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195.伝心
しおりを挟む――『いつもの馬車を……』と命じた、スピナ。
ベルメルシア家専属の馬車(御者のエデ)が存在するようにスピナにもまた、専属の馬車があった。
その馬車を運転する御者との付き合いは、子供の頃から。スピナが手を借りずに一人でどこへでも行けるようにと両親が手配した、馬車である。
そのため外部者を自分の領域(屋敷)へ立ち入らせることを異常に嫌い拒む程、信用しないスピナにとって数少ない信頼できる、話し相手。大人になった今でも彼女が気に入って使っている理由はその御者、何があっても――他言無用。そして余計な詮索や意見を一切しないところなのだという。
「ノワ! あとはそこの使用人たちにやらせなさい。素敵な処へ連れて行ってあげるから。さぁ、私についてきて」
「はい」
素直に答え頷くノワの後ろで隠れるように心の中で呟く、お手伝いたち。
(奥様は酷い! いつも私たちの事を、道具のように扱って!!)
(どうしてこんな人の為に、私たちが急いで動かなきゃいけないの!)
(お茶会なんて、恐ろし過ぎる。でも言うことを聞かないと……)
自分の要件だけ伝え後は身勝手極まりないスピナの、言動。
彼女の傲慢で自己中心的な態度は毎回の事で皆、慣れていた。
――しかし今日は、違う。
部屋にいる者たちの全員がスピナの言い方を聞きぐぅっと、顔をしかめている。それはほんの一瞬、されどその場で心情を表に出すことなどこれまで絶対にあり得なかったお手伝いたちにとって今は、当たり前に皆の事を蔑むスピナの言葉へ抵抗するかのような、面持ちだった。
その表情はそれぞれに思いを持ち、変化する。
「み、みんな……」
小さくポツリと呟く、ラルミの声。
それは無意識に抱える、心。
今や恐怖の象徴とも言える『奥様』という存在に、立ち向かおうとする雰囲気をふと感じ、気付いたからだ。
――まるで、以心伝心。
(きっと皆、同じ気持ちなのね!!)
アメジストを見送った後はお茶会準備の部屋で招待状作成の作業をしていたラルミ。仲間たちとの繋がり、そして湧き上がる団結力の強さに感極まった彼女の瞳には涙が、溢れる。
一緒に来るよう言われたノワは従順にスピナの後に付き、部屋を出ていこうとしたが立ち止まり、口を開く。
「奥様、皆さんに本日分の指示を伝えましたら、すぐに参ります」
「あぁ、そうだったわね。命令しないと自分たちじゃ、なぁ~んにも出来ないんでしょうし。じゃあノワ、宜しくー」
そう冷たい口調で、言い放った。
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