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第一章
49 エッグタルト屋さんの恋愛相談室
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「……よ、よくここがわかったわね?」
「あんたには闇属性の鈴をつけてあるからな……」
「なっ、なにそれ犯罪じゃないの!?」
「うるさい! こういったときのための適切な処置だろうが! たったの数分目を離しただけでよくも逃げ出したな!?」
ぎゃあぎゃあと言い合う二人にそっとお茶を差し出すと、気がついたオーウェンがお礼を言ってソファに座ってくれた。
偉大なるカモミールで落ち着いた様子のオーウェンを見て、エルザにパチリとアイコンタクトを送る。
意味がわかったらしいエルザは頬を染めてソワソワとしながら何度かお茶を飲み、やっと口を開いた。
「あ、あのね、オー」
「ハンプティ、タルトを二つ包んでもらってもいいかな?」
「…ええっ!?」
今!?
「……まさか、もう売り切れたのか?」
「いや、あ、あるけど……!」
僕の大声に驚いた様子のオーウェン以上に僕が驚きだ。
あと少しで大好きなエルザの気持ちがわかったのに!
残念すぎるよ、オーウェン!
エルザを伺い見ればしょんぼりとお茶を飲んでいて、その哀愁には涙が出そうになった。
せっかく勇気を出したのにね……。
そんなエルザにオーウェンは諭すようにお説教を続ける。
「甘いものが食べたいのならそう仰ってください。買ってくるなり、作ってもらうなりしますから」
「そ、そうね……」
そういうわけじゃないんだよ、オーウェン。
「二つ買うってことは、オーウェンも一緒に食べてくれるの?」
「ええ。以前に一人で食べるのは寂しいと仰ってたでしょう。……一人がよければ別のところで食べますが」
「ううん! 一緒に食べたいわ!」
それでも、嬉しそうに、はにかみながら言うエルザに一安心した。
急いでいる様子のオーウェンのために早く包もうと厨房に向かって、気がついた。
たった数分目を離しただけなのに、来るのが少し遅かった気がする。
鈴をつけているなら、居場所はすぐにわかったはずなのに。
もしかして、少しでものんびりできるように迎えに来るのを遅らせたのかな。
それなら、とタルト以外に作ってあったフォンダンショコラも包んでおいた。
オーウェンは火の属性を持っているから美味しく温めてくれるだろう。
「はい、お待たせ!」
「ありがとう。さぁ、帰りますよ」
料金を払ったオーウェンはエルザを急かす。
来た時よりも顔色が良くなったエルザは、いつもの笑顔で軽やかに立ち上がった。
「ハンプティ、ありがとう! 聞いてもらえてスッキリしたわ」
聞いたから、だけではないのだろうなと微笑ましく思う。迎えに来てくれて、タルトを買ってくれて嬉しいんだ。
「それなら良かった。またいつでも来てね。オーウェンもね」
「ああ。またこの人が逃げてきたら足止めしておいてくれ」
「も、もう逃げたりしないわよ」
むくれるエルザを胡乱げに睨み、オーウェンは先に扉をくぐる。
この店の扉の外には、ポーチから三段の階段がある。
数段降りたところでオーウェンは振り返り、エルザに手を差し出した。
その手をそっと取るエルザの表情は見えない。
それでも、振り返るオーウェンがエルザを見て眩しそうに目を細めているから、きっとエルザも同じだろう。
そう思っていたら、振り返って手を振ってくれた。
先程振り払われて落ち込んでいたのに、その手を差し出されて幸せそうに笑っている。
一つの国のトップ陣なのにどこか抜けている二人だが、とてもお似合いだ。
手を繋いだまま歩いていく二人の想いが通じ合う日を楽しみにしつつ、今日もお仕事頑張りますかと厨房へと足を向けた。
「あんたには闇属性の鈴をつけてあるからな……」
「なっ、なにそれ犯罪じゃないの!?」
「うるさい! こういったときのための適切な処置だろうが! たったの数分目を離しただけでよくも逃げ出したな!?」
ぎゃあぎゃあと言い合う二人にそっとお茶を差し出すと、気がついたオーウェンがお礼を言ってソファに座ってくれた。
偉大なるカモミールで落ち着いた様子のオーウェンを見て、エルザにパチリとアイコンタクトを送る。
意味がわかったらしいエルザは頬を染めてソワソワとしながら何度かお茶を飲み、やっと口を開いた。
「あ、あのね、オー」
「ハンプティ、タルトを二つ包んでもらってもいいかな?」
「…ええっ!?」
今!?
「……まさか、もう売り切れたのか?」
「いや、あ、あるけど……!」
僕の大声に驚いた様子のオーウェン以上に僕が驚きだ。
あと少しで大好きなエルザの気持ちがわかったのに!
残念すぎるよ、オーウェン!
エルザを伺い見ればしょんぼりとお茶を飲んでいて、その哀愁には涙が出そうになった。
せっかく勇気を出したのにね……。
そんなエルザにオーウェンは諭すようにお説教を続ける。
「甘いものが食べたいのならそう仰ってください。買ってくるなり、作ってもらうなりしますから」
「そ、そうね……」
そういうわけじゃないんだよ、オーウェン。
「二つ買うってことは、オーウェンも一緒に食べてくれるの?」
「ええ。以前に一人で食べるのは寂しいと仰ってたでしょう。……一人がよければ別のところで食べますが」
「ううん! 一緒に食べたいわ!」
それでも、嬉しそうに、はにかみながら言うエルザに一安心した。
急いでいる様子のオーウェンのために早く包もうと厨房に向かって、気がついた。
たった数分目を離しただけなのに、来るのが少し遅かった気がする。
鈴をつけているなら、居場所はすぐにわかったはずなのに。
もしかして、少しでものんびりできるように迎えに来るのを遅らせたのかな。
それなら、とタルト以外に作ってあったフォンダンショコラも包んでおいた。
オーウェンは火の属性を持っているから美味しく温めてくれるだろう。
「はい、お待たせ!」
「ありがとう。さぁ、帰りますよ」
料金を払ったオーウェンはエルザを急かす。
来た時よりも顔色が良くなったエルザは、いつもの笑顔で軽やかに立ち上がった。
「ハンプティ、ありがとう! 聞いてもらえてスッキリしたわ」
聞いたから、だけではないのだろうなと微笑ましく思う。迎えに来てくれて、タルトを買ってくれて嬉しいんだ。
「それなら良かった。またいつでも来てね。オーウェンもね」
「ああ。またこの人が逃げてきたら足止めしておいてくれ」
「も、もう逃げたりしないわよ」
むくれるエルザを胡乱げに睨み、オーウェンは先に扉をくぐる。
この店の扉の外には、ポーチから三段の階段がある。
数段降りたところでオーウェンは振り返り、エルザに手を差し出した。
その手をそっと取るエルザの表情は見えない。
それでも、振り返るオーウェンがエルザを見て眩しそうに目を細めているから、きっとエルザも同じだろう。
そう思っていたら、振り返って手を振ってくれた。
先程振り払われて落ち込んでいたのに、その手を差し出されて幸せそうに笑っている。
一つの国のトップ陣なのにどこか抜けている二人だが、とてもお似合いだ。
手を繋いだまま歩いていく二人の想いが通じ合う日を楽しみにしつつ、今日もお仕事頑張りますかと厨房へと足を向けた。
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