上 下
238 / 398

238.久遠

しおりを挟む



 マリー、見た目は七十代後半。

 夫であるエデと、昔からの知人(アメジストの通う学校の先生など)は実年齢を知っているが周囲には知られぬよう、秘密にしている。

 容姿は小柄で可愛らしい印象の、肌は健康的な色白だ。少し巻かれた短い銀髪は艶があり上品にまとめられ、その立ち姿は歳を感じさせない程に背筋が真っ直ぐと伸び、美しい。

 店に入った際クォーツを落ち着かせたあの優しい声は聞く者の心を穏やかにする効果があり、柔和な笑顔は温かい雰囲気を持ちすべてを受け入れ包み込む心の広さを、感じさせた。

 ジャニスティが兄と呼ばれた夜、妹クォーツのため『洋服を見繕ってほしい』とエデに依頼。その後に届いた品物はエデとマリーの二人が選定したものだった。急で時間がなかったにも関わらず手を抜かない良品が可愛いのはもちろん、洋服は採寸したかのように寸法が適切。

 そしてジャニスティは他も期待以上の内容でとても、驚く。

 布袋には靴や髪飾りといった小物、さらに文具品まで揃えてあっただけでなくその中身が入っていた布袋はなんと二通りの使い方を備えた、機能性のある手作りの鞄だったのだ。これはエデの表情も誇らし気になり話していた、彼女の温かな心遣いが垣間見える出来事であった。

 そんなマリーはアメジストの母ベリルが生前――まだ十代で学園に通っていた頃に授業を教えていた先生であり、もちろんスピナとも面識がある。
 その後、十数年前に学園を退職しこの街での様々な活動に率先して参加しながら今はこの宝飾店を、切り盛りしているのだ。

 誰もが羨む程、仲睦まじい夫婦だと評判の二人だが実は、種族が違う。

 エデの最愛の妻は――“人族ひとぞく”である。



 新しくベルメルシア家のお嬢様となったクォーツとの挨拶を終えたマリーは店の中を、案内し始めた。その緩やかに流れる時間にただただ黙って眺めるジャニスティの瞳はどこか切ない表情を、浮かべる。

「どうしました?」
「いや、何でもない」

 まだ彼が“ジャニー”だった頃――エデから様々な指導を受けた、厳しい三ヶ月間。その中でも語学に関しては元教師でもあったマリーが、教えていた。その後“ジャニスティ”との名を与えられ送り出されエデの家を出てから、約十年。

 親のいない彼にとってエデとマリーは血の繋がりよりも深い、まるで父と母のような存在だ。

 しかしベルメルシア家でお嬢様専属お世話係となってから彼は一度も、エデの家へ帰っていなかったのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語

瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。 長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH! 途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

処理中です...