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372.重代
しおりを挟む他でもない、幼い頃から父オニキスの思い出話で聞いてきた優しく素敵な母の姿。だが二度と会うことは出来ないと頭で理解していてもいつかは逢えるのではないかと抱く、叶わぬ幻想だ。
――写真の中でしか会ったことのない、ベリルお母様。
自分の事より周りの者の幸せをと配慮を怠らず尽力し続け、皆を守り助けてきたという母ベリルの人柄を尊んできた。その力が今、自身の力として変化しクォーツを治していく。
喜びはしゃぐクォーツの笑顔を見つめながら体の中から溢れてくる温かい何かにアメジストは「この力は間違いなく『ベルメルシアの血族』が持つ力、それを受け継いでいるのだ」と身を以て、理解した瞬間であった。
(きっとベリルお母様のお力が、私の中で息を吹き返して……そう、生き返ったんだわ!)
「お姉様? どうかなさいましたの?」
手にタオルを持ちしばらくの間ボーっとしたままで考え事をしているアメジストを不思議そうにのぞき込む、クォーツ。その声でハッと我に返った彼女は返事をすると手早く身体を拭き上げ服を着せ、自身も着る。
その途中でふと、疑問を口にした。
「クォーツ……素敵な羽ね。えっと、お洋服はどうしたら」
「んなぅい! こうしますです~」
シュル~ぶわっ……フッ。
「まぁ! すごい!!」
「えっへん! お兄様が教えてくれたですの♪」
「ジャニスが?」
「ハイです! お兄様も、ふさふさぁ綺麗を持っているのです~」
――アッ。
「そう、そうなのね」
見た目全く人族と変わらない姿の“サンヴァル種族”であるジャニスティにも当然、翼がある。先日彼の正体を知った彼女でも学校で学ぶくらい一般的なことなのだ。
「キュあ! お兄様のパタパタはとーってもかっこいいのです!!」
「かっこいい……クォーツは、その……」
「んなふ?」
言葉に詰まったアメジストをまた不思議そうに、今度は真下から顔をのぞき込んだクォーツに「わッ!」と少し驚くと、慌てて笑う。
「ごめんね、何でもないの……さぁ、お洋服を着ましょう。クォーツは上手に綺麗に羽を閉じれて、お利口さんだわ」
「本当ですの? わたし上手!?」
「えぇ、とっても」
「わぁーい!!」
――本当は、気になるの。
本来のジャニスティ、サンヴァル族としての彼の姿を本当は知りたいと彼女は、思う。
(考えちゃダメ。今は目の前にある問題から解決していかなきゃ)
気持ちを切り替えると明日からお茶会までの準備、クォーツにとって一番良い方法は何か考えようと努める。
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