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141.暗晦

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 目を閉じてたアメジストは必至で笑顔を絞り出すと彼の言葉に、答える。

「えぇ、大丈夫よ。何だか急に……気分が優れなくて」
(私、どうしたのかしら。視界も少しぼんやりするわ)

 馬車の中には暗く淀むような雰囲気がどこからともなく、漂う。そのためか? ますます警戒を強めるジャニスティの顔がうっすらと見えてくるとその面持ちからは、えも言われぬ感情に陥っている様子がうかがえた。

(私だけではない? ジャニスも、何かを、感じているの?)

 アメジストは心の中で彼に問う。しかし思う気持ちを話そうとするが、なのか全く分からない恐怖が邪魔をしてうまく言葉にできなくなっていた。結局彼女は笑顔でいることに耐えられず再び、目を瞑ってしまう。

(お嬢様の顔色が……この現象は一体、何事だ!?)
 ジャニスティは引き返すかどうかを悩み考えながら、馬車をとめようとする。

「エデ! すまない、何処かに馬車を――」
「だ、大丈夫よ。ジャニス、心配しないで。先へ進んで……」

 ぽわぁっ。
(あぁ、なんて優しくて心強い声なのかしら。ジャニスの声は聞いているだけで気持ちが落ち着いて。まるで幸せな魔法が、かけられているみたい)

――思えば、昔からそうだった。
 彼の声には揺るぎない“安心感”がある。
 アメジストの心は『ジャニスが傍にいる』だたそれだけで辛い気分は随分と、緩和されていくのだ。

 だがそれも及ばぬ程の、暗晦あんかい
 突然、背中の凍るような悪寒に襲われた彼女の顔は、強張った。

――冷たい!? いえ、違うわ。身体が切りつけられているように痛いッ!
(胸をグサッと射抜かれるような感覚。どこかで)

 その瞬間アメジストは、ハッと気付く。

「あ、あれよ……あの大雨の日と、同じ」
 するとアメジストの頭と心の中でポツポツとしたたる水の音が、響き始めた。

 それはレヴシャルメ種族であるクォーツの光を見つけ助けた、あの夜に激しく降っていた“雨音”によく似ている。重みある大きな雨粒が水たまりに弾け、音楽のように鳴るあの光景が今、まるで夢でも見ているかのように目の前で広がっていく。

「夢を……見て」
――眠っていないのに。

 夢想のような光景に戸惑いつつ彼女は「私がしっかりしなきゃ!」と両手を膝の上でグッと握り今にも崩れそうな自分を、心底から鼓舞する。

(こんなに弱くて怖がりな私を、クォーツには見せない!)
 アメジストは自身が抱える恐怖をクォーツへ悟られまいとゆっくり深呼吸をし、心を落ち着けた。
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