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341.認可

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「まだ残る私の弱さ……『彼女に生きていてほしい』という微かな想いが見せる、夢想かもしれないのだがね」

「しかし、オニキス。私は、その……ベリル様にお会いしたことはありませんし、写真も拝見したことはないのですが」

「あぁ、そうだったな」

「なぜ、扉を……」
(全く関係のない私が書庫で扉を見つけ、さらには入ることが出来たのか)

 ジャニスティはふと疑問を、思う。不思議そうに、または不安そうな困り顔で再び考え込んでいた。その普段見る事のない彼の表情豊かな様子にオニキスは微笑み、もう一言。

「ジャニー。良ければ私の考えをもう少しだけ、話してもいかね?」

「はい……ぜひ、もちろんです」

「ありがとう。しかしこれは、私の憶測かもしれないが……」

 コトン――。

「ぁ……」
(この甘い香りは)

「お二人とも、お疲れでしょう。さぁ、お茶請けにどうぞ」
 エデはにっこりと笑み二人の前に白く美しい花の形をした皿を置いた。

「有難い。頭を使う時は、甘味が嬉しいものだ」
 オニキスはそう言い笑顔で喜びの気持ちを表しジャニスティへ目を向ける。

「……エデ、これは」
「はい、坊ちゃま。マリーの手作りですぞ」
「やはり……懐かしい香りだ」

 それは芸術的な一品ひとしな――ベルメ苺が練り込まれた、美しい花をかたどった生菓子であった。

「喜んで、頂けましたかな?」
「あぁ! もちろん……そうか、マリーが」
(素直になれなかったのだ、ずっと)

 エデの家で暮らした、三ヶ月間。
 彼にとって人生で初めて厳しくも愛ある指導を受けまた、“信じる心”を学んだ場所である。そこでマリーは文学を教える先生であり、母のような存在でもあった。

 しかし――家族の温もりなど知らない当時の彼には優しく包み込んでくれるマリーとどう会話をすれば良いかが解らず日々、その笑顔にも冷たく接していた。

「……今度、礼を」
(マリーへ、会いに行こう)

 ジャニスティの冷たい心は融けるように変化している。
 それは周囲の者たちも感じる程に。
 さらにこの数日間で言動だけではなく表情までもが柔らかく良き方向へと、変わっていた。

「君の事を見守り、そして認めたというのはベリルではないと思うのだよ」
「……?」

 首を傾げるジャニスティ。
 するとオニキスは目を瞑り、次の言葉を告げる。

「“ベルメルシアの瞳”とは、大切な可愛い私の愛娘――ベルメルシア=アメジストの事だ」

「なッ――!! まさかそのような」

 再度、一驚を喫した彼の頬は赤く染まり黙りこくった。
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