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340.家伝

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 ジャニスティの表情に笑顔で応えたオニキス。その横には師匠であり親同然とも言えるエデが座りそんな彼もまた幸せそうに微笑むと、口を開いた。

「坊ちゃま、貴方がベルメルシア家でアメジスト御嬢様と共に過ごされた十年間。その献身的な姿は、確かに――“ベルメルシアの瞳”に、しっかりと見守られていたのでしょう」

(ベルメルシアの、瞳? 私が見守られるとは……)

 ジャニスティは師匠エデの考えていること、その意味を理解しようと懸命に考える。それから二、三分程過ぎた頃オニキスがクスッと笑い、沈黙を破る。

「ジャニー」
「あ、あっはい?」
「私が知っていることを話そう。その隠し扉には、ベルメルシア家の血族のみに伝わる、特別な魔力が宿っているんだ」

「“特別な魔力”……」

 オニキスはベリルからベルメルシア家血族だけが持つ魔力やその能力に関する情報を詳細に、聞いていた。その時期はベリルが身籠り出産するまでの約十ヶ月間、何かを予期し思い立ったかのように毎晩欠かさずオニキスへと話した内容の、一部である。

 いわゆるベルメルシア家に伝わる家伝のような話を今この夜、この場でジャニスティの耳に入れるのは彼なりに、考えあってのことだった。

「そう。その場所で“永眠”している――つまり“仮死状態”だと考えられる妻ベリルは、代々伝わる魔力に包まれた環境で眠っている。しかしそれでも、ベリル自身になんらかの力があったにせよ……そのままの状態で寝かせておくにはいずれ体の全てが死に至る危険が考えられた」

「確かに……そうですね」
 困惑した表情だが彼はオニキスの発する言葉の一言一句、聞き逃さぬように耳を傾ける。

「うむ、そこでだ。元気な頃のベリルもよく知る人物、信頼の置ける御方に相談をした。その結果、その御方の持つある特殊な力――状態保持魔法により、ベリルは十六年間変わらず、無事に保護されている」

 それはその御方とあの隠し扉という特別な魔力の中だからこそ実現できている状況なのだろうと、話した。

「そのような、大事な場所だったのですね……」
(そうとも知らず本当に勝手な行動を。やはり私は最低だ)
 ジャニスティは心の中で自分を戒め再度、頭を下げる。

「いや、頭を上げてくれジャニー。今、恐らくあの空間を護っているのはベリルの力だと……いや、まぁ、これは私の願い、か」

 自分に言い聞かせるように頷くオニキスは考えられる理由を述べ悲しそうに微笑すると続きを、話し始めた。
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