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第二章
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ダイヤの城に着けば、すぐさま私は謁見の間へと通された。他国の位持ちだ。いつもなら何も疑問はない。
でも今は殺人の容疑がかかっているはず。それなのに、なぜここに……?
スペードにもある謁見の間は青が基調だけど、ダイヤの城のここは黄色い絨毯が敷かれた大広間だ。扉を潜った先にある階段の上段に、いつもお洒落で華やかな女性的なスーツを着たダイヤのキングであるアリーが座って──。
「ダイヤの兵を無情にも殺したというのは、お前か」
「どうしたの、その話し方は」
思わず声が出てしまった。自国のキングに対しての無礼な物言いに、私に対する殺気めいた視線が全方位から送られてくる。
いや、でもこれはおかしい。アリーはいつもお洒落でカッコいいシルエットのスーツを好んできていたはず。あ、いや今だってお洒落でカッコいいスーツではあるけど、これは……男物じゃないの。
黒一色のフロックコート姿の友人は、私の言葉に返事をしなかった。ただ、鳶色の瞳が逃げるように逸らされただけだ。
「キングの問いかけに答えなさい。スペードの10。キング、この人がわたしの部下を殺したのよ。わたし、見たもの」
「……わかってるよ、ソフィア。あなたが嘘を言うわけがない、から」
「あなた、じゃなくて、お前でしょ。アーノルド」
女はアリーに寄りかかり、甘えた声を出した。なのに最後の声音は恐ろしく低く、アリーの表情を一変させた。キングとしての毅然とした表情は見る間に青ざめ、女へすがるような目を向けたのだ。
「わ、悪かった。間違えただけだ。ごめん、ソフィア。怒らないでくれ……頼む」
「……怒ってないわ。アーノルド。誰にでも間違いはあるもの。ただ、あなたには丁寧な話し方は似合わないと思うの。キングなんだから、堂々としているアーノルドは素敵なのよ!」
『あなたはキングです。堂々としているあなたは素敵なんです』
私の頭に、台詞が浮かぶ。
安心したように笑うアリーの姿は、見たことのあるものだ。
まさか、そんなはず──。
「なんの罪もない我が国の兵を殺害するなど、許すわけにいかないぞ、エルザ殿!」
「あなたは、いつかやると思っていましたよ。しかしそれが我が国の兵を相手に、とは。ねぇ?」
キングの両脇に控える二人が、見つめ合うアリーと女を邪魔するかのように声を張る。
この二人が先ほどまでアリーへと向けていた視線は、決して自国の王に向けるものではなかった。その視線はまるで、嫉妬だ。
声を張る二人に、ソフィアと呼ばれた女ははしゃいだ声を上げた。
「わたしの言うことを信じてくれるのね! 二人もスペードの10とは親しかったはずなのに」
「それほどでもない。同じ、位を持つ者として多少話したことがあるくらいだ」
「ええ。魔法の使い手としては興味深い方でしたが、親しいというほどの交流はありませんでしたね」
嫌な予感はどんどん確信へと傾いて行く。
声が震えないように気を付けて、口角を上げて見せた。
「……ひどいわね。二人とも。私は二人のことを友達だと思っていたのに」
『二人』と言ったからか、アリーがわずかに顔を硬らせたのがわかった。
気付いてくれたかしら。私、怒ってるのよ。
私はゲームでもここでも、自分を貫く強いアリーが好きだった。
なのに、これは何?
派手な色と装飾品が好きなはずのあなたが、黒一色の姿だなんて。初めて見たわ。ゲームも含めて。
私の声掛けに答えようとすらしない二人は、ダイヤのクイーンとジャックだ。
敬語を話すクイーンのテディは魔法に関する研究者で、私に魔法の使い方を見せてくれと頼みに来たことがある。オーウェンとも親しかったはずだ。
大柄な体躯のジャックのジェイクだって、何度も手合わせしたことがある。多少話したことがあるくらい? いつもそっちから話しかけてきたくせに。
二人からの返答に満足げに笑うソフィアを睨む。
それすら、この女を喜ばせるだけに過ぎないようだ。
でも今は殺人の容疑がかかっているはず。それなのに、なぜここに……?
スペードにもある謁見の間は青が基調だけど、ダイヤの城のここは黄色い絨毯が敷かれた大広間だ。扉を潜った先にある階段の上段に、いつもお洒落で華やかな女性的なスーツを着たダイヤのキングであるアリーが座って──。
「ダイヤの兵を無情にも殺したというのは、お前か」
「どうしたの、その話し方は」
思わず声が出てしまった。自国のキングに対しての無礼な物言いに、私に対する殺気めいた視線が全方位から送られてくる。
いや、でもこれはおかしい。アリーはいつもお洒落でカッコいいシルエットのスーツを好んできていたはず。あ、いや今だってお洒落でカッコいいスーツではあるけど、これは……男物じゃないの。
黒一色のフロックコート姿の友人は、私の言葉に返事をしなかった。ただ、鳶色の瞳が逃げるように逸らされただけだ。
「キングの問いかけに答えなさい。スペードの10。キング、この人がわたしの部下を殺したのよ。わたし、見たもの」
「……わかってるよ、ソフィア。あなたが嘘を言うわけがない、から」
「あなた、じゃなくて、お前でしょ。アーノルド」
女はアリーに寄りかかり、甘えた声を出した。なのに最後の声音は恐ろしく低く、アリーの表情を一変させた。キングとしての毅然とした表情は見る間に青ざめ、女へすがるような目を向けたのだ。
「わ、悪かった。間違えただけだ。ごめん、ソフィア。怒らないでくれ……頼む」
「……怒ってないわ。アーノルド。誰にでも間違いはあるもの。ただ、あなたには丁寧な話し方は似合わないと思うの。キングなんだから、堂々としているアーノルドは素敵なのよ!」
『あなたはキングです。堂々としているあなたは素敵なんです』
私の頭に、台詞が浮かぶ。
安心したように笑うアリーの姿は、見たことのあるものだ。
まさか、そんなはず──。
「なんの罪もない我が国の兵を殺害するなど、許すわけにいかないぞ、エルザ殿!」
「あなたは、いつかやると思っていましたよ。しかしそれが我が国の兵を相手に、とは。ねぇ?」
キングの両脇に控える二人が、見つめ合うアリーと女を邪魔するかのように声を張る。
この二人が先ほどまでアリーへと向けていた視線は、決して自国の王に向けるものではなかった。その視線はまるで、嫉妬だ。
声を張る二人に、ソフィアと呼ばれた女ははしゃいだ声を上げた。
「わたしの言うことを信じてくれるのね! 二人もスペードの10とは親しかったはずなのに」
「それほどでもない。同じ、位を持つ者として多少話したことがあるくらいだ」
「ええ。魔法の使い手としては興味深い方でしたが、親しいというほどの交流はありませんでしたね」
嫌な予感はどんどん確信へと傾いて行く。
声が震えないように気を付けて、口角を上げて見せた。
「……ひどいわね。二人とも。私は二人のことを友達だと思っていたのに」
『二人』と言ったからか、アリーがわずかに顔を硬らせたのがわかった。
気付いてくれたかしら。私、怒ってるのよ。
私はゲームでもここでも、自分を貫く強いアリーが好きだった。
なのに、これは何?
派手な色と装飾品が好きなはずのあなたが、黒一色の姿だなんて。初めて見たわ。ゲームも含めて。
私の声掛けに答えようとすらしない二人は、ダイヤのクイーンとジャックだ。
敬語を話すクイーンのテディは魔法に関する研究者で、私に魔法の使い方を見せてくれと頼みに来たことがある。オーウェンとも親しかったはずだ。
大柄な体躯のジャックのジェイクだって、何度も手合わせしたことがある。多少話したことがあるくらい? いつもそっちから話しかけてきたくせに。
二人からの返答に満足げに笑うソフィアを睨む。
それすら、この女を喜ばせるだけに過ぎないようだ。
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