上 下
101 / 382

101.表現

しおりを挟む

 しかしその様子は周囲にとって当然、驚きの出来事であった。

「おぅっと……クォーツ! ダメだろ~?」

 ガシッ!!

「んーあ~、お兄様ぁー」

 焦りながらも優しく止める、ジャニスティ。その意味を理解出来ないクォーツは「どぉしてですのぉ~」と、ジタバタ抵抗する。それでもアメジストの手を握り、離そうとしない。

「あ……えっとぉ。ジャニス?」

 頬を桃色に染めたアメジストは「良いのよ」と言いながらその白く小さな手をジャニスティに、預ける。

 クォーツの行動は想定外……まさかの出来事に慌てふためくジャニスティは急いで抱き上げたクォーツの顔を、困り顔で見つめた。するとその可愛いくりっと透き通るようなブラウンカラーの瞳と、目が合う。

 クォーツは「えっへへ~」と言い、ニコニコ♪

 ご満悦な“妹”の姿にジャニスティの表情はフッと緩み、肩の力が抜けていく。

(昔から「レヴシャルメ種族の笑顔は心読めず、憎めない」とは聞いていたが)

――本当に何もかも、許してしまいそうになる。

「やはり……謎が多い、君は。なぁ、クォーツ」
 誰にも聞こえない程に小さな声でジャニスティは、呟く。

「ねー、お兄様ぁ~ッ♪」

 暢気のんきなクォーツは「抱っこ大好き~」と言いながら今度はジャニスティに腕をギュッと巻きつけ、その首筋に軽くキスをする。その柔らかく温かい魔力はアメジストの時と同じように彼の身体に、流れ込んでいく。

――幸せを届けるクォーツのキスは、天使そのものであった。

「あぁ、クォーツ……分かったから」
(全く、始まりの日からこれでは、困ったものだ)

 嬉し楽しそうにフフッと一瞬笑い、我に返ったジャニスティは「ふぅ~」と大きく息を吐き心を落ち着けるとそれからアメジストへ向けて。次に部屋へ集まる皆に向かってお辞儀をしながら、話し始めた。

「申し訳ありません、アメジストお嬢様……その」

 結婚出来る歳とはいえまだ十六歳の、アメジスト。しかも大切に育てられてきた御令嬢である。いくら性別を持たないレヴシャルメ種族の者とはいえジャニスティは、アメジストにとって初めてとなる“キス”をクォーツが奪ってしまったと考え申し訳なく思い、言葉に詰まる。

――しかし、アメジストの反応は意外なものであった。

「謝らないで、ジャニス。先程お父様がおっしゃっていたお話で、クォーツはわたくしの妹となったのです! こんなに可愛らしい妹からの素敵な愛情表現を嫌がる理由など……ありませんわ」

 そう言うとクォーツと、笑い合った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄ですね。これでざまぁが出来るのね

いくみ
ファンタジー
パトリシアは卒業パーティーで婚約者の王子から婚約破棄を言い渡される。 しかし、これは、本人が待ちに待った結果である。さぁこれからどうやって私の13年を返して貰いましょうか。 覚悟して下さいませ王子様! 転生者嘗めないで下さいね。 追記 すみません短編予定でしたが、長くなりそうなので長編に変更させて頂きます。 モフモフも、追加させて頂きます。 よろしくお願いいたします。 カクヨム様でも連載を始めました。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました

ピコっぴ
ファンタジー
【異世界に召喚されましたが、間違いだったようです】 ノベルアッププラス小説大賞一次選考通過作品です ※自筆挿絵要注意⭐ 表紙はhake様に頂いたファンアートです (Twitter)https://mobile.twitter.com/hake_choco 異世界召喚などというファンタジーな経験しました。 でも、間違いだったようです。 それならさっさと帰してくれればいいのに、聖女じゃないから神殿に置いておけないって放り出されました。 誘拐同然に呼びつけておいてなんて言いぐさなの!? あまりのひどい仕打ち! 私はどうしたらいいの……!?

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

兄のお嫁さんに嫌がらせをされるので、全てを暴露しようと思います

きんもくせい
恋愛
リルベール侯爵家に嫁いできた子爵令嬢、ナタリーは、最初は純朴そうな少女だった。積極的に雑事をこなし、兄と仲睦まじく話す彼女は、徐々に家族に受け入れられ、気に入られていく。しかし、主人公のソフィアに対しては冷たく、嫌がらせばかりをしてくる。初めは些細なものだったが、それらのいじめは日々悪化していき、痺れを切らしたソフィアは、両家の食事会で……

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

意地を張っていたら6年もたってしまいました

Hkei
恋愛
「セドリック様が悪いのですわ!」 「そうか?」 婚約者である私の誕生日パーティーで他の令嬢ばかり褒めて、そんなに私のことが嫌いですか! 「もう…セドリック様なんて大嫌いです!!」 その後意地を張っていたら6年もたってしまっていた二人の話。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

処理中です...