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331.自分

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 長い間、自分でも『冷たい氷のような心しか持たない』そう思ってきた彼はここ数日の出来事(クォーツとの出会いやアメジストへ抱く想いなど)によって、変化した。

 そして今夜の会合ではっきりと見えてきた頭と心の矛盾に戸惑うが、しかし。
 彼はこの瞬間――“自分”という高い壁を乗り越えようとしていたのだった。


「……(フゥー)」
 ジャニスティは深呼吸し、大きく息をする。

 それから裏中庭で目撃したスピナとカオメドの怪しげな関係について再確認するように自身の記憶を、辿る。彼自身がその目と耳で見聞きした一部始終をオニキスへと詳細報告するため頭に浮かぶ言葉を、まとめた。

 そしてベルメルシア家当主としてのオニキスへ――スピナとの関係も確認しなければと彼は心の準備をするように、左胸へと手のひらを当てる。ドクドクと血液が循環する大きな振動が身体中から聴こえ腕に、指先にと、全身へ伝わり響く。

(不安? いや、そのような感情は決してない。大丈夫だ)

 エデとオニキスへ聞こえそうなくらいに大きく鳴る心臓の音を何とか抑えようと思わず右手で左胸のポケットを掴むようにグッと、握り締めた。

「ジャニー、どうした?」

 そして――。

「いえ、実は。オニキス……貴方に伝えなければならない重要な話がある。それといくつか確認したい事も――」

 それは怒りや疑いではない。
 彼の鋭い眼光は信頼の眼差しでありエデとオニキス、二人と目を合わせ決意を表していた。

「そうか……分かった」

「ありがとうございます。では――――これからお話する出来事、その問題について恐らく、私がベルメルシア家へ仕えてきた十年間で一番驚愕し、そして言いづらく……聞きづらい内容です」

 ジャニスティの丁寧で声が重くなる口調に引き締まる、空気。その様子を見守るようにしていたエデは黙って目を瞑り、そして頷く。

「――っ!!」
(エデ……お見通しなのか? やはり彼だけは全てを知り……解っているのかもしれないな)

 ジャニスティは改めて、エデという存在の大きさを感じた。

「うむ、遠慮はいらない、ジャニー。例えどのような話だとしても、私は受け入れる覚悟がある」
「そうですぞ、坊ちゃま。貴方の思うがままに、お話し下されば良い」

 二人の言葉に深く頭を下げ「はい」と答えたジャニスティは再び深呼吸、心をしずめる。

「エデは知っての通り、本日の午前にお嬢様を学校へお送りする際――」

 朝に報告できなかった事からゆっくりと、話し始めた。
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