上 下
173 / 382

173.準則

しおりを挟む

「気がかりではあるが」
――今は彼女ノワに深入りしている時ではない。

 釈然としない心持ちを一旦忘れようと彼もまた足早に、その場を離れる。

 元々、ジャニスティがこの裏中庭を通った理由はオニキスへの早急な報告であったが、しかし。胸ポケットから再び懐中時計を出すと時刻を確認し、溜息をつく。

「ふぅ~……」
(今からでは、恐らく間に合わないだろうな)

 仮にオニキスへ会えたとしても時間が限られ報告は半端に終わるだけであろうと、考える。直接自分の口から伝えたかったがそれでも、ジャニスティはスピナとカオメドの密会を見過ごすわけにはいかなかったなと自分の判断を、信じた。

(後はエデが、旦那様へ祭典の変更内容だけでも。詳細を上手く話してくれることを祈ろう)

――『常に先を見据える、危険な綱渡りはしない』
 万が一タイミングが合わなかった時に備えて、別の手段を用意する。どのような状況でも、情報の共有ができるようにしなければならない。

 ジャニスティやエデ、執事のフォル。
 彼らはオニキスに仕え従事する上で、求められる手段が今何かを見極め出来なければならない。それはベルメルシア家を守る為にオニキスが心に掲げる準則でありそれが、彼らの基本となる。

 今回の場合、朝から変則的な出来事ばかりが起こり落ち着かない状況。

 そんな一日の始まりはジャニスティの直感が働き「今日は不測の事態が起こりそうだ」と、察知させていた。そのおかげで事前にジャニスティとエデの間では打ち合わせがされており、どちらかに何らかの問題が起こったとしてもオニキスへの報告が円滑に行われるよう、話がついていたのである。

一先ひとまず部屋へ。心配だ」

 ふと、ジャニスティは独り言を呟く。

 自身の癒やし魔法――ルポ(安らぎ)で落ち着かせ気持ちよさそうに眠ったとはいえ、ついさっきまで苦しんでいた可愛い妹クォーツの事がやはり、気になって仕方がない。

(もし目を覚ましていたら、不安で寂しがっているかもしれない)

 彼はクォーツの様子を見に一度、自室へ戻ることにした。



「さて。ここまでにしておこう」
「はい、お疲れ様でございます。旦那様」

 商談が早まり三十分程予定の空いた時間を書類の確認に費やした、オニキス。その間まるで門番のように扉前にいたフォルは当主オニキスが発した言葉に、応える。

「ははっ。本当に安心するよ、フォルの声は」
「身に余る光栄でございます」

 それからオニキスは区切りの良いところで締め、席を立った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました

ピコっぴ
ファンタジー
【異世界に召喚されましたが、間違いだったようです】 ノベルアッププラス小説大賞一次選考通過作品です ※自筆挿絵要注意⭐ 表紙はhake様に頂いたファンアートです (Twitter)https://mobile.twitter.com/hake_choco 異世界召喚などというファンタジーな経験しました。 でも、間違いだったようです。 それならさっさと帰してくれればいいのに、聖女じゃないから神殿に置いておけないって放り出されました。 誘拐同然に呼びつけておいてなんて言いぐさなの!? あまりのひどい仕打ち! 私はどうしたらいいの……!?

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

意地を張っていたら6年もたってしまいました

Hkei
恋愛
「セドリック様が悪いのですわ!」 「そうか?」 婚約者である私の誕生日パーティーで他の令嬢ばかり褒めて、そんなに私のことが嫌いですか! 「もう…セドリック様なんて大嫌いです!!」 その後意地を張っていたら6年もたってしまっていた二人の話。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

お飾り妻は離縁されたい。「君を愛する事はできない」とおっしゃった筈の旦那様。なぜか聖女と呼んで溺愛してきます!!

友坂 悠
ファンタジー
この先はファンタジー色が強くなりすぎて恋愛ジャンルではどうかとの思いもあって完結させていましたが、ジャンルを移し連載再開することにしました。 よろしくお願いします。 「君を愛する事はできない」 新婚初夜に旦那様から聞かされたのはこんな台詞でした。 貴族同士の婚姻です。愛情も何もありませんでしたけれどそれでも結婚し妻となったからにはそれなりに責務を果たすつもりでした。 元々貧乏男爵家の次女のシルフィーナに、良縁など望むべくもないことはよく理解しているつもりで。 それでもまさかの侯爵家、それも騎士団総長を務めるサイラス様の伴侶として望んで頂けたと知った時には父も母も手放しで喜んで。 決定的だったのが、スタンフォード侯爵家から提示された結納金の金額でした。 それもあって本人の希望であるとかそういったものは全く考慮されることなく、年齢が倍以上も違うことにも目を瞑り、それこそ両親と同年代のサイラス様のもとに嫁ぐこととなったのです。  何かを期待をしていた訳では無いのです。 幸せとか、そんなものは二の次であったはずだったのです。 貴族女性の人生など、嫁ぎ先の為に使う物だと割り切っていたはずでした。 だから。縁談の話があったのも、ひとえに彼女のその魔力量を買われたのだと、 魔力的に優秀な子を望まれているとばかり。 それなのに。 「三年でいい。今から話す条件を守ってくれさえすれば、あとは君の好きにすればいい」 とこんなことを言われるとは思ってもいなくて。 まさか世継ぎを残す義務さえも課せられないとは、思ってもいなくって。 「それって要するに、ただのお飾り妻ってことですか!?」 「何故わたくしに白羽の矢が立ったのですか!? どうして!?」 事情もわからずただただやるせない気持ちになるシルフィーナでした。 それでも、侯爵夫人としての務めは果たそうと、頑張ろうと思うのでしたが……。 ※本編完結済デス。番外編を開始しました。 ※第二部開始しました。

処理中です...