48 / 382
48.隠扉 *
しおりを挟む回復を主とするジャニスティだが、他の魔法を使えない訳ではない。
例えば継母に見つからぬように張った、無音の魔法。そして今は一時でも離れてしまう大切な主人であるアメジストを護るため、抱きしめた瞬間にかけた庇護魔法。これは万が一に通路で彼女の身に何か起こった場合に庇い護るためである。
他にも使える魔法はあるのだがいずれにせよジャニスティは治癒回復魔法の使い手であり、それ以外はあまり強い魔力を持っていないのである。
◇
「――――頑張ります。エヘヘ」
期待に胸を膨らませながら、しかし彼の言った注意事項を念頭に置きつつアメジストは、扉をゆっくりと開けた。
ガチャ……キィー。
「お嬢様、お気をつけて」
「ありがとうジャニス。クォーツの事よろしくね」
本心は彼女の事が心配で気が気でないジャニスティであった。が、全く顔色を変える事なくアメジストへ笑いかけ、答えた。
「はい、ご心配なく。お任せ下さい」
その表情にホッと安心するアメジスト。そして通路へ足を踏み入れようとしたがもう一度、ジャニスティの方へ向き直る。
「ジャニス」
「はい、お嬢様。いかがなさいましたか?」
「ベルメ苺のミルクティー、とても美味しかったわ。ありがとう」
ジャニスティの部屋で窓から射し込む温かい太陽の光を感じた時ように、優しい空気が二人の周りを囲んでいる。
その何気ないお礼の言葉や「美味しい」というたったそれだけの感想すら今の彼には、幸せに思えてならなかったのだ。
「ありがとうございます。いつでも喜んでお作りいたしますよ」
――貴女だけの、特別なミルクティーを。
紅茶を残した事を気にしていたアメジストは「ごめんなさい」と伝えると、笑顔で歩き出す。
「また明日、必ず」
扉が閉まるのを見守るジャニスティはそう、呟いた。
ガチャン――。
隠し扉の中に右足から一歩、それから扉の閉まる音を背に目を瞑って数歩、進み入った。
(よし! 振り返らない、前に集中!!)
アメジストは注意事項を心の中で復唱し、気持ちを落ち着ける。わくわくと楽しみにしながら扉の中へ入ったとはいえ、初めての経験に不安がない訳ではない。
「まずはもう一歩! 歩き出さなくちゃ」
ゆっくりと瞼を開き前を見る。真っ直ぐと続く通路を見たアメジストはなぜか、ドキドキしていた。
「すごい素敵……」
その道は彼女が思っていたより綺麗さが保たれ、とても明るい。そして足元は美しい絨毯の床になっており靴音響かず、静かな空間であった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました
ピコっぴ
ファンタジー
【異世界に召喚されましたが、間違いだったようです】
ノベルアッププラス小説大賞一次選考通過作品です
※自筆挿絵要注意⭐
表紙はhake様に頂いたファンアートです
(Twitter)https://mobile.twitter.com/hake_choco
異世界召喚などというファンタジーな経験しました。
でも、間違いだったようです。
それならさっさと帰してくれればいいのに、聖女じゃないから神殿に置いておけないって放り出されました。
誘拐同然に呼びつけておいてなんて言いぐさなの!?
あまりのひどい仕打ち!
私はどうしたらいいの……!?
放置された公爵令嬢が幸せになるまで
こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
意地を張っていたら6年もたってしまいました
Hkei
恋愛
「セドリック様が悪いのですわ!」
「そうか?」
婚約者である私の誕生日パーティーで他の令嬢ばかり褒めて、そんなに私のことが嫌いですか!
「もう…セドリック様なんて大嫌いです!!」
その後意地を張っていたら6年もたってしまっていた二人の話。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
お飾り妻は離縁されたい。「君を愛する事はできない」とおっしゃった筈の旦那様。なぜか聖女と呼んで溺愛してきます!!
友坂 悠
ファンタジー
この先はファンタジー色が強くなりすぎて恋愛ジャンルではどうかとの思いもあって完結させていましたが、ジャンルを移し連載再開することにしました。
よろしくお願いします。
「君を愛する事はできない」
新婚初夜に旦那様から聞かされたのはこんな台詞でした。
貴族同士の婚姻です。愛情も何もありませんでしたけれどそれでも結婚し妻となったからにはそれなりに責務を果たすつもりでした。
元々貧乏男爵家の次女のシルフィーナに、良縁など望むべくもないことはよく理解しているつもりで。
それでもまさかの侯爵家、それも騎士団総長を務めるサイラス様の伴侶として望んで頂けたと知った時には父も母も手放しで喜んで。
決定的だったのが、スタンフォード侯爵家から提示された結納金の金額でした。
それもあって本人の希望であるとかそういったものは全く考慮されることなく、年齢が倍以上も違うことにも目を瞑り、それこそ両親と同年代のサイラス様のもとに嫁ぐこととなったのです。
何かを期待をしていた訳では無いのです。
幸せとか、そんなものは二の次であったはずだったのです。
貴族女性の人生など、嫁ぎ先の為に使う物だと割り切っていたはずでした。
だから。縁談の話があったのも、ひとえに彼女のその魔力量を買われたのだと、
魔力的に優秀な子を望まれているとばかり。
それなのに。
「三年でいい。今から話す条件を守ってくれさえすれば、あとは君の好きにすればいい」
とこんなことを言われるとは思ってもいなくて。
まさか世継ぎを残す義務さえも課せられないとは、思ってもいなくって。
「それって要するに、ただのお飾り妻ってことですか!?」
「何故わたくしに白羽の矢が立ったのですか!? どうして!?」
事情もわからずただただやるせない気持ちになるシルフィーナでした。
それでも、侯爵夫人としての務めは果たそうと、頑張ろうと思うのでしたが……。
※本編完結済デス。番外編を開始しました。
※第二部開始しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる