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173.準則
しおりを挟む「気がかりではあるが」
――今は彼女に深入りしている時ではない。
釈然としない心持ちを一旦忘れようと彼もまた足早に、その場を離れる。
元々、ジャニスティがこの裏中庭を通った理由はオニキスへの早急な報告であったが、しかし。胸ポケットから再び懐中時計を出すと時刻を確認し、溜息をつく。
「ふぅ~……」
(今からでは、恐らく間に合わないだろうな)
仮にオニキスへ会えたとしても時間が限られ報告は半端に終わるだけであろうと、考える。直接自分の口から伝えたかったがそれでも、ジャニスティはスピナとカオメドの密会を見過ごすわけにはいかなかったなと自分の判断を、信じた。
(後はエデが、旦那様へ祭典の変更内容だけでも。詳細を上手く話してくれることを祈ろう)
――『常に先を見据える、危険な綱渡りはしない』
万が一タイミングが合わなかった時に備えて、別の手段を用意する。どのような状況でも、情報の共有ができるようにしなければならない。
ジャニスティやエデ、執事のフォル。
彼らはオニキスに仕え従事する上で、求められる手段が今何かを見極め出来なければならない。それはベルメルシア家を守る為にオニキスが心に掲げる準則でありそれが、彼らの基本となる。
今回の場合、朝から変則的な出来事ばかりが起こり落ち着かない状況。
そんな一日の始まりはジャニスティの直感が働き「今日は不測の事態が起こりそうだ」と、察知させていた。そのおかげで事前にジャニスティとエデの間では打ち合わせがされており、どちらかに何らかの問題が起こったとしてもオニキスへの報告が円滑に行われるよう、話がついていたのである。
「一先ず部屋へ。心配だ」
ふと、ジャニスティは独り言を呟く。
自身の癒やし魔法――ルポ(安らぎ)で落ち着かせ気持ちよさそうに眠ったとはいえ、ついさっきまで苦しんでいた可愛い妹の事がやはり、気になって仕方がない。
(もし目を覚ましていたら、不安で寂しがっているかもしれない)
彼はクォーツの様子を見に一度、自室へ戻ることにした。
◇
「さて。ここまでにしておこう」
「はい、お疲れ様でございます。旦那様」
商談が早まり三十分程予定の空いた時間を書類の確認に費やした、オニキス。その間まるで門番のように扉前にいたフォルは当主オニキスが発した言葉に、応える。
「ははっ。本当に安心するよ、フォルの声は」
「身に余る光栄でございます」
それからオニキスは区切りの良いところで締め、席を立った。
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