5 / 63
5
しおりを挟む
「大使殿」
この数日ですっかり聴き慣れた声に呼ばれて、キースは振り返った。
こちらに近寄ってくる声の主の細い二本足は地面についていない。
人間にはない半透明の羽虫のような翅が四枚、銀粉を振り撒きながら羽ばたいて、身長百センチほどの細身の体を浮かせている。波打つ銀の髪が縁取る顔は丸く、白目の少ない丸い大きな黒目はまるで幼い子供のようだが、小さな唇から紡がれる声は成熟した大人の女性のものだ。
「本日もお散歩に出掛けられるのですか? 魔王城の庭はお気に召していただけましたでしょうか」
落ち着いた声音には、自らの王の居城を気に入ってもらえたなら嬉しいという歓迎の気持ちだけがある。
キースも微笑み、言葉を返した。
「ええ。このような自然の中に身を置くことはあまりありませんでしたから。散歩に出るだけでもとても心地が良くて気に入っております」
「それは良うございました。先日は二日続けて川に落ちられたと聞きましたから心配しておりましたが、大使殿にも意外と御転婆なところがお有りなのでしょうか」
揶揄うように言われて「面目次第もございません」と笑って返す。御転婆とは男性には使わない言葉なのだとは訂正しなかった。
魔王の直接の秘書であるというこの女性は妖精族のサラ。キースが魔王城に滞在する間の世話係に魔王がつけてくれた人だった。
この日のために人間の言葉を学んでくれたらしい彼女は時々言葉を間違えるが、訂正するのは申し訳なく思えてそのままになっている。
「国では川遊びをしたことがなかったもので、つい身を乗り出しすぎてしまいました。魔王様の城を汚してしまい、申し訳なく思っております」
「そのことでしたらお気になさらないでくださいな。ここでは魔法ですぐに綺麗にしてしまえますから」
サラが指を鳴らすと、その指先から光の筋が伸びて廊下の隅へと走った。開けた窓から入り込んだらしい枯れた葉や花弁を光が押し上げて、まるで掃き掃除をした後のようにあっという間に綺麗になる。
サラが再び指を鳴らした瞬間、空中から巻かれた大判の布が現れた。
「お座りになって休憩なさるならこちらをお使いください。お飲み物や軽食も言ってくだされば用意できますから、お気軽にお申し付けください」
差し出された布を、キースの後ろから進み出てきたライルが両手で受け取った。キースと同じくいつも顔に笑みを貼り付けているこの男は、如才なくサラに礼を伝えて、また一歩後ろに戻る。
常に仏頂面のゴードンは無言で頭を下げただけだった。
サラが飛び去り、一行は玄関へ向けて再び歩き始めたが、ゴードンは低い声でキースに話しかけた。
「本当によろしいのですか。あの娘の件を報告なさらなくても」
「良い。魔王様のお耳に入れて、彼女が叱られてしまっては可哀想だ」
「しかし人間を水に沈めるなど、あまりにも危険な振る舞いではございませんか。せめてサラ殿のお耳にはいれておいたほうが良いのではありませんか」
二人のやりとりを聞いていたライルが苦笑混じりに言った。
「ゴードン殿の仰る通りですよ。それにあの子の場合は少しくらい叱られた方が良いようにも思えますがね」
彼女こそまさに御転婆娘というにふさわしい、と揶揄うライルに、キースは大袈裟なほどうんざりとしたため息を吐いた。ここ数日、この小煩い二人とは何度もこのやりとりを繰り返しているのだ。
「だから駄目だと、何度も同じことを言わせるな。彼女に悪気があったわけでもない、すでに謝罪は済んでいるというのに、今更報告して何になる。もしも叱られて彼女があの池に顔を見せてくれなくなったら、どうするつもりだ」
「そうなれば私としては好都合というものでしかないのですが」
あっけらかんと言われてキースはライルを鋭く睨むが、長い付き合いのせいで一切効きやしない。
「分かった。それなら言い方を変えよう。これは『命令』だ。彼女のことは、魔族の方々には決して告げ口をするな」
指を突きつけてはっきりとそう言えば、二人は目を見合わせて揃ってため息を吐く。なんともわざとらしい態度だが、二人は諦めたように声をそろえた。
「仰せの通りに。殿下」
グランドーラ国第三王子キースはその返答に満足げに笑った。
「ははっ。こうなってみると、王子になったのも悪いことばかりではないな。十年前ならばお前達は僕の言うことなど、こうも素直に聞いてはくれなかっただろう」
「お戯れはよしてください。あの頃も我々は貴方様をお諌めしていたに過ぎません」
ゴードンの改まった苦情も無視して、鼻歌でも歌いだしそうなほど楽しげにキースは玄関へと歩を進める。そんな主に、ライルが問いかけた。
「殿下。あの人魚の少女とお会いになることに関しては私に異存ありませんが、ひとつだけ、お聞きしても宜しいですか」
「なんだ?」
「まさか貴方様は──あの人魚に水の中へ引き摺り込まれて死ねたらいいなぁ、などとはお考えではありませんね?」
足を止めて振り返ったキースは目を丸くして言った。
「それは、考えていなかったな」
再び足取り軽く慣れた様子で馬車へと向かうその後ろ姿を、ライルとゴードンは痛ましげに見つめ、息を吐く。
自らの主は嘘をつくのが巧くなりすぎていて、最早長く仕えている自分達ですら今の台詞が本音かどうかは分からなかったのだ。
舗装された道を走る馬車にしか乗ったことがなかったからか、魔王城にきて初めて悪路を走る馬車というものを経験した。ほんの小さな小石を踏んだだけでも馬車は大きく揺れてしまって、内臓が体の中で踊る。
それでも高い木々が自然のアーチとなっている土の道を走り続け、木漏れ日を反射してキラキラと輝く水面が見えてくれば否が応でも胸が高鳴った。
さして広くもない池の周りには芝生とは違う湿気た苔が所々に生え、なんともいえない涼しげな自然の香りが漂っている。不快な香りではない。深い緑と相まって、大きく吸い込めばとても心地の良い香りが鼻を抜けた。
池へと一歩踏み出すと水面がほんの少し揺れる。水中に金色の波が見えたと思えば、それはぐぐっと盛り上がった。
水を割って出てきたのは少女だ。
金の髪が抜けるように白い肌に貼り付き、同じ色の長い睫毛から雫が滴り落ちて、滑らかな頬を伝って池へと戻っていく。ゆっくりと開かれた丸い大きな桜色の瞳がこちらを映して輝きを増し、整った唇から飛び出した声には嬉しいという感情だけが込められていた。
「タイシ!」
「こんにちは、人魚姫。今日もご機嫌だね」
こちらの話す声にも込められているのは喜びだけだ。
この素直で裏表のない人魚の少女と過ごすことが、現在キースが最も心穏やかに過ごせる時間なのだった。
この数日ですっかり聴き慣れた声に呼ばれて、キースは振り返った。
こちらに近寄ってくる声の主の細い二本足は地面についていない。
人間にはない半透明の羽虫のような翅が四枚、銀粉を振り撒きながら羽ばたいて、身長百センチほどの細身の体を浮かせている。波打つ銀の髪が縁取る顔は丸く、白目の少ない丸い大きな黒目はまるで幼い子供のようだが、小さな唇から紡がれる声は成熟した大人の女性のものだ。
「本日もお散歩に出掛けられるのですか? 魔王城の庭はお気に召していただけましたでしょうか」
落ち着いた声音には、自らの王の居城を気に入ってもらえたなら嬉しいという歓迎の気持ちだけがある。
キースも微笑み、言葉を返した。
「ええ。このような自然の中に身を置くことはあまりありませんでしたから。散歩に出るだけでもとても心地が良くて気に入っております」
「それは良うございました。先日は二日続けて川に落ちられたと聞きましたから心配しておりましたが、大使殿にも意外と御転婆なところがお有りなのでしょうか」
揶揄うように言われて「面目次第もございません」と笑って返す。御転婆とは男性には使わない言葉なのだとは訂正しなかった。
魔王の直接の秘書であるというこの女性は妖精族のサラ。キースが魔王城に滞在する間の世話係に魔王がつけてくれた人だった。
この日のために人間の言葉を学んでくれたらしい彼女は時々言葉を間違えるが、訂正するのは申し訳なく思えてそのままになっている。
「国では川遊びをしたことがなかったもので、つい身を乗り出しすぎてしまいました。魔王様の城を汚してしまい、申し訳なく思っております」
「そのことでしたらお気になさらないでくださいな。ここでは魔法ですぐに綺麗にしてしまえますから」
サラが指を鳴らすと、その指先から光の筋が伸びて廊下の隅へと走った。開けた窓から入り込んだらしい枯れた葉や花弁を光が押し上げて、まるで掃き掃除をした後のようにあっという間に綺麗になる。
サラが再び指を鳴らした瞬間、空中から巻かれた大判の布が現れた。
「お座りになって休憩なさるならこちらをお使いください。お飲み物や軽食も言ってくだされば用意できますから、お気軽にお申し付けください」
差し出された布を、キースの後ろから進み出てきたライルが両手で受け取った。キースと同じくいつも顔に笑みを貼り付けているこの男は、如才なくサラに礼を伝えて、また一歩後ろに戻る。
常に仏頂面のゴードンは無言で頭を下げただけだった。
サラが飛び去り、一行は玄関へ向けて再び歩き始めたが、ゴードンは低い声でキースに話しかけた。
「本当によろしいのですか。あの娘の件を報告なさらなくても」
「良い。魔王様のお耳に入れて、彼女が叱られてしまっては可哀想だ」
「しかし人間を水に沈めるなど、あまりにも危険な振る舞いではございませんか。せめてサラ殿のお耳にはいれておいたほうが良いのではありませんか」
二人のやりとりを聞いていたライルが苦笑混じりに言った。
「ゴードン殿の仰る通りですよ。それにあの子の場合は少しくらい叱られた方が良いようにも思えますがね」
彼女こそまさに御転婆娘というにふさわしい、と揶揄うライルに、キースは大袈裟なほどうんざりとしたため息を吐いた。ここ数日、この小煩い二人とは何度もこのやりとりを繰り返しているのだ。
「だから駄目だと、何度も同じことを言わせるな。彼女に悪気があったわけでもない、すでに謝罪は済んでいるというのに、今更報告して何になる。もしも叱られて彼女があの池に顔を見せてくれなくなったら、どうするつもりだ」
「そうなれば私としては好都合というものでしかないのですが」
あっけらかんと言われてキースはライルを鋭く睨むが、長い付き合いのせいで一切効きやしない。
「分かった。それなら言い方を変えよう。これは『命令』だ。彼女のことは、魔族の方々には決して告げ口をするな」
指を突きつけてはっきりとそう言えば、二人は目を見合わせて揃ってため息を吐く。なんともわざとらしい態度だが、二人は諦めたように声をそろえた。
「仰せの通りに。殿下」
グランドーラ国第三王子キースはその返答に満足げに笑った。
「ははっ。こうなってみると、王子になったのも悪いことばかりではないな。十年前ならばお前達は僕の言うことなど、こうも素直に聞いてはくれなかっただろう」
「お戯れはよしてください。あの頃も我々は貴方様をお諌めしていたに過ぎません」
ゴードンの改まった苦情も無視して、鼻歌でも歌いだしそうなほど楽しげにキースは玄関へと歩を進める。そんな主に、ライルが問いかけた。
「殿下。あの人魚の少女とお会いになることに関しては私に異存ありませんが、ひとつだけ、お聞きしても宜しいですか」
「なんだ?」
「まさか貴方様は──あの人魚に水の中へ引き摺り込まれて死ねたらいいなぁ、などとはお考えではありませんね?」
足を止めて振り返ったキースは目を丸くして言った。
「それは、考えていなかったな」
再び足取り軽く慣れた様子で馬車へと向かうその後ろ姿を、ライルとゴードンは痛ましげに見つめ、息を吐く。
自らの主は嘘をつくのが巧くなりすぎていて、最早長く仕えている自分達ですら今の台詞が本音かどうかは分からなかったのだ。
舗装された道を走る馬車にしか乗ったことがなかったからか、魔王城にきて初めて悪路を走る馬車というものを経験した。ほんの小さな小石を踏んだだけでも馬車は大きく揺れてしまって、内臓が体の中で踊る。
それでも高い木々が自然のアーチとなっている土の道を走り続け、木漏れ日を反射してキラキラと輝く水面が見えてくれば否が応でも胸が高鳴った。
さして広くもない池の周りには芝生とは違う湿気た苔が所々に生え、なんともいえない涼しげな自然の香りが漂っている。不快な香りではない。深い緑と相まって、大きく吸い込めばとても心地の良い香りが鼻を抜けた。
池へと一歩踏み出すと水面がほんの少し揺れる。水中に金色の波が見えたと思えば、それはぐぐっと盛り上がった。
水を割って出てきたのは少女だ。
金の髪が抜けるように白い肌に貼り付き、同じ色の長い睫毛から雫が滴り落ちて、滑らかな頬を伝って池へと戻っていく。ゆっくりと開かれた丸い大きな桜色の瞳がこちらを映して輝きを増し、整った唇から飛び出した声には嬉しいという感情だけが込められていた。
「タイシ!」
「こんにちは、人魚姫。今日もご機嫌だね」
こちらの話す声にも込められているのは喜びだけだ。
この素直で裏表のない人魚の少女と過ごすことが、現在キースが最も心穏やかに過ごせる時間なのだった。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない
たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。
何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる