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第一章
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城に帰るとゼンにヒロイン、ララを部屋に案内するよう言われた。
本来なら侍女に頼むはずだけど、私が声をかけたし同姓だからということだろう。
「西棟のプリムラの部屋がいいでしょう。よろしくお願いしますね」
「プリムラの部屋ね、わかった」
それを聞いて、笑いそうになるのを堪えた。
客間にはそれぞれ花の名前が付けられている。
プリムラは小花が可愛らしい花だ。その花言葉は『可憐』。
ララを見たゼンが、プリムラの花のような女性だと思ってこの部屋に通したエピソードは、ゼンのルートで明らかになる。
このお堅いお説教男がそんな可愛らしいことを考えていただなんて! と当時の私は身悶えしたものだ。
ララを連れ、部屋へと案内する。
淡い桃色を基調とした可愛らしい家具で統一された部屋は、この子の雰囲気にぴったりだ。
「今日は疲れたでしょう。お風呂と着替えは侍女に頼んであるから、すぐに来てくれるからね」
「そんな、申し訳ないです! お風呂は一人で入れますから!」
恐縮するヒロインを見て、そういえばと、この後彼女が困ることになると思い出した。
嘘を付くことになるけど仕方ない……。
「ああ、あなたは火の魔法が使えるのね。一人で出来るというなら水との二属性持ちなの?」
素知らぬ顔でそう言うと、ヒロインはきょとんとした。
まぁ、そういう顔にもなるでしょうよ。
しかし私は、彼女の世界に魔法がないとは知らない人間だ。ゲームのキャラクターになりきるのよ!
「お風呂に一人で入れるんでしょう?」
そっか! 知らないんだ! とララの顔に書かれている。ごめんね。知ってる。
「私の世界には魔法がないんです。だから、私も魔法は使えなくって」
「そうなのね。ならやっぱり手伝ってもらいなさい。お湯も魔法で用意したほうが早いから」
なんとか説得できて、内心ほっと息をついた。白々しい会話はさっさと切り上げて、自分の部屋へと帰ろう。
「はい。本当にご迷惑をおかけしてすみません」
そうそう、最初の頃のヒロインは迷惑をかけたことが申し訳なくて、謝ってばかりだった。そんな彼女にルーファスが言うのだ。
「謝罪はいらない。それより礼を言われた方がずっといい」
「えっ……」
しまった、声に出てた。
ゲームのストーリーを間近で見られて興奮が抑えきれてない。
「あ、そうそう。魔法が使えないならランプの消し方もわからないわよね? 数時間で消えるよう調整しておくから、消えたら今日は早く休んでね」
笑顔で誤魔化して一息で言うと、さっと手を振ってランプの調整をする。
しかし扉を閉めようとすると、ララに止められた。
「あのっ……」
「ん?」
ララはおずおずと、しかししっかりと私の目をまっすぐに見つめてくる。
「私……あの時は知り合いが誰もいなくて、たった一人で頭の中が不安でいっぱいだったんです。エルザさんに声をかけていただけなければ、今頃どうなっていたか……だから本当に、ありがとうございました」
深々と頭を下げたララは、頭を上げるとぎこちなくも笑顔を見せてくれた。
……なんて可愛い! さすが、数々の男を虜にする予定なだけのことはある!
不安から解放された安堵の表情はまだ弱々しくて儚いが、それでも十分魅力的だ。
明日になればもっと明るい笑顔が見られるかもしれない。楽しみ。
「気にしないで。あなたは笑ってるほうが可愛いわね。明日の朝に迎えに行くから、一緒に朝食を食べましょう」
今度こそ扉をそっと閉めて立ち去る。
ランプの消し方がわからなくて、なかなか寝付けなかったという一文がゲームにあったのを思い出せてよかった。
疲れているだろうし、ゆっくり休んでほしいからね。
歩きながら先ほどのララの様子について考えるも、どうやら転生者ではないように思う。
三人に対する態度は、私が知っているヒロインそのものだったし、私に対する態度も初対面の女性に対して不自然ではなかった。
まだ警戒は解かないにしても、あのヒロインなら仲良くなれる気がするし、もしかしたら誰かとのエンディングを間近で見られるかもしれない! それなら全力で後押ししたい。
それに、彼女が転生者だろうがそうでなかろうが、なるべくなら気楽に過ごせるよう気を配ってあげたいとも思う。
なにせヒロインは、三か月後の次のお茶会まで自分の世界に帰れないのだから。
本来なら侍女に頼むはずだけど、私が声をかけたし同姓だからということだろう。
「西棟のプリムラの部屋がいいでしょう。よろしくお願いしますね」
「プリムラの部屋ね、わかった」
それを聞いて、笑いそうになるのを堪えた。
客間にはそれぞれ花の名前が付けられている。
プリムラは小花が可愛らしい花だ。その花言葉は『可憐』。
ララを見たゼンが、プリムラの花のような女性だと思ってこの部屋に通したエピソードは、ゼンのルートで明らかになる。
このお堅いお説教男がそんな可愛らしいことを考えていただなんて! と当時の私は身悶えしたものだ。
ララを連れ、部屋へと案内する。
淡い桃色を基調とした可愛らしい家具で統一された部屋は、この子の雰囲気にぴったりだ。
「今日は疲れたでしょう。お風呂と着替えは侍女に頼んであるから、すぐに来てくれるからね」
「そんな、申し訳ないです! お風呂は一人で入れますから!」
恐縮するヒロインを見て、そういえばと、この後彼女が困ることになると思い出した。
嘘を付くことになるけど仕方ない……。
「ああ、あなたは火の魔法が使えるのね。一人で出来るというなら水との二属性持ちなの?」
素知らぬ顔でそう言うと、ヒロインはきょとんとした。
まぁ、そういう顔にもなるでしょうよ。
しかし私は、彼女の世界に魔法がないとは知らない人間だ。ゲームのキャラクターになりきるのよ!
「お風呂に一人で入れるんでしょう?」
そっか! 知らないんだ! とララの顔に書かれている。ごめんね。知ってる。
「私の世界には魔法がないんです。だから、私も魔法は使えなくって」
「そうなのね。ならやっぱり手伝ってもらいなさい。お湯も魔法で用意したほうが早いから」
なんとか説得できて、内心ほっと息をついた。白々しい会話はさっさと切り上げて、自分の部屋へと帰ろう。
「はい。本当にご迷惑をおかけしてすみません」
そうそう、最初の頃のヒロインは迷惑をかけたことが申し訳なくて、謝ってばかりだった。そんな彼女にルーファスが言うのだ。
「謝罪はいらない。それより礼を言われた方がずっといい」
「えっ……」
しまった、声に出てた。
ゲームのストーリーを間近で見られて興奮が抑えきれてない。
「あ、そうそう。魔法が使えないならランプの消し方もわからないわよね? 数時間で消えるよう調整しておくから、消えたら今日は早く休んでね」
笑顔で誤魔化して一息で言うと、さっと手を振ってランプの調整をする。
しかし扉を閉めようとすると、ララに止められた。
「あのっ……」
「ん?」
ララはおずおずと、しかししっかりと私の目をまっすぐに見つめてくる。
「私……あの時は知り合いが誰もいなくて、たった一人で頭の中が不安でいっぱいだったんです。エルザさんに声をかけていただけなければ、今頃どうなっていたか……だから本当に、ありがとうございました」
深々と頭を下げたララは、頭を上げるとぎこちなくも笑顔を見せてくれた。
……なんて可愛い! さすが、数々の男を虜にする予定なだけのことはある!
不安から解放された安堵の表情はまだ弱々しくて儚いが、それでも十分魅力的だ。
明日になればもっと明るい笑顔が見られるかもしれない。楽しみ。
「気にしないで。あなたは笑ってるほうが可愛いわね。明日の朝に迎えに行くから、一緒に朝食を食べましょう」
今度こそ扉をそっと閉めて立ち去る。
ランプの消し方がわからなくて、なかなか寝付けなかったという一文がゲームにあったのを思い出せてよかった。
疲れているだろうし、ゆっくり休んでほしいからね。
歩きながら先ほどのララの様子について考えるも、どうやら転生者ではないように思う。
三人に対する態度は、私が知っているヒロインそのものだったし、私に対する態度も初対面の女性に対して不自然ではなかった。
まだ警戒は解かないにしても、あのヒロインなら仲良くなれる気がするし、もしかしたら誰かとのエンディングを間近で見られるかもしれない! それなら全力で後押ししたい。
それに、彼女が転生者だろうがそうでなかろうが、なるべくなら気楽に過ごせるよう気を配ってあげたいとも思う。
なにせヒロインは、三か月後の次のお茶会まで自分の世界に帰れないのだから。
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