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298.曲者
しおりを挟む「これも何かの縁。意味ある出逢いだったのですかな」
和気あいあいとする笑顔の影で一人、哀愁漂う表情で呟いていたのはベルメルシア家で長く務める執事でありアメジストの祖父代わりでもある――フォルだ。
(そう、昔は当たり前のようにこうして皆が笑い平和に過ごしていた。しかし、あの日を境に幸せな時間を送ることは、長く難しい状況となっておりました)
――我が当主を護り切れなかった私にも、責任はありましょう。
「もう、二度目はない。失敗は許されませぬ」
これがまさしくベルメルシア家のあるべき光景であるとフォルは改めて目に焼き付ける。その心には強く硬く結ばれた忠誠と誰よりも熱い思いが、沸々と湧き上がってくるのであった。
◇
コッン――コッン――コッ。
「待て」
その声に立ち止まった彼女は真っ直ぐとした姿勢そのままでゆっくりと振り向き、返事をする。
「――はい。何かご用でしょうか」
「どこへ行くつもりだ」
「自分の持ち場へ戻り、本日残りの業務を――」
答えた後も疑念を抱く天色の瞳は鋭い目つきのままジッと、見つめる。それでも彼女は人形のように微動だにせず、質問を返した。
「まだ何か?」
「単刀直入に聞く。君は一体、何者なんだ」
食事の部屋で皆が幸せな一時を過ごしていた夕食後。
靴音もなくスーッと部屋を出ていくノワの姿を見逃さなかったジャニスティは追いかけ、声をかけていた。そして彼女の謎を少しでも解明させておきたいとの思いから一気に核心へ触れるような言葉を、発する。
「ただの使用人です」
無駄のないノワの一言は彼が予想した通りの、回答であった。
この後にオニキス、エデとの会合を予定している彼は三日後に開催されるお茶会の件も含めた情報収集と表向き以外の準備も、進めなければならない。その為、微かにも感じた不安要素は今のうちに解決し必要であれば排除しておきたい、そう思っていた。
そんな心持ちのジャニスティが当然、ここで引き下がるわけがない。
「中身のない言葉で、私が納得すると思うのか? もし何か、理由あっての不穏な言動であるならば……聞かせてほしいのだが」
(私を見逃した件、お手伝いたちへ茶会準備の的確な指示。スピナ専属お手伝いということだけは気がかりだが……他に悪意のような印象もなければむしろ、ベルメルシア家の味方にすら思えてならない)
まるでそこは時が流れていないと錯覚する程に張り詰めた空気の中「では一つだけ」と響く美声が、聞こえてきた。
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