが住む街に出た。
 街のそこかしこには、疎らに草の生えた土の上に石畳の道が敷かれている。
 そして、その道があちこちに立つ建造物同士を結び付けているようであった。

「意外と普通の街なのね」

 コツコツと石畳を歩く私の口からでたのはそんな意見だった。
 一緒に歩くアリシアも「スケールが大きく、人ではなく魔物さんが歩いている以外はあまり変わりませんね」と概ね私と同意見である。
 大型の魔物でもうろちょろできるようにサイズ感だけはデカいが、普通の人間サイズの家も多々見られるので人間の街とそこまで雰囲気は変わらなかった。
 日常生活を営む魔物たちとすれ違うと「アドラメレク様よ!」と魔族のおばちゃんたちから黄色い声援を浴びるアドル。
 人間サイズの魔族の男衆は「きれいな姉ちゃんだな……」とアリシアのほうを見てなにやら話していた。
 それ以外の大小さまざまな魔物たちは「あれが魔王妃様か!!」と歓喜の声をあげる。
 やっぱり、城内で働く魔王軍直属の魔物でなくても「魔王妃降臨」のうわさは広まっているのか。

「軍部や政治経済部の人間の中にも街に住んでる者はいますし、街にある施設を利用するものは多いですからね」

 このへんも人間の生態によく似ていると思った。
 アドルによると、プライベートな「街」と仕事場としての「城」という風に気持ちを切り替えている魔物は多いという。
 今朝の食堂での口論で、魔王が意外と人間臭い魔族であることも分かったし、他の魔物も似たような感じなのかもしれない。
 魔王が「魔物たちが安全に暮らせる世の中を作りたい」なんて言っている世界だから、魔物たちも結構おおらかなのだ。
 彼らもおそらく「暴力」で物事を解決しようとする粗野な生き物ではないのだろう。
 というか、そんな横暴に走ったら魔王様やアドルが黙ってはいないんだろうけど。

「思ってたよりもいい街じゃない」

 「魔物の街だからもっとあちこちで喧嘩とかしてるのかと思ってたわ」と私が言うと、アドルが嬉しそうにほほ笑んだ。
 街の広場で遊んでいる魔族の子供達を見ながら「その昔は人間や他の魔族と激しく争っていた時期もあったのですがね」というアドル。
 今から約500年前の先代魔王の時代のことらしい。
 その当時から魔王軍に所属していたアドルは懐かしそうに遠い目をしていた。

 それから、私たちは街の大通りを練り歩く。
 大通りから延びる道の先には、農場のような場所や雑木林みたいなものまで見えた。
 そのほかにも家畜を飼育している牧舎や、魔王城の敷地内を移動するためのバスのような乗り物まで見える。
 大通り沿いには「居酒屋」のような食事処もたくさんあった。
 魔王軍直属で働くもの以外が食事をとる施設も多くあるようである。

 それらを見送りながら、私たちは大通りを進んでいく。
 途中で立ち寄った日用品店では「石鹸」が売っているのを発見した。
 手に取って驚く私に「魔王軍の魔物たちは皆清潔ですよ」と笑うアドル。
 香りはついていないが、洗浄能力は確かだという魔物の店主の言葉にアリシアも驚いていた。
 私たち人間は、この街で魔族の意外な生態に驚かされるばかりである。

 果てしなく続くように見える大通りも、数時間程度歩くとある程度見終わった。
 それでも数時間はかかったわけであるが。
 途中でお昼ごはんも挟むことになり、城下町の高級レストランで3人で食事をとったのだが、やはりここも食堂と同様にあまりおいしくなかった。
 日用品店で見た「石鹸」もそうだが、魔族はあまり「贅沢品」にこだわる生き物ではないのかと感じる。
 というより、その辺に関して研究を重ねる文化があまりないのかもしれない。
 アドルも今まではレストランの料理が美味だと感じていたらしいが、私の手料理を食べた後だからか「味気ないな」と感想を述べていた。

 街の大通りをだいたい見学し終えた私たちは、お城へと戻ることになった。
 その道中で街を巡回中のトカゲの兵士たちに出会うと「魔王妃様、お疲れ様です!」と大げさな敬礼をされる。
 ちっこい私にもビシッと手抜きのない礼を決める兵士たちになんだか嬉しくなり、私も真似して「ご苦労!」と敬礼する。
 愛しい我が子を見るような目で、アリシアやアドルはそんな私を見ていた。
 このトカゲ達は「第2部隊」の魔物たちらしく、魔王軍の中でも武闘派な連中であるという。
 そんな魔王軍の主要な戦闘要員たちに「力強く温かい魔力に圧倒されました」と食堂での出来事を蒸し返され少し恥ずかしくなる私。
 強く温かい魔力は「先代の魔王様」のようであるという。

 トカゲたちとすれ違った後、お城へと続く連絡通路を通るころには外も夕暮れ時であった。
 空の様子を見ながら「こんなに広かったら日も暮れるわよね」と私はつぶやく。
 「歩き疲れてもうクタクタよ」と私が弱音を吐いていると「お嬢様、私がおんぶいたしますわ!」と嬉しそうに反応するアリシア。

「いや、それはなんか恥ずかしいからやめておくよ」

 やんわりと拒絶して歩き続ける私の様子を見て残念そうに肩を落とすアリシア。
 彼女の変わることのない軽快な足取りは、肉体の疲れを一切感じさせない。
 そんな様子でアドルとアリシアに挟まれてヨチヨチと歩く私。

 すれ違う魔物たちからは「なんだか親子みたいね」と密かに噂されるのであった。
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