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第一章
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きゅっとまだ熱い手を握られて、我に返った。
私はここに一人でいたわけではなかったのだと。
「……ララ…」
俯くララは口を引き結び、私の手を痛いほど強く握りしめている。
やはり、先延ばしにすべきではなかった。
「ララ、あのね」
「帰るときまで、保留にしてくださいと言いました」
こちらを見ずに強い口調で言われて押し黙る。
以前の私なら、はっきりしないことは不誠実だときっぱり断れたはずだ。
でも、今となっては。
オーウェンを好きだと自覚してしまった私には、断ることがどうしても出来ない。
オーウェンに同じことを言われてしまったら、私なら。
「……新しいお茶を淹れてもらってもいいかしら」
軽い口調でお願いすれば、ララはほっとしたように微笑み、ポットに手をかけた。
これほど自分が臆病だとは、私自身知らなかった。
ハートの国から馬車が迎えに来て、二人を見送りに出た。
ルーファスとレスターの勝敗は、なんとレスターの三戦全敗だそうだ。
「珍しいわね。体調でも悪かったの?」
心配して聞けば、レスターは軽い口調で「ううん。実力だよ」と答えた。そんなはずはないのに、具合が悪くなったのでなければいいけど……。
「今日はありがとう。また遊びに来てね」
「こちらこそ。エルザ達も今度はハートの城に来てよ」
スペードの城とハートの城は内装が違うから、ララも楽しいかもしれない。
「ええ。アレクシス様によろしくお伝えしてね」
スペードの城に遊びに来ていたと知ったら、あのルーファス大好きさんは悔しがるだろう。必ず騙して連れて行かねば。
「ショーンもありがとう」
口数がいつもよりも少ないように感じるショーンは、無言でこちらを見ている。
オーウェンと楽しそうに話していたから、迷惑ではなかったと思うのだけど……。
少し心配していたら、一歩こちらに踏み出したショーンの両腕が、私を囲った。
肩に顔を押し付けられている。ノエルと同じで私よりも少し背が低いから、髪が耳に触ってくすぐったい。
これは……貴重なデレ!!
「どうしたのショーン! いつにないサービスね!」
向こうから来たのだから遠慮することはないと、抱きしめ返した。
苦しくない程度に力を込める。ノエルと違って少し骨張った華奢な体! たまらん!!
「帰るのがさみしくなったの? それならもういっそ、うちの子になっちゃう!?」
ペット可の城だからなんの問題もないわよ!
あまりなサービスに興奮が抑えきれない!
「あっ、あげないよ! ほらショーン、帰るよ!」
さすがにレスターの制止が入ってしまい、ショーンの包む力が弱まる。
肩に手を置かれて可愛い顔が目の前にあると、まるでスチルのような近さだ。
「オーウェンは、いいやつだね」
珍しくもわずかに微笑みながら言われた言葉はとても嬉しくて、笑みを返した。
「そうでしょう? 仲良くしてくれて嬉しいわ」
人見知りのショーンに初対面でいいやつだと言わせるオーウェンのコミュニケーション能力は、ぜひとも見習いたい。魔法オタク限定の能力だから迷うところだけど。
「それじゃあ、またね。次に会えるのは白の国のお茶会かな」
レスターの言葉にハッとした。
「そう、ね。次のお茶会までひと月も、ないものね……」
馬車に乗り込み走り出したレスターとショーンに手を振ると、レスターだけが振り返してくれた。
あとひと月、か……。
私はここに一人でいたわけではなかったのだと。
「……ララ…」
俯くララは口を引き結び、私の手を痛いほど強く握りしめている。
やはり、先延ばしにすべきではなかった。
「ララ、あのね」
「帰るときまで、保留にしてくださいと言いました」
こちらを見ずに強い口調で言われて押し黙る。
以前の私なら、はっきりしないことは不誠実だときっぱり断れたはずだ。
でも、今となっては。
オーウェンを好きだと自覚してしまった私には、断ることがどうしても出来ない。
オーウェンに同じことを言われてしまったら、私なら。
「……新しいお茶を淹れてもらってもいいかしら」
軽い口調でお願いすれば、ララはほっとしたように微笑み、ポットに手をかけた。
これほど自分が臆病だとは、私自身知らなかった。
ハートの国から馬車が迎えに来て、二人を見送りに出た。
ルーファスとレスターの勝敗は、なんとレスターの三戦全敗だそうだ。
「珍しいわね。体調でも悪かったの?」
心配して聞けば、レスターは軽い口調で「ううん。実力だよ」と答えた。そんなはずはないのに、具合が悪くなったのでなければいいけど……。
「今日はありがとう。また遊びに来てね」
「こちらこそ。エルザ達も今度はハートの城に来てよ」
スペードの城とハートの城は内装が違うから、ララも楽しいかもしれない。
「ええ。アレクシス様によろしくお伝えしてね」
スペードの城に遊びに来ていたと知ったら、あのルーファス大好きさんは悔しがるだろう。必ず騙して連れて行かねば。
「ショーンもありがとう」
口数がいつもよりも少ないように感じるショーンは、無言でこちらを見ている。
オーウェンと楽しそうに話していたから、迷惑ではなかったと思うのだけど……。
少し心配していたら、一歩こちらに踏み出したショーンの両腕が、私を囲った。
肩に顔を押し付けられている。ノエルと同じで私よりも少し背が低いから、髪が耳に触ってくすぐったい。
これは……貴重なデレ!!
「どうしたのショーン! いつにないサービスね!」
向こうから来たのだから遠慮することはないと、抱きしめ返した。
苦しくない程度に力を込める。ノエルと違って少し骨張った華奢な体! たまらん!!
「帰るのがさみしくなったの? それならもういっそ、うちの子になっちゃう!?」
ペット可の城だからなんの問題もないわよ!
あまりなサービスに興奮が抑えきれない!
「あっ、あげないよ! ほらショーン、帰るよ!」
さすがにレスターの制止が入ってしまい、ショーンの包む力が弱まる。
肩に手を置かれて可愛い顔が目の前にあると、まるでスチルのような近さだ。
「オーウェンは、いいやつだね」
珍しくもわずかに微笑みながら言われた言葉はとても嬉しくて、笑みを返した。
「そうでしょう? 仲良くしてくれて嬉しいわ」
人見知りのショーンに初対面でいいやつだと言わせるオーウェンのコミュニケーション能力は、ぜひとも見習いたい。魔法オタク限定の能力だから迷うところだけど。
「それじゃあ、またね。次に会えるのは白の国のお茶会かな」
レスターの言葉にハッとした。
「そう、ね。次のお茶会までひと月も、ないものね……」
馬車に乗り込み走り出したレスターとショーンに手を振ると、レスターだけが振り返してくれた。
あとひと月、か……。
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