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第一章

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 スペードの城にとんぼ返りすると、珍しくオーウェンは修練場にいるらしい。
 私達が向かうと、耳ざとく騒動を聞きつけたルーファスとゼンもついてきた。
 そして今、少し離れてオーウェンとショーンの初対面を見守っている、のだけど……。

「どういう状況だ、これは」

 二人して一言も話さない状況に、とうとうルーファスが突っ込んだ。

「人見知りだからなぁ。こうなると思ったよ」
「オーウェン殿も固まってますね」
「なんだか、警戒心丸出しの黒い子猫と、戸惑う大型犬って感じね」

 私の例え話に全員で「たしかに!」と大ウケしていると子猫から「そこの外野ども! うるさい!」と怒鳴られた。
 そういえばショーンはゲームでも懐かない猫に例えられていた。こんな猫なら飼いたいなと思ってたのよねぇ。今からでも遅くないか?

「あの……ハートのジャック」

 意を決したらしいオーウェンが話しかけた。

「アカデミーを卒業された時に出された論文を拝見いたしました。あれはクローバーの国の魔法学者であるバグマン博士を真っ向から否定されていらっしゃいましたが、私も以前から魔法の使用制限に関しての博士の意見には」

「…………あれ、止めてやったほうがいいんじゃないか?」
「暴走モードに入っちゃったわね……何言ってるかわかる?」
「博士の論文は私も読みましたが、これについていく自信はありませんね……」
「偉いわね、ゼン。私はその方の名前も知らなかったわ」
「エルザ、それはちょっと問題……どの国のアカデミーでも必修で習う人だよ……」

 うるさいと言われたので、外野は聞こえないよう小声で話す。

「ショーンにウザいって言われて落ち込まないといいけど……」

 一人でまくし立てるオーウェンの姿に小さく漏らすと、レスターが「それについては心配いらないよ」と肩をすくめた。

「……博士は頭が固いし古いんだ。そこまではさすがに書けなかったけど。研究も日々進歩しているし、魔力も若い頃から鍛えれば精度が上がることは白の国のレストア教授が自分の双子の娘達で実証してる。……もっとも、これは人体実験じゃないかって批判があるから大きな声では言えないけど」

「そうなんです! 確かにお嬢様方の魔法の練度には差がありますが、これは単純に個々の性格や嗜好が関係しているだけに過ぎません。双子でも魔法が好きな妹君と嫌いな姉君では熟練度に差が出るというのは、個人の鍛錬によるものに他なりませんし」

「ララ、これ美味しいわよ」
「わぁ! ありがとうございます!」
「えっ、あれ放っておくの?」

 侍女に頼んで持ってきてもらったシートを広げて、お茶と焼き菓子をみんなで楽しむ。
 心配して損したわ。

「なんだかピクニックみたいだね! この間も楽しかったから、また行きたいな」
「そういえば、エルザ! お前あのピクニック、ハートの奴と示し合わせてただろ!」
「あら、やっと気付いたの?」
「あんな偶然が早々あるわけないでしょうに」
「まさか、スペードのキングは前のもその前のも偶然だと思ってたの? うわぁ……」
「前のとその前のってなんだよ!? どれからだ!」
「どこに行ったんですか?」
「貴族のお茶会と白の国にある大きな湖で水遊び。今度ララも一緒に行く? 冷たくて気持ちよかったわよ」

 ララは両手を叩いて歓声をあげる。

「ぜひ! 水着を一緒に選びたいです!」
「……いいわね」

 舞踏会の二の舞か。少し後悔した。
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