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57.愛称 *

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 この世界で生きる者たちは『守るべき相手』が目の前にいればおのずと、強くなれるのだろうか。

 ジャニスティに甘えてばかりいた彼女は今回この出来事によって、ベルメルシア家で働く皆の事を守りたいと切に願い思い、その気持ちは自身に大きく芽生え、大きく働いていた。



「アメジスト、何を言っているの?」
 意味が分からないわとスピナは怪訝な表情で、質問をする。

「えっと……どうして皆様、そんなに不思議がるのですか?」
 分析能力に長けているとはいえアメジスト自身は、自然に発した言葉。継母に何について質問され、お手伝いが何を疑問に思って言っているのかを、全く理解できない。

「どうして……」
 すると少しだけ声に強さが出た、お手伝い。

「ごめんなさい、解らなくて。どうして、というのは?」
 アメジストは困惑した表情で、聞く。すると意外な言葉が返ってきた。

「わ、私のような者の名を、どうしてお嬢様が……ご存知なのですかッ?!」

 彼女の名は、ラルミ。
 お手伝い仲間の間で愛称が“ラミ”と呼ばれている。その名はもちろん愛称をアメジストも継母スピナも知らないであろうと、思われていた。

「え……あぁ! ごめんなさい、馴れ馴れしく愛称で呼んでしまいました」
 はにかみながらそう言うアメジスト。すると他のお手伝いが少し興奮気味に話しかけてきた。

「お、恐れながらお嬢様! 愛称をご存知な事にも驚いているのですが、何より名前をお知りになられている事が――不思議なのです!!」
「お名前……ですか? わたくしは此処に――ベルメルシア家にいて下さる皆様のお名前は、記憶しておりますが」

 なぜそのような事を言うのかと首をかしげる、アメジスト。しかしその視界に入ってきた、情景。今この場にいるお手伝いたち全員が、首を縦に振り頷く。その表情は皆、微笑みに近い。

(何だか理由は解らないけれど。皆の瞳の輝きが、笑顔が! ずっと見れなかった笑顔が!!)

 スピナが後妻として来てからというもの変化した、ベルメルシア家。此処で働く者たちは長きに渡って受けた威圧で生気を失い、諦めていた。それがたった一言アメジストの発した言葉により、壊れかけていた全てを立て直せるのではないかという小さな期待が湧き皆の心に、伝わり始めた。

 厳しさやしつけと言えば聞こえは良いがスピナは親という立場を悪用しアメジストの心を、制圧してきた。しかし今初めてその圧力に屈せず立ち向かおうとする彼女の動きに、皆は希望を感じたのである。
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