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146.臆病

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――心の成長は喜びと、それに相反する恐れを、産む。

(もう少しの間、二人と一緒にいたかったな……)
 これまで以上にかけがえのない存在となったジャニスティと、アメジストを全力で愛し頼ってくれる可愛い妹、クォーツ。どんなことがあろうと彼女にとって二人は“家族”――血の繋がりはなくとも心で繋がっているのだと、感じていた。

 そんな二人と離れるのが心細い。背を向ける馬車へ後ろ髪を引かれる思いであったが想う気持ちを悟られまいと足早に、その場を離れた。

――その淋しさが溢れ、口に出してしまう前に。

 不安に駆られる彼女が内に抱えるのは心奥から滲み出る、心弱い(別の)自分だった。それはふとした瞬間に頭の中で「ドクン」という音を感じる“恐れ”の部分。
(ううん、恐くなんてない!! 私は――独りじゃないから)


 今後アメジストは『ベルメルシア家の血を受け継ぐ者』として屋敷の皆からだけでなく「ベリル様の生まれ変わり」として街の者たちからも期待されていくであろう。そのことを無意識に感じ取っているアメジスト。
 そしてこの日は急成長していく自分自身への、戸惑い。内に秘められた魔力が花開いていく早さに当然だが、比例することのない自分の心身バランスを受け止めきれず……それを彼女は上手く、整えられずにいたのである。


「よぉ~し! 今日もお勉強頑張らなくちゃ!」
(大丈夫、アメジスト! まだまだ、これから学んでいけばいいの!)

 臆病心を振り切ろうとアメジストは自身を鼓舞するように思いっきり右手を胸に当てギュッと、握り締めた。
 
 しかし水面下で動き始める、運命。それは容赦なくアメジストへと、近づいてきていた。数日後には彼女が生きてきた十六年間の人生で初めてとなる重責試練(継母のお茶会)が、待ち受けるのであった。



 その頃ベルメルシアの屋敷内では――。
 新規開拓事業のため隣街から赴いていた青年――カオメド=オグディアとの交渉中であったオニキスだが、その売り込み説明のやり方や異質さに少々、気分を害していた。

「カオメド君、資料は無いのかね?」
「はい! 本日、僕の説明で十分な……ご納得いただけるものと自負しておりますので!! ではでは、ご説明をさせて頂きますね~」

 彼はよほど自信があるのか、交渉では必須となる見本製品を一点も準備せず、写真や資料も無く。提示してきたのは契約に必要となる書類のみ。信じられないことにほぼ手ぶら状態で来たのだという。

 そして彼は両手を広げ、話し始めた。
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