上 下
360 / 382

360.岨道

しおりを挟む

「話は理解した。が、仮にそれが真だとしてだ。これまで胸にしまい沈黙してきた“その何者か”が、信頼を寄せるベリル以外に、今さら口を割らんだろう。確証もない想像、お前はその事実をどう解明しようというのだ?」

「えぇ、仰る通りです」
「すまない、責めているわけではないのだ」
「もちろん承知しています。私はそのようなこと、思ってもいません!」

 ベリルに関連する話は彼の人生において何よりも重要な事。こうして神経質になるのも無理はない。平静を心掛けるオニキスであるが少しだけ厳しい口調になってしまっていたことに気付き、謝る。しかしジャニスティにとっては自分の意見を二人に聞いてもらえるだけで有難いと、そういう思いであった。

「坊ちゃまの推察、あり得るお話ではありますが……」

 しかしながらと悩み始めたエデは腕を組み、考え込む。
 ジャニスティには彼が言わんとしていることが分かっていた。

(そう、茶会は三日後だ。準備に使えるのはたった二日……それでも)
「私に一つ、考えがあります」

「考え、か?」

「はい。これはあくまで今思いつく方法としてお話しますが、ベルメルシア家で日々、花の世話をする者や、または花に精通する者。他、ベリル様がお元気でいらした頃、密に関わっていた者。それを調べる許可を頂きたく存じます」

 ジャニスティの言葉に驚いた表情で顔を見合わせたエデとオニキスはさすがに無謀だと、彼を止めようとする。

「坊ちゃま。それを実行するには、あまりにも時間が」

「ジャニスの考え自体に、否定の言葉はない。それは我々が君の能力を認めているからだ。そして依頼すれば君は必ず何かしらの答えを見出してくれるだろう。だが今は、エデの言う通りだと思うが」

 どんなにジャニスティが迅速、優秀であったとしてもたった二日間で調査し証拠を上げるのは極めて困難だと、諭す。

 しかし彼はなおも強く、許可を求めた。

「解っています。それでも、架空の人物かもしれない“その者”がいると信じたい。そして探し出せれば……過去と今、未来の全てが繋がる気がするのです」

「なんとも敵いませぬな、坊ちゃまには」

「ふぅ……」
――心は同じ、なのだな。
(誰に似たのか。自ら険しい道を選ばずとも良いと言っているのだが)


「やはり、同じ種族だから……か」

 まだ勢いが勝っているようにも見えるジャニスティの変化。その頑張り過ぎる性分はエデにそっくりだと二人に聞こえぬ声でオニキスは小さく、呟いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元の世界には戻れない?戻れますけど。

ファンタジー
 グランズデール皇国に《聖女》が召喚された。  皇国は300年ぶりに召喚の儀を行い、聖女を異界から召喚する事に成功したのだ。  召喚されたのは、12才の幼き少女。  就寝中にいきなり身体が熱くなり、熱が引いたと思ったら異世界に居たという。 元の世界に帰して!少女は泣き喚き、盛大に嘆いた。 召喚の儀を執り行ったこの国の皇弟であり魔法術騎士団総長は憐みの表情をしてーーーー 「異界渡りは召喚は出来ても、戻す方法はないのです。最上位の聖女として、何不自由なく慈しみますから、皇国を救ってください」 と、大きな不安に体を震わせる少女に語った。  少女は泣き顔を伏せ蹲り、表情を見せない様にして動かなくなった。  伏せた顔の本当の表情はーーーーー 『残念でした!いつでも帰れますけど?』 悪い顔をして嘲笑う。 何も知らない、知ろうとすらしない人たち。 好きの反対は無関心だというけれど、私はこの人たちから無関心な存在だったのかもしれない。 もう二度と心を開いたりしない。  実はこの召喚の儀によってこの場所へ現れるのは、少女は二度目である。  一度目は思い出したくもない惨めな結末だった。  全てを失い連れて来られた知らない世界で、生涯笑う事などないだろうと嘆いた世界で、やがて自分の全てで支えたいと愛した人の裏切りを知り、自害したのだ。 神は見ていた。 少女の激しい苦悩の痛みを天界からずっと。 その可哀そうな魂を救い上げ癒し、また少女の望む逆行させた時の中に送り出した。 神は、少女の憂さ晴らしのついでに、捩れた世界の調整を頼んだ。  ――――今度は間違えない。  全てを失ったあの時のように泣いたりはしない。 心許す事も、愛すこともない。  異世界と現世を行ったり来たりして何も失うことなく、今度は熨しをつけてくれてやるのだ。 ーーー違う国が召喚した聖女もどきに、あの人なんてくれてやるわ。

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

転生幼女はお詫びチートで異世界ごーいんぐまいうぇい

高木コン
ファンタジー
第一巻が発売されました! レンタル実装されました。 初めて読もうとしてくれている方、読み返そうとしてくれている方、大変お待たせ致しました。 書籍化にあたり、内容に一部齟齬が生じておりますことをご了承ください。 改題で〝で〟が取れたとお知らせしましたが、さらに改題となりました。 〝で〟は抜かれたまま、〝お詫びチートで〟と〝転生幼女は〟が入れ替わっております。 初期:【お詫びチートで転生幼女は異世界でごーいんぐまいうぇい】 ↓ 旧:【お詫びチートで転生幼女は異世界ごーいんぐまいうぇい】 ↓ 最新:【転生幼女はお詫びチートで異世界ごーいんぐまいうぇい】 読者の皆様、混乱させてしまい大変申し訳ありません。 ✂︎- - - - - - - -キリトリ- - - - - - - - - - - ――神様達の見栄の張り合いに巻き込まれて異世界へ  どっちが仕事出来るとかどうでもいい!  お詫びにいっぱいチートを貰ってオタクの夢溢れる異世界で楽しむことに。  グータラ三十路干物女から幼女へ転生。  だが目覚めた時状況がおかしい!。  神に会ったなんて記憶はないし、場所は……「森!?」  記憶を取り戻しチート使いつつ権力は拒否!(希望)  過保護な周りに見守られ、お世話されたりしてあげたり……  自ら面倒事に突っ込んでいったり、巻き込まれたり、流されたりといろいろやらかしつつも我が道をひた走る!  異世界で好きに生きていいと神様達から言質ももらい、冒険者を楽しみながらごーいんぐまいうぇい! ____________________ 1/6 hotに取り上げて頂きました! ありがとうございます! *お知らせは近況ボードにて。 *第一部完結済み。 異世界あるあるのよく有るチート物です。 携帯で書いていて、作者も携帯でヨコ読みで見ているため、改行など読みやすくするために頻繁に使っています。 逆に読みにくかったらごめんなさい。 ストーリーはゆっくりめです。 温かい目で見守っていただけると嬉しいです。

【完結】真珠姫と野獣王

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「美姫には忠実な犬が必要だ」  強大なジャスパー帝国の前に、ムンパール王国は破れた。家族を失った元王女アンネリースは、人質として帝国に連れていかれる。その先で、功績を上げた「蛮族の将軍」へ下賜された。悲壮な覚悟を決めて赴いた辺境は、思ったより居心地が良くて。  豊富な知識と戦略の才能を生かす真珠姫アンネリースと、野蛮だと罵られながら戦い続けたルードルフは手を組み、国盗りを開始する。亡国王女と野獣扱いの勇猛な将軍の、痛快な逆転劇。  ハッピーエンド確定、残酷な表現あり、R15 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/06/30……完結 2024/06/22……本編完結 2024/03/19……アルファポリス、女性向けHOT 42位 2024/03/14……エブリスタ、#ファンタジートレンド 1位 2024/03/12……連載開始

追放された宮廷錬金術師、彼女が抜けた穴は誰にも埋められない~今更戻ってくれと言われても、隣国の王子様と婚約決まってたのでもう遅い~

まいめろ
ファンタジー
錬金術師のウィンリー・トレートは宮廷錬金術師として仕えていたが、王子の婚約者が錬金術師として大成したので、必要ないとして解雇されてしまった。孤児出身であるウィンリーとしては悲しい結末である。 しかし、隣国の王太子殿下によりウィンリーは救済されることになる。以前からウィンリーの実力を知っていた 王太子殿下の計らいで隣国へと招かれ、彼女はその能力を存分に振るうのだった。 そして、その成果はやがて王太子殿下との婚約話にまで発展することに。 さて、ウィンリーを解雇した王国はどうなったかというと……彼女の抜けた穴はとても補填出来ていなかった。 だからといって、戻って来てくれと言われてももう遅い……覆水盆にかえらず。

婚約破棄、修道院送り、でも冤罪で謝るのは絶対に嫌。本当に悪いことをしてから謝ろうと思います。

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚約者と仲のいい相手を虐めた……ということにされてしまった、夢を見たの。 そんなの耐えられない。修道院で静かに暮すのはいいけれど、冤罪で謝るのは絶対に嫌。だったら本当に虐めてから、全力で謝ってあげます。

陛下、貸しひとつですわ

あくび。
ファンタジー
亡き母ビアトリスから引き継いだ二冊のノート。 ひとつには母のアイデアが、もうひとつには陛下の貸しが詰まっている。 ビアトリスの娘、クリスティアがノートをもとに母に恥じぬ生き方をしようと決意した矢先、 顔も知らなかった生物学上の父が家族で公爵邸に乗り込んできた。 無視をするつもりが、陛下からの命により、彼らを別邸に住まわせることに。 陛下、貸しひとつですわよ? ※すみません。完結に変更するのを忘れていました。 完結したのは少し前なので、今更の完結作品で申し訳ないです。

処理中です...