83 / 206
第一章
83 補佐は頑張りました
しおりを挟む
「……おい、エルザ、どうした? 早く返事しろ!」
「あ、あまりお待たせするのは失礼ですよ!」
固まる俺達を見かねたキングとクイーンがエルザを急かす。
「お前も、オーウェンのこと好きなんだろ!?」
肩を揺すって叫ぶキングにエルザは「好きよ。もちろん」と当然のように言い返した。
「や、やはり補佐として、でしたか!?」
平然とするエルザに、俺の足は生まれたての子鹿のように震え、彼女から距離を取り後ずさる。
こんなことが……いや、この人ならありえる。ありえてしまう……。
「ええっ!? 違うって昨日言ったでしょう! そ、そういう、やつだって!」
「それは確かに言われましたが……ではどうして……」
そんな、なに言ってるのかしらこの人。みたいな顔を……。
「えっ、だ、だって……」
エルザは顔を赤く染めてモジモジと指を弄び、視線は彷徨い、唇を震わせている。
一度ぎゅうと目を閉じたかと思えば、すぐに見開き、意を決してといった調子で視線を合わせられた。
「私達、恋人じゃなかったの……?」
………………。
「ああっ……!!」
咄嗟に口を手で押さえた。
「その……恋人じゃなかったなら、私、結構恥ずかしいことをあなたに……」
「い、いえ! あなたは悪くありません!!」
キングの雰囲気に飲まれて本来の目的を忘れていた。何を素直に告白してるんだ。俺は。
昨日あれだけのことをしておきながら、恋人ではないという方がおかしいだろう。
エルザはまったく悪くない。それはもうまったくもって。
だが、いまこの流れはまずい!!
「へぇ」
「ほう」
肩にズシリと重みがかかり喉の奥から声にならない悲鳴が漏れる。
「そいつが勘違いするだけのことは、すでにしてあるわけだ」
「想定外に手が早いですねぇ……これは人柄を見誤ったか」
「も、ももも申し訳……ございません……」
油の切れたブリキ人形のようなぎこちなさで振り返るも、満面の笑みのキングとクイーンの目は笑っていない。
これは、まさか交際を認めていただけないか!?
「かっ……」
「「……か?」」
「可愛かったんです!!」
渾身の叫びだった。
今更、やはり交際はなしにしろと言われてももう無理だ。俺はもう可愛いエルザを知ってしまった。もうただの補佐には戻れない。
「赤らんだ頰も潤んだ瞳もとてつもない可愛らしさで! あれを前にしてはどんな男でも手を出さずにいられません!」
必死に訴える。エルザの可愛さを伝えて仕方なかったのだとわかっていただかなくては!
「想いが通じて舞い上がったことは事実です! ですが、それがなくともあの上ずる声や不慣れな仕草の可愛らしさは抗いきれるものではありません! それはもう、どんな男でもです! キングやクイーンもご覧になればお分かりいただけるはずです!」
「………………いや、俺達は手は出さねぇぞ」
「やはり私は人柄を見誤ったのでしょうか……」
「エルザさん、本当にこの人でいい……エルザさん?」
なおも言い募ろうとする俺の後頭部に衝撃が走った。手をやればびっしょりと濡れている。水?
そっと振り返ると同時にぎくりと体が強張った。
顔中を真っ赤に染め、全身の毛が逆立ったように髪がなびき、背中には炎を背負っているような気迫を漂わせた愛しい人は全身でみなぎらせていた。俺に対する怒りを。
「うるさい!!!!」
「あ、あまりお待たせするのは失礼ですよ!」
固まる俺達を見かねたキングとクイーンがエルザを急かす。
「お前も、オーウェンのこと好きなんだろ!?」
肩を揺すって叫ぶキングにエルザは「好きよ。もちろん」と当然のように言い返した。
「や、やはり補佐として、でしたか!?」
平然とするエルザに、俺の足は生まれたての子鹿のように震え、彼女から距離を取り後ずさる。
こんなことが……いや、この人ならありえる。ありえてしまう……。
「ええっ!? 違うって昨日言ったでしょう! そ、そういう、やつだって!」
「それは確かに言われましたが……ではどうして……」
そんな、なに言ってるのかしらこの人。みたいな顔を……。
「えっ、だ、だって……」
エルザは顔を赤く染めてモジモジと指を弄び、視線は彷徨い、唇を震わせている。
一度ぎゅうと目を閉じたかと思えば、すぐに見開き、意を決してといった調子で視線を合わせられた。
「私達、恋人じゃなかったの……?」
………………。
「ああっ……!!」
咄嗟に口を手で押さえた。
「その……恋人じゃなかったなら、私、結構恥ずかしいことをあなたに……」
「い、いえ! あなたは悪くありません!!」
キングの雰囲気に飲まれて本来の目的を忘れていた。何を素直に告白してるんだ。俺は。
昨日あれだけのことをしておきながら、恋人ではないという方がおかしいだろう。
エルザはまったく悪くない。それはもうまったくもって。
だが、いまこの流れはまずい!!
「へぇ」
「ほう」
肩にズシリと重みがかかり喉の奥から声にならない悲鳴が漏れる。
「そいつが勘違いするだけのことは、すでにしてあるわけだ」
「想定外に手が早いですねぇ……これは人柄を見誤ったか」
「も、ももも申し訳……ございません……」
油の切れたブリキ人形のようなぎこちなさで振り返るも、満面の笑みのキングとクイーンの目は笑っていない。
これは、まさか交際を認めていただけないか!?
「かっ……」
「「……か?」」
「可愛かったんです!!」
渾身の叫びだった。
今更、やはり交際はなしにしろと言われてももう無理だ。俺はもう可愛いエルザを知ってしまった。もうただの補佐には戻れない。
「赤らんだ頰も潤んだ瞳もとてつもない可愛らしさで! あれを前にしてはどんな男でも手を出さずにいられません!」
必死に訴える。エルザの可愛さを伝えて仕方なかったのだとわかっていただかなくては!
「想いが通じて舞い上がったことは事実です! ですが、それがなくともあの上ずる声や不慣れな仕草の可愛らしさは抗いきれるものではありません! それはもう、どんな男でもです! キングやクイーンもご覧になればお分かりいただけるはずです!」
「………………いや、俺達は手は出さねぇぞ」
「やはり私は人柄を見誤ったのでしょうか……」
「エルザさん、本当にこの人でいい……エルザさん?」
なおも言い募ろうとする俺の後頭部に衝撃が走った。手をやればびっしょりと濡れている。水?
そっと振り返ると同時にぎくりと体が強張った。
顔中を真っ赤に染め、全身の毛が逆立ったように髪がなびき、背中には炎を背負っているような気迫を漂わせた愛しい人は全身でみなぎらせていた。俺に対する怒りを。
「うるさい!!!!」
0
お気に入りに追加
1,162
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
モブ令嬢ですが、悪役令嬢の妹です。
霜月零
恋愛
私は、ある日思い出した。
ヒロインに、悪役令嬢たるお姉様が言った一言で。
「どうして、このお茶会に平民がまぎれているのかしら」
その瞬間、私はこの世界が、前世やってた乙女ゲームに酷似した世界だと気が付いた。
思い出した私がとった行動は、ヒロインをこの場から逃がさない事。
だってここで走り出されたら、婚約者のいる攻略対象とヒロインのフラグが立っちゃうんだもの!!!
略奪愛ダメ絶対。
そんなことをしたら国が滅ぶのよ。
バッドエンド回避の為に、クリスティーナ=ローエンガルデ。
悪役令嬢の妹だけど、前世の知識総動員で、破滅の運命回避して見せます。
※他サイト様にも掲載中です。
深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~
白金ひよこ
恋愛
熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!
しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!
物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる