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371.治癒

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「んに?」

 急に黙ってしまった彼女を心配したクォーツは、振り向く。アメジストは少し潤ませていた瞳を悟られまいとにっこり、笑いかけた。

「可愛い子、大丈夫よ……」

 成長したとはいえまだ幼いクォーツ。
 ふわっと包み込むように抱き締めるアメジストは耳元にくちびるを寄せ、優しくささやく。

 あの大雨の夜と、同じように――。

 そしてクォーツの左胸に優しく触れ目を閉じ、心臓の鼓動を確認し、“生きている”という証の心音を聞く。

「ふぃにゅ~、おねぇさまぁ?」

「これからは……」
――私が、あなたを守る。

 そう改めて誓うと彼女はクォーツの身体に多く残る傷跡を、ひとつ、またひとつ。“愛心”の気持ちを込め、そっとキスをしてゆく。

 “キラ――キラッ”

 それはアメジストがごく自然に、ただただ愛を伝えようとした行動。

 “キラ……パァー……!!”

「ふはぁ! キャう~すごいのです、おねぇさまぁ!!」
「ぁ……ぇ……その」

 深い思いは無意識にアメジストの魔力へと変化へんげし、煌めく。温かな風のように揺れ纏う美しい光は薄い絹のリボンが舞うように、クォーツを包み始めた。

「んなゅんキュ!? きれぇ~」
「え、えぇ。でも」

 大きな瞳を輝かせ高揚するクォーツは自分を見つめクルクルと踊り、驚く。その理由は――身体中に刻まれるように残っていた傷跡全てが綺麗に消え、無くなっていたからだ。


(本当に? 綺麗になって……傷跡が消えているわ。私の力で……? まさかそんな、自分では信じられない)


 大切な妹を愛おしいと心の中で感じたアメジストの想い。

 それだけで自然と彼女の中から生み出されたのはほかでもない――『治癒の力』なのだ。それはこの街やベルメルシア家の屋敷で働く者たち皆が愛し全幅の信頼を寄せていた『治癒回復魔法』の使い手、アメジストの母ベリルの持っていた能力と同じである。

 くるくる! ぱちぱちッ♪
「んにぃ! 戻ったのぉ」


 クォーツがこれまで楽しい、嬉しいと笑っていた時間。

 その心に嘘はないが内に秘めた記憶は鮮明に焼き付き、覚えている。あの屋敷で深傷ふかでを負った瞬間の出来事は自分に残る傷跡を見れば当然、幼子でも感じる恐怖があった。

 そんなクォーツの傷付いた心はアメジストから受け取った愛情で心身が癒やされてゆく。

「……良かった、クォーツ」

 だがこの日に能力が開花したばかりの彼女はさすがに、魔力を使いこなすことが出来ない今。母ベリルに近づけた喜びよりも力を手にしたことへの戸惑いと不安が、勝っていた。
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