上 下
334 / 382

334.説明

しおりを挟む

「――そういうわけで坊ちゃま。念の為、奥様とご一緒だった人物の背格好や髪型、話し方や声の特徴含め、続きをお話し願えますかな?」

「そうだな……分かった」

 エデがそう促すとジャニスティは多少オニキスの顔色を窺い言葉を気遣いながらもグッと気合いを入れ、口を切る。



 ジャニスティが報告した内容は――。

 まずは急ぐあまり自分の直感に反して裏の中庭を通ってしまった自身の浅はかな行動を後悔した気持ちを述べ、その上で報告を進めていく。

 それからはスピナの密会現場で見聞きしたことを事細かに話していった。
 逢引の相手であるその“訪問者”との呆れる行動に加え、オニキスに関する様々な情報(魔力を持たない等)と、ベルメルシア家にとって大事な“能力”(血筋で受け継がれる力)についてペラペラと漏らしていたこと。その話の中で前当主でありアメジストの母でもある『ベリルの存在』までもが話されていた(ベリルの死後に、オニキスが塞ぎ込んだこと)。
 そして全てがベルメルシア家への裏切り行為となる内容だったということを話した。

――そんな中で感じた、来訪者の異様な雰囲気や突然口調や声、態度がころころと変化する事などを説明しその中で言葉では表現できない「妙な違和感と怪しさ」があったとその特徴を、挙げていった。

 そして――。



(オニキス……貴方はすでに気付いているのか、それとも未だに?)

 そう心の中で葛藤しながらも話し続けるジャニスティは密会現場で聞いた、あの話についてついにオニキス本人へと、訊ねる。

「ここまでで、一つ……オニキス。貴方に確認しておきたいことがある」
「ん? もちろん、分かることであれば、答えよう」

 感情を抑えるようにずっと話し続けたジャニスティが突然、神妙な面持ちで言った言葉。その表情を見たオニキスもまた真剣に返事をする。

「実は、奥様がその男に笑いながら話した衝撃の言葉がとても信じられない内容で。それがオニキス、貴方との“婚姻関係は成立していない”と、そう仰っていた」

「間違いない。事実だ」

 右手に持っていた酒のグラスをテーブルに置きながらオニキスはサラッと、答えた。

「じゃあ、なぜ……」

 問い掛けに一秒もなく返ってきたベルメルシア家当主からの、答え。まさか本当だったのかとジャニスティは少し困惑した表情でオニキスを見る。その瞬間惹き込まれるようにオニキスの赤茶色の瞳奥に見えた、美しい黒色の眼には彼の強く固い意思が、表れていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

意地を張っていたら6年もたってしまいました

Hkei
恋愛
「セドリック様が悪いのですわ!」 「そうか?」 婚約者である私の誕生日パーティーで他の令嬢ばかり褒めて、そんなに私のことが嫌いですか! 「もう…セドリック様なんて大嫌いです!!」 その後意地を張っていたら6年もたってしまっていた二人の話。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

転生したらチートでした

ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!

お飾り妻は離縁されたい。「君を愛する事はできない」とおっしゃった筈の旦那様。なぜか聖女と呼んで溺愛してきます!!

友坂 悠
ファンタジー
この先はファンタジー色が強くなりすぎて恋愛ジャンルではどうかとの思いもあって完結させていましたが、ジャンルを移し連載再開することにしました。 よろしくお願いします。 「君を愛する事はできない」 新婚初夜に旦那様から聞かされたのはこんな台詞でした。 貴族同士の婚姻です。愛情も何もありませんでしたけれどそれでも結婚し妻となったからにはそれなりに責務を果たすつもりでした。 元々貧乏男爵家の次女のシルフィーナに、良縁など望むべくもないことはよく理解しているつもりで。 それでもまさかの侯爵家、それも騎士団総長を務めるサイラス様の伴侶として望んで頂けたと知った時には父も母も手放しで喜んで。 決定的だったのが、スタンフォード侯爵家から提示された結納金の金額でした。 それもあって本人の希望であるとかそういったものは全く考慮されることなく、年齢が倍以上も違うことにも目を瞑り、それこそ両親と同年代のサイラス様のもとに嫁ぐこととなったのです。  何かを期待をしていた訳では無いのです。 幸せとか、そんなものは二の次であったはずだったのです。 貴族女性の人生など、嫁ぎ先の為に使う物だと割り切っていたはずでした。 だから。縁談の話があったのも、ひとえに彼女のその魔力量を買われたのだと、 魔力的に優秀な子を望まれているとばかり。 それなのに。 「三年でいい。今から話す条件を守ってくれさえすれば、あとは君の好きにすればいい」 とこんなことを言われるとは思ってもいなくて。 まさか世継ぎを残す義務さえも課せられないとは、思ってもいなくって。 「それって要するに、ただのお飾り妻ってことですか!?」 「何故わたくしに白羽の矢が立ったのですか!? どうして!?」 事情もわからずただただやるせない気持ちになるシルフィーナでした。 それでも、侯爵夫人としての務めは果たそうと、頑張ろうと思うのでしたが……。 ※本編完結済デス。番外編を開始しました。 ※第二部開始しました。

処理中です...