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第一章

40 補佐のプロローグ

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 俺の懇願するような追及にエルザ殿は狼狽するも、絡む視線が熱を帯びた。
 一度溢れた欲は止まらず、自然と繋ぐ手に力がこもる。
 俺をそっと見上げたエルザ殿の瞳には天井の煌びやかなシャンデリアが映り、いつにも増して輝いていて。
 もっとよく見たくて顔を近付ければ、薔薇が咲いたように赤らんだ顔は逃げなかった。

 互いの吐息が混じり、更に理性よりも欲望が勝っていく。

「……あなたの瞳は、アクアマリンみたいに綺麗だな」

 綺麗な瞳が大きく丸く見開かれ、思わず頬が緩んだ。
 勢いよく逸らされてしまった瞳が潤んでいく。心配になるほど顔が赤くなり、熱がこちらにも移ってくる。
 この人のこんな顔を見るのは初めてだ。

「あなたの、瞳も……」

 か細く震える言葉は待ち望んだものだ。
 逸る気持ちを抑えられず、続きを急かす。

「なんですか」

 エルザ殿は唇を開いて閉じてを繰り返す。
 ひどく焦らされ、体に響く鼓動はもうどちらのものかわからない。

「い、言わない……」

 やっと溢れた言葉に一瞬息が止まり、しかし言った本人が拗ねた表情を返しているのが可笑しくて、堪えられず吹き出してしまった。

「笑わないで!」
「ははっ……無理だ、止まらないっ」

 再びむっつりと顔を背けたエルザ殿に心の中で囁く。

 言わないは、だめだろう。
 先ほどの煮えたぎるような劣情とは違う、穏やかな気持ちが心を満たしていく。

「もう! いい加減にしないとダンスやめるわよ」

 脅されて仕方なく笑いを堪えようとするも、うまくいかない。俺のその様子にとうとうエルザ殿まで吹き出した。

「いつまで笑ってるのよ。オーウェンったら楽しそうね」
「ええ、とても楽しいですよ。……エルザ殿は楽しくありませんか?」
「そうね。優秀な補佐様が敬語をやめてくれたら楽しくなるかもね」
「敬語にこだわりますね?」
「だって距離を感じるもの。今はお仕事じゃないんだから、いいでしょう?」

 この人の綺麗な瞳で懇願されては敵うわけもない。

「踊ってる間だけな」

 仕方なしという調子で言った言葉にもかかわらず、とても幸せそうな笑みを返してくるのだから困る。俺が口調を変えただけでこんなにもこの人を喜ばせられるなんて。

「この調子でどんどん敬語が取れていくと嬉しいわ。あ、でも敬語からのタメ口のギャップも捨てがたい……」
「なんの話ですか……」

 思わず敬語を使うとエルザ殿が唇を尖らせてしまう。

「……なんの話だよ…?」
「そうそう、その調子」

 くすくすと笑う彼女が可愛くて仕方ない。
 二人で笑い合うこの時間は間違いなくこれまでの人生で一番幸せな時間だ。
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