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297.夕食

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 この日ベルメルシア家の夕食時はアメジストやジャニスティがこれまでに見たことのないような賑やかさと皆の笑顔で、溢れる。

――それはベリルがいた、あの頃のように。

「あんなに嬉しそうに召し上がって下さるなんて……」
「クォーツ様の成長が、お早いですわ! スプーンの持ち方もお上手に」
「えぇ、本当に。アメジスト御嬢様も笑って」

 出来上がった料理を運んできた料理人たちは食事の部屋に入ってからスピナがいないことを知り、一驚。その反面ホッと胸を撫でおろすと他のお手伝いたちと一緒に並び、朝食時よりも嬉しそうにご飯を食べてくれるクォーツの顔を見て涙を浮かべる。

 そんな温かな雰囲気はここ数日間で様々な悩みを抱えるオニキスの心に平穏さを取り戻させ、愛する妻ベリルとの記憶を思い起こさせていた。

「クォーツ、美味しかったかい?」
「ん……ぁいッ! トゥ? んーと、おトウサンさまぁ!!」

『『可愛いッ!!』』
――はははっ♪

 皆は顔を見合わせそう囁きそれから気兼ねなく楽し気に笑うと明るい声に、包まれる。その“みんな笑顔”の光景に嬉しくなったクォーツは両手を広げクルクルと踊り、舞う。

 キラキラキラ――……。

 閉められたカーテンの隙間から射す、穏やかな月明かりに照らされたクォーツの背中が一瞬錯覚のように輝き――そこに“天使の翼”が視えるようであった。

「うふふ、ねぇクォーツ。『お父さん様』も素敵だけど、今度は“お父様”と呼んでみましょう?」

「うみぃ! そうでしたぁ!! えっと『おとうさまぁ』ですの」

「はは、いや。どちらも嬉しいがね、ありがとうクォーツ」
 オニキスは満面の笑みで「すっかりアメジストはお姉さんだな」と言いクォーツの頭をヨシヨシと、撫でた。

『『だ、旦那様が……』』
 滅多に見ない当主の表情にお手伝いたちは皆、頬を染める。

「きゃあは!? うれしうれしですのぉ! お父さまぁとお姉さま、ありがとうございます♪」

 他愛のない会話で笑顔の花が咲く。そんな時間が今とても貴重であると此処にいる皆が心から幸せを感じた、ベルメルシア家の夜。

 日々“スピナの威圧”による脅威が働く者たちの心に、蔓延はびこる。残念ながら十六年前ベリルを失ったあの日、無意識にスピナから何かしらの影響を受けているオニキスもその一人なのだ。

――彼自身気付いていない“魔毒”。
 しかし何かがきっかけでそのスピナから受け続けた圧のようなものが解け始め“本当のオニキス”の心へと、戻りつつあった。
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