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236.店屋
しおりを挟むカランコローン――……。
アンティーク調をしたドアベルの音は店内の落ち着いた雰囲気をより一層引き立て扉を開けた瞬間に広がった視界には、宝石が映る。
そこは様々な石を扱う、宝飾店であった。
中へ入るクォーツに先程までのはしゃいだ様子はない。誰に言われるでもなく落ち着きゆっくりと、歩いていた。しかしそれは何かを恐がっているのではなくむしろ、穏やかな気分に浸っているようだ。
「ピカピカぁ~」
目の前には埃一つない程、丁寧に磨かれたガラスケース。中には心奪われる綺麗な宝石が並び、輝く。様々な石を珍しそうに見つめるクォーツのくりくりとしたブラウンカラーの瞳はいつも以上に透き通り、まるで夜空にキラキラと星が瞬くように美しく、煌めいていた。
それは本物の、茶水晶《スモーキークォーツ》のように――。
「いらっしゃいませ」
「ふぁっ! あ、あの」
大雨の夜アメジストとジャニスティに助けられ、人族としての暮らしを始めたばかりのクォーツにとって唯一安心できる場所は今、ベルメルシア家だけである。そのため知らない場所――この店に来店したことは屋敷以外で会う他種族の者たちとの交流を図る、第一歩でもあるのだ。
「こんにちは! ……えっとぉ」
「あら? 可愛いお客様ねぇ。ふふ、こんにちは」
ドキドキしながらも挨拶をしたクォーツの緊張した全身を包み込んでくれる、ふんわりとした優しい女性の声。店の奥から出てきたその女性と互いの顔が見え目が合うとクォーツへ満面の笑みを向け、出迎えてくれた。
「んにゃむ!? えと、あのぉ、ありがと……ござましゅ……」
(なんだか、ほっぺたが、ポカポカしてきたのです)
店の女性からの言葉に恥ずかしくなり頬をピンク色に染めたクォーツは思わず下を向き、お礼を言う。その直後、次に店の中へ入ってきたエデの声に振り向くと彼の背中に、隠れた。
「はっはは。クォーツお嬢様、大丈夫ですよ。此処は私が一番に信頼する女性の店です」
「“シンライ”? 好きってこと?」
「あぁ、そうですね。とても好きってことです。もちろんお嬢様のことも好きですよ」
「はい! 私もエデおじちゃま好き♪」
「いやぁ、それは光栄ですな」
その言葉にすっかり緊張の解れたクォーツは再度、店内を眺め期待に胸を膨らませながら進んでいく。
「エデおじちゃまの、一番ですの?」
「えぇ、そうです。私が一番、大切で大好きな人――」
カツ、コツコツ。
「まさか、あの女性は」
最後に店へ入ったジャニスティは、一驚を喫した。
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