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249.旧友
しおりを挟むその感じた気持ちを、心を。
不思議な先生へと、問う。
「……あの、失礼とは存じますが。エデとはどのような――」
思い切って尋ねたジャニスティの顔を見ると先生は先程よりも少し頬を緩めニコッと笑い多くは語らずに一言だけ、また呟く。
「奥様がこの学校で、教師を――」
「あ……そうでしたか」
先生の短い言葉だけで彼は全てを、悟る。
(あぁ、そうだった。こんな頭の悪い私でも身になる教えで、懸命に教育し語学を学ばせてくれた)
エデの奥様――つまりマリーは、元教師だ。昔は学校に勤めていたと言っていたのをジャニスティはふと、思い出した。
「それが、此処……」
――この学校で昔、一緒にいた? 旧友ということか。
彼が生まれ変わるためにエデの家で過ごした約三ヶ月という長くて短い、あの月日。
最初はどう相手と接すれば良いのか、距離感すら分からなかったジャニスティが自己防衛のため、反抗的な態度を取っていたにも関わらず常に微笑み受け入れ、投げ出さずに時間を割いてくれたマリー。
そして先程、宝飾店に行った際エデが言ったあの言葉――「家族に」との話が何故かこの瞬間、ジャニスティの頭を過ぎっていた。
◇
「ねぇ、ジャニス。やはり私、心配をかけてしまったのね」
「何故、そのようなことを?」
友人たちに「また明日」と笑顔で手を振り馬車へと歩き出した彼女は突然シュンとした顔で、話し始めた。
「それは……これまで、一度も校門の前で待っていたことはなかったから」
改めて謝罪の気持ちを口にするアメジストの顔を不思議そうに見つめるジャニスティはハッとし顔を見られぬよう背を向け、気付く。
――私は無意識に、いつもと違う行動を取っていたのだな。
「いいえ、お嬢様が謝るようなことは何もありません。私がただ、早く……あの、コホンッ! すみません。貴女様のご無事なお姿を、確認したかったので」
ふいに声を詰まらせた彼の頬は少しだけ熱を帯びている。そんな乱れる心から冷静さを取り戻さなければと目を瞑り、瞬時に“自分”を整えるといつものジャニスティの冷静沈着な顔――「朝から色々とあったので、心配だった」と最後にそう言葉を、付け加えた。
「そうだったのね。ジャニス……いつもありがとう!」
彼の話を聞きホッと胸を撫でおろしたアメジストは頬を染め嬉しそうに、答える。そして満面の笑みで馬車へ向かい、歩き出した。
――『早く……』ジャニスティが言いかけた、言葉。
それは彼の心だけで、囁かれる。
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