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364.小曲
しおりを挟む時間は遡り――。
ジャニスティがアメジストの部屋を去った、そのすぐ後のこと。
「んきゃう~♪ お姉様のお部屋、ひろぉ~いですのぉ!」
「え? そう……そうね」
(一人では、寂しいくらい)
クォーツは初めて入ったアメジストの部屋をわくわく楽しそうに、くるくると回りはしゃぐ。その様子を微笑ましそうに眺める彼女の心奥はまだ、ジャニスティから伝わってきた感覚に胸の高鳴りを鎮められずにいた。
(優しくて、温かい。幸せな気持ちが溢れてくる)
去り際、彼女の頬に触れ言葉をかけたジャニスティの柔らかな手の感触と声が今でもじんわりと全身に残っているのだ。
その時ふと、思う。
「ジャニス……お父様たちとお話って。お帰りが遅くなるのかしら」
彼女にとって様々な出来事が起こった、この日。
中でも特に心痛しているのは継母スピナとベルメルシア家にいる皆との、不和である。
そして気になる事がもう二つ。
朝、初顔合わせとなった可愛い妹クォーツを見た瞬間のスピナの眼とニヤリとした不気味な笑み。加えて自身の魔力開花についても喜ぶどころか顔を歪め驚き結局、理解し合うことは出来なかった。
「おねぇさまぁ、これはなにですの?」
その声にハッと我に返ったアメジストはクォーツの方へと、向かう。するとそこには先程までとはまるで違う、雰囲気が落ち着くように姿勢良く立つクォーツがいた。
その姿を見た彼女は「なんてお利口さんなのかしら」と、笑む。
「それはね――」
◆
一見すると天真爛漫で何も考えず好きに動いているような印象だが、しかし。この二日間ほとんどの時間を一緒に過ごしたジャニスティだけが感じ知った、姿がある。
それは――子供らしくない部分。
瞬時に状況を判断し感情を抑制する。
恐らく幼い頃から教育を受け自身の力を上手く操作できるようにと指導されたのだろうと彼は推測。
そこに『謎多きレヴシャルメ種族』と言われる所以があるのだろうと感じていた。
◆
しかしあくまでも彼が勝手に推察していること。
今此処でクォーツと過ごす彼女がそれを感じることもなければ、知る由もない情報だ。
「さぁクォーツ、開けてみて」
カタン――。
『~♪~~♫』
「ぅひゅはぁ!! キュるるゥ~♪ おねぇさま、これなにですの!? とっても、えっと、きれー? きゅりラ~ですのね!」
「えぇ、とても美しい小曲が鳴る楽器」
「しょーきょきゅ……がっきぃ?」
「うっふふ」
ジャニスティのいない夜。
彼女の心に不安がないと言えば噓になる。
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