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189.宿命
しおりを挟む「此度のレヴシャルメ種族との出会い――これは奇跡的な巡り合わせであり、暗い雨の中、消えそうな命の叫びに気付けたお嬢様はその瞬間から、実は深奥に眠っていた力が目覚めていたのかもしれませぬ」
エデは自身の思う一言一言に魂を込めるように言葉を選びながら、話していく。それはとても深みのある声色でゆっくりと、馬車内の時間が流れているようであった。
聞いているオニキスも落ち着いて耳を傾け、一言。
「あの日、助けた話か……普段誰も通らない、人気のない場所で、しかも建物の陰にいたとか。その隠れるように倒れていたあの子に、アメジストだけが気付いた――確かそう、聞いているが」
「そうです。それは不思議なことに、力を持つ私もジャニスティも、あの子の存在には全く気が付かなかった。それはまるで、クォーツ様とアメジストお嬢様の出会いは、“運命”に試されたかのように思うのです」
「運命……」
「そして結果、クォーツ様を見つけたお嬢様は、この『ベルメルシア家の血を継ぐのに相応しい者』ということなのではないだろうか、と。そして……ベルメルシア家にとって最も重要で必要な――宿命だったのかもしれませぬ」
変わらず語り手のようなエデの話にふと、疑問の声が聞こえてくる。
「――宿命? と、仰いますと。それは、どういう事ですかな? エデ様」
急に発言したのはずっと黙っていた、フォルである。彼は『ベルメルシア家にとって』という言葉に過敏に反応を、示す。
「はい、まずはアメジストお嬢様が本日、突如として魔力を開花なされたとの事。その出来事が私に決定的とも言える直感を持たせた、大きな理由でございます」
少しだけ語気を強め話すエデの表情は変わらず見えないが、しかし。熱い心が込められたその言葉と感情はしっかりとオニキスたちへ、伝わってきていた。
「お嬢様がお生まれになってからの十六年間――癒しの力に限らず、何の変化も起こらないことを、巷では『アメジスト様は魔力を持たないのでは?』と、まことしやかに囁かれておりました」
「うむ、知っている。ベリルと比べられるアメジストにはずいぶん苦労を掛けた。辛い思いをさせてしまっていたからね」
フッと苦悶の表情を浮かべたオニキスの心には、誰にも言えぬ思いがあった。それはアメジストの力が起こらないのは自分に魔力がないことが原因ではないか、ベルメルシア家の未来を途絶えさせてしまうのではないかとずっと思い、悩んでいたのだ。
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