94 / 398
94.悪策
しおりを挟む
◇
「何なのよッ! んあぁぁー本当に腹が立つ」
ジャニスティとの揉め事後すぐスピナは、部屋を出ていた。人気のない……というよりは人を寄せ付けないようにしてある納戸へ籠もると声を荒げ、憤慨していた。
「許さない、許さない、許せないぃぃ!!」
ものすごい大音声で叫び怒りの感情を、あらわにする。しかしこの納戸、防音壁にでもしてあるのか? その絶叫が扉の向こう側へ響くことはなく、一言たりとも漏れていない。
「邪魔者世話役ジャニスと、生意気な小娘がッ!」
二人の事を散々言い終わったスピナはいつもの、冷たい表情を取り戻す。
「まぁいいわ。あの子たちが余裕の顔をしていられるのも、今のうちよ」
そしてスピナはその言葉を最後にニヤッと笑い、黙りこくる。そして置いてある古いロッキングチェアーに座ると“ゆ~らゆら~”と椅子を揺らしながら――悪策を練り始めた。
それから数分後。
コン、コンコン…………コン。
リズムを刻むように、叩く音。
その音でおもむろに立ち上がったスピナはゆっくりと扉を開け、満面の笑みで迎える。
「いらっしゃあ~い、待っていたわぁ」
「ご機嫌のほどいかがでございましょうか?」
「そんな挨拶はいいから~さぁ早くどうぞ、中へ」
資産家であるベルメルシア家の御屋敷。今スピナの居る場所は納戸とはいえ一般の家より相当に広く、大人が二人……過ごすのも十分である。
「そんな訳にはいきません。ご挨拶もさることながら、いつだってこの思いを伝えておかないと、僕の気が済みません」
その言葉に悦びの表情で応えるスピナはどこか妖艶な雰囲気を、醸し出す。
「んっふふ、それ以上言うと、たぁいへんよ?」
「奥様……いえ、僕の愛するスピナ様。貴女は今日も変わらず何よりも、この世に生きる何者よりも――お美しい」
それを聞きスピナはその腕に巻きつくと、あの日ジャニスティの部屋の前と同じような声を、歌うように発する。
それはやはりスピナの声とは思えない程に甘ったるい声風で「早く、こちらへ来て♪」と訪ねてきた人物の耳元で、吐息混じりに囁く。
「誰かに見られます。それに奥様、お食事の時間が」
「大丈夫よ、ねっ?」
「いえ今は……僕たちの関係が誰かに気付かれては大変です。お帰りを――」
食事が終わるまで待っていると伝えようとしたその人物の言葉を遮りスピナは、唇に軽く愛撫――そのまま納戸へ招き入れると扉は、閉められた。
この怪しげな二人の関係に気付いている者はまだ、いない。
「何なのよッ! んあぁぁー本当に腹が立つ」
ジャニスティとの揉め事後すぐスピナは、部屋を出ていた。人気のない……というよりは人を寄せ付けないようにしてある納戸へ籠もると声を荒げ、憤慨していた。
「許さない、許さない、許せないぃぃ!!」
ものすごい大音声で叫び怒りの感情を、あらわにする。しかしこの納戸、防音壁にでもしてあるのか? その絶叫が扉の向こう側へ響くことはなく、一言たりとも漏れていない。
「邪魔者世話役ジャニスと、生意気な小娘がッ!」
二人の事を散々言い終わったスピナはいつもの、冷たい表情を取り戻す。
「まぁいいわ。あの子たちが余裕の顔をしていられるのも、今のうちよ」
そしてスピナはその言葉を最後にニヤッと笑い、黙りこくる。そして置いてある古いロッキングチェアーに座ると“ゆ~らゆら~”と椅子を揺らしながら――悪策を練り始めた。
それから数分後。
コン、コンコン…………コン。
リズムを刻むように、叩く音。
その音でおもむろに立ち上がったスピナはゆっくりと扉を開け、満面の笑みで迎える。
「いらっしゃあ~い、待っていたわぁ」
「ご機嫌のほどいかがでございましょうか?」
「そんな挨拶はいいから~さぁ早くどうぞ、中へ」
資産家であるベルメルシア家の御屋敷。今スピナの居る場所は納戸とはいえ一般の家より相当に広く、大人が二人……過ごすのも十分である。
「そんな訳にはいきません。ご挨拶もさることながら、いつだってこの思いを伝えておかないと、僕の気が済みません」
その言葉に悦びの表情で応えるスピナはどこか妖艶な雰囲気を、醸し出す。
「んっふふ、それ以上言うと、たぁいへんよ?」
「奥様……いえ、僕の愛するスピナ様。貴女は今日も変わらず何よりも、この世に生きる何者よりも――お美しい」
それを聞きスピナはその腕に巻きつくと、あの日ジャニスティの部屋の前と同じような声を、歌うように発する。
それはやはりスピナの声とは思えない程に甘ったるい声風で「早く、こちらへ来て♪」と訪ねてきた人物の耳元で、吐息混じりに囁く。
「誰かに見られます。それに奥様、お食事の時間が」
「大丈夫よ、ねっ?」
「いえ今は……僕たちの関係が誰かに気付かれては大変です。お帰りを――」
食事が終わるまで待っていると伝えようとしたその人物の言葉を遮りスピナは、唇に軽く愛撫――そのまま納戸へ招き入れると扉は、閉められた。
この怪しげな二人の関係に気付いている者はまだ、いない。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる