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361.懐旧
しおりを挟む(エデは、ジャニスティに話したのだろうか?)
――早く二人が、“父と息子”となれれば良いのだがね。
オニキスは二人を交互に見つめフッと微笑するとお茶請けに置かれたマリーの手作り、ベルメ苺の練り込まれた生菓子を切り一口。
「うん、美味い。甘さが丁度よく食べやすいな」
「それは、ありがたいお言葉で。マリーが喜ぶ顔が目に浮かびますな」
「いや、本当さ。我がベルメルシア家のベルメ苺をこのように菓子としてここまで上手く作れる者を、私はマリー以外に知らない」
「旦那様! それはベリル様の次でございましょう?」
「ははは、ベリルは特別さ」
エデとオニキスが和やかに話す中ジャニスティだけは動かず、黙っていた。その様子に気付いたオニキスが声をかける。
「ジャニスも頂いたらどうだい?」
「んあ、はい……いただきます」
真剣な話をしていたはずだがと拍子抜けしつつもジャニスティは言われるがまま白く美しい花の形をした皿へと、手を伸ばす。そして美しい生菓子をゆっくりと口に入れた瞬間に広がる、甘く優しい香り。
その懐かしい味に思わず彼の顔が綻んだ。
(あぁ、そうだ。これはマリーが作る優しい菓子の味だ)
そうして思い出深く幸せを感じたその味は彼の中から自然な笑みを呼び、心の中をとき解す。
「いかがですかな? 坊ちゃま」
「もちろん美味いさ。それに、なんだろうな……落ち着く味だ」
「おぉ、それは良かった! 坊ちゃまにそう言ってもらえたと知れば、それはそれは舞い上がることでしょうな」
「エデ、そんな! 大げさだよ」
この一時のやり取りには当主なりの考えと意味があるのだろう。彼の和らいだ表情にオニキスは改めて言葉を、告げる。
「ジャニス」
「――ッ! はい」
「調べるために動ける日数は実質二日。通常業務もあり時間は限られ、恐らく大変な思いをすることだろう。再度確認だが、それでもやるというのか」
「承知の上です」
「そうか……」
彼の真っ直ぐに未来を見据えるような瞳はその心を落ち着かせてもなお、曲がらない。その意志は相当に固いものだなと確信したオニキスは話を、続けた。
「分かったよ、ジャニス。許可しよう」
「あ、ありがとうございます」
座ったままだがジャニスティは深々と頭を下げ心の中で成功を、誓う。
「期待している。だが無理はするな」
「はい、お気遣いいただきありがとうございます」
「あぁ、それに――いや、いい」
「……?」
そこまで言いハッとしたオニキスは視線を逸らし、黙った。
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