上 下
254 / 398

254.本望

しおりを挟む

「フにゅぅ~ン……むにゃん」
「まぁ! ふふ。可愛い」
 アメジストの優しい手の温もりを感じたのか、気持ち良さそうに寝言を言うクォーツの姿にクスクスと笑み「どんな夢を見ているのかしら」と、呟く。

「えぇ、しかし良かった。この穏やかな時間を護ってゆけるよう今後も……最善を尽くします」

 その一瞬少しだけ彼の表情は、曇る。

 運良くこうして助ける事の出来た小さな命であるが、もし今後――レヴシャルメ種族の生き残りがまだ、この街にいるとしたら? そしてもし、血を継ぐ者(クォーツ)を迎えに来たとしたら。

(私はクォーツの仲間たちへ、どう説明するべきなのか)
 今になって自身が行った救助方法(他種族である自分の血と翼を使った復元魔法)が問題視されるのではないかという、懸念。それと同時に「もしや他に、助ける方法があったのではないか」という一抹の不安が、残っていた。

 それでも変わらないジャニスティの誓いは『兄妹として一緒にいる限り、一生クォーツを護る』それが、本望である。

「――ジャニスのおかげね。ありがとう」
「あ、はい?」

 アメジストの透き通るように美しく落ち着いた声が耳に触れジャニスティはハッと、我に返る。

「い、いいえ、その、お嬢様。それは、私の力ではありません。この子には最低限の基礎を教えただけ。にも関わらず、この短期間に多くの事を習得する理解力には、目を見張るものがあります。もちろん、種族の特性もあるとは思いますが……しかし一番はやはり、クォーツの努力あっての結果でしょう。それに――」

 いつもの倍程に口数多く彼は、答えていた。

 それはまるで気を紛らわすかのような余裕のない口調と言葉で、話し続ける。へりくだるような発言と真面目な顔で答えるジャニスティの様子を窺うとアメジストは少しだけ困り顔、眉を下げ声をかける。

「ねぇ、ジャニス。そんなに、謙遜しなくても」

 というアメジストもまた『クォーツの努力』が結果に大きく繋がっていると、感じていた。

 何故、そう思うのか?
 それは出会った者たちの言葉や声、さらに表情と様々な視点から“他種族の動き”を自分なりに学び吸収。座学ではジャニスティの手元にあった数少ない教材だけで、勉強。それでも「楽しい」と言い自然に応用し尚且つ無理なく、自分が出来ることから確実にやっていた。

 そうやってクォーツは一生懸命に、勉強をしているのである。笑いながらも抜けのないその勤勉さに二人が感銘を受けている気持ちは、同じだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語

瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。 長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH! 途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...