上 下
17 / 206
第一章

17

しおりを挟む
 澄んだ青空が広がる川辺に、一人では両手が届かないほど大きなシートをみんなで広げる。

 ゲームのイベントで何度も来るここは、色とりどりの小花が暖かな太陽の光を浴びて背伸びするように元気に咲いていて、穏やかに流れる風が気持ちいい。
 今日は絶好のピクニック日和だ。

 これは残念ながらイベントで来たわけではない。
 ララと三人の仲がいまひとつ進展しないことがどうしても気になる私が、皆を誘って連れ出したのだ。

 大の大人が五人もいるから、大きなバスケットは二つもある。
 その中には私と、ゼンにも手伝ってもらってこれでもかと軽食やデザート、それに現地で絞って飲めるようにたくさんのオレンジを詰め込んできた。
 ララはノエルと一緒に辺りを散策していて、この間の一件のお陰か、打ち解けた様子で笑いあう姿が見える。

 二人の姿を微笑ましく思いながら、手早く準備を進める。
 持参したフライパンの取っ手を差し出すとルーファスが渋々それを受け取り、手のひらを上にしてフライパンの下に入れる。
 しばらくもしないうちにフライパンからはかすかに熱気が立ち昇り、その上に用意した生地を流し込めば、表面がふつふつと泡立ち始めた。
 火の魔法が使えるルーファスはコンロ代わりだ。
 あっという間にほかほかのパンケーキが出来上がった。

「氷の属性があれば冷えたジュースが飲めるのにね」
「あー、いいなそれ」

 あいにくこの世界に氷の属性は存在しない。
 ゲームや漫画によっては水属性が氷も使えるというものもあったのに、この世界の水属性は氷が出せない。
 この暖かな日差しの下の冷たいジュース以上に素晴らしいものはないというのに。

「手伝い料な」と言ってスライスベーコンに伸ばされるルーファスの手を叩きつつ、ささっとパンケーキを焼いていると、ララ達が帰ってきた。

 シートに広げた様々な料理達を眺めれば、頑張って準備したかいがあったというものだ。手を叩いて歓声をあげるララに頬が緩む。

「はい、ララさん。こぼさないよう気を付けて」
「あ、ありがとうございます!」

 ジュースを絞っていたゼンがララに一つ差し出した。すぐに人数分が揃い、各々が好きに食事と会話を楽しむ。

「仕事にはもう慣れましたか?」
「はい。とても親切に教えていただいているのでありがたいです」
「侍女ちゃん達のお茶会にも呼ばれたんだよね。どうだった?」
「とても楽しかったです。話題はほとんど皆さんの話ばかりでしたよ」
「俺達の話の何が面白いんだ?」
「そりゃあ、誰が好きなの~とかでしょう? ララはなんて答えたの?」

 からかうように尋ねると、ララは微かに頬を赤らめる。

「え、えっと、その話題は確かに出たんですけど、私はエルザさんの話ばかりしていて呆れられちゃいました」
「なら、今日のことで少しは話題を提供できたかしらね」

 誰の好感度が一番高いのか気になるなぁ。今度こっそり聞いてみよう。


 ガタガタポクポクと音がして皆で顔を上げると、私達が来た逆の方向から一台の箱馬車がこちらに向かって緩やかに近づいてくる。

「ゲッ」というキングらしからぬ声が聞こえて、心の中で謝罪した。
 ごめんね、私の仕込みだ。

 私たちのすぐ近くで止まった馬車から降りてきたのは、絶世の美丈夫だ。
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)

攻略対象の王子様は放置されました

白生荼汰
恋愛
……前回と違う。 お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。 今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。 小説家になろうにも投稿してます。

処理中です...