8 / 9
ハチ
しおりを挟む
「とりあえず初めに、みんなはあの夜のことを覚えているか?」
大前提としてまず初めに確認しなければならないと思った。忘れていないからこそここにいるのだろうが、それでも確認するべきだとおれは考えた。
やはりというべきだろうか。皆おれの問いに頷いた。つまり覚えているのだろう。あの少女のことも、おれ達がその少女に殺されたことも。
「ね、ねぇ……零士くん。色々考えたんだけど『げーむ?』の所為であたし達殺されたんじゃない?」
「『げーむ?』の所為?」
確かに昨日やった『げーむ?』のタイミングも合わせれば疑いたくなる気持ちは分からなくもないが、だがそれはあまりにも……。
「……現実離れしすぎていないか?」
「た、確かにそうだけど」
朝霧さんも無茶苦茶を言っていることは理解していたのか、おれの反論にすぐに縮こまってしまった。
だがここで意外なところから声があがる。
「……で、ですけど……昨夜の出来事も現実離れしてますし……一概に否定はできないと……思います」
「おれも愛菜に賛成だ。……あんなことが起きたんだ、現実離れなんて今更だろ?」
永井と佐藤さんの意見も最もだ。事実としておれは殺されたしその記憶もある。それだけではなく昨日と同じ曜日に日付、この時点で現実離れはとっくにしているといっていい。
あの夜の出来事の原因に心当たりは『げーむ?』を除いてまったくない。だとしたら今は『げーむ?』について調べるのが利口だろう。
「……確かにそれもそうだな。……もう一度アプリを起動するか?」
ごくりっと誰かが唾液を飲み込んだ音が聞こえた気がした。本音を言えばおれだって『げーむ?』を起動したくない。
現在おれ達には情報がないから無闇矢鱈なことをして状況を悪化させる可能性だってある。
もしかしたら『げーむ?』を起動したからあの夜が訪れた可能性だってある。もしそうだとしたら今ここで『げーむ?』を起動しなければおれ達はあの夜を過ごす必要だってなくなるわけだ。
「あ、あたしはそれでもいいと思う。……このまま何もしなかったらまたあの夜が来るかもしれないし」
朝霧さんの言葉に後押しされた残りの二人も頷いた。
おれは手汗が尋常なほど出ていることがわかった。お陰でスマホが持ちづらい。
『げーむ?』を開きアプリを始めようとした時に何か違和感を感じた。その違和感が何なのかおれは気づかなかったが、朝霧さんの言葉によってすぐに気付かされた。
「あ、あれ……あたしっていつ『げーむ?』をインストールしたっけ?」
朝霧さんがおれ達に見せるのはスマホの『げーむ?』がインストールされているホーム画面。
その瞬間、場の空気が凍り時が止まった気がした。そしてそれと同時におれはその時、昨日の何の変哲もない会話を思い出していた。
“ちょっと待ってね今から『げーむ?』をインストールするから”
“早くしろよ朝霧”
そうだ。確かに朝霧さんは昨日初めてこの公園で『げーむ?』をインストールしたはずなんだ。
だがおれはそんなことを認めたくなくて、少しの期待を求めた。
「あ、朝霧さんはいつインストールしたのか覚えてないのか?」
「……い、いや……絶対にインストールしてない。……だってあたしずっと怖くて、……今日初めてスマホを触ったし……」
朝霧さんの震えた声から嘘はついていないとわかった。それどころか普段の活発な彼女からは想像もできない姿におれも戸惑いを隠せない。
「お、落ち着いて。……佐藤さん頼んでいいか?」
「は、はい」
おれは混乱して疲弊している朝霧さんをこのまま放っておくのは危険だと判断した。
この中で一番朝霧さんと仲がいいのは佐藤さんなので、この件は彼女に任せようと思いおれと永井は彼女達と少し離れた。
「……珍しいこともあるもんだな?」
「こんな状況なんだ、別に不思議なことじゃない」
それでも驚いたが、よく考えれば異常じゃない。いや、むしろ普通だ。
逆におれや佐藤さんは落ち着きすぎている。もっと焦っていいはずなのに……。
大前提としてまず初めに確認しなければならないと思った。忘れていないからこそここにいるのだろうが、それでも確認するべきだとおれは考えた。
やはりというべきだろうか。皆おれの問いに頷いた。つまり覚えているのだろう。あの少女のことも、おれ達がその少女に殺されたことも。
「ね、ねぇ……零士くん。色々考えたんだけど『げーむ?』の所為であたし達殺されたんじゃない?」
「『げーむ?』の所為?」
確かに昨日やった『げーむ?』のタイミングも合わせれば疑いたくなる気持ちは分からなくもないが、だがそれはあまりにも……。
「……現実離れしすぎていないか?」
「た、確かにそうだけど」
朝霧さんも無茶苦茶を言っていることは理解していたのか、おれの反論にすぐに縮こまってしまった。
だがここで意外なところから声があがる。
「……で、ですけど……昨夜の出来事も現実離れしてますし……一概に否定はできないと……思います」
「おれも愛菜に賛成だ。……あんなことが起きたんだ、現実離れなんて今更だろ?」
永井と佐藤さんの意見も最もだ。事実としておれは殺されたしその記憶もある。それだけではなく昨日と同じ曜日に日付、この時点で現実離れはとっくにしているといっていい。
あの夜の出来事の原因に心当たりは『げーむ?』を除いてまったくない。だとしたら今は『げーむ?』について調べるのが利口だろう。
「……確かにそれもそうだな。……もう一度アプリを起動するか?」
ごくりっと誰かが唾液を飲み込んだ音が聞こえた気がした。本音を言えばおれだって『げーむ?』を起動したくない。
現在おれ達には情報がないから無闇矢鱈なことをして状況を悪化させる可能性だってある。
もしかしたら『げーむ?』を起動したからあの夜が訪れた可能性だってある。もしそうだとしたら今ここで『げーむ?』を起動しなければおれ達はあの夜を過ごす必要だってなくなるわけだ。
「あ、あたしはそれでもいいと思う。……このまま何もしなかったらまたあの夜が来るかもしれないし」
朝霧さんの言葉に後押しされた残りの二人も頷いた。
おれは手汗が尋常なほど出ていることがわかった。お陰でスマホが持ちづらい。
『げーむ?』を開きアプリを始めようとした時に何か違和感を感じた。その違和感が何なのかおれは気づかなかったが、朝霧さんの言葉によってすぐに気付かされた。
「あ、あれ……あたしっていつ『げーむ?』をインストールしたっけ?」
朝霧さんがおれ達に見せるのはスマホの『げーむ?』がインストールされているホーム画面。
その瞬間、場の空気が凍り時が止まった気がした。そしてそれと同時におれはその時、昨日の何の変哲もない会話を思い出していた。
“ちょっと待ってね今から『げーむ?』をインストールするから”
“早くしろよ朝霧”
そうだ。確かに朝霧さんは昨日初めてこの公園で『げーむ?』をインストールしたはずなんだ。
だがおれはそんなことを認めたくなくて、少しの期待を求めた。
「あ、朝霧さんはいつインストールしたのか覚えてないのか?」
「……い、いや……絶対にインストールしてない。……だってあたしずっと怖くて、……今日初めてスマホを触ったし……」
朝霧さんの震えた声から嘘はついていないとわかった。それどころか普段の活発な彼女からは想像もできない姿におれも戸惑いを隠せない。
「お、落ち着いて。……佐藤さん頼んでいいか?」
「は、はい」
おれは混乱して疲弊している朝霧さんをこのまま放っておくのは危険だと判断した。
この中で一番朝霧さんと仲がいいのは佐藤さんなので、この件は彼女に任せようと思いおれと永井は彼女達と少し離れた。
「……珍しいこともあるもんだな?」
「こんな状況なんだ、別に不思議なことじゃない」
それでも驚いたが、よく考えれば異常じゃない。いや、むしろ普通だ。
逆におれや佐藤さんは落ち着きすぎている。もっと焦っていいはずなのに……。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
死界、白黒の心霊写真にて
天倉永久
ホラー
暑い夏の日。一条夏美は気味の悪い商店街にいた。フラフラと立ち寄った古本屋で奇妙な本に挟まれた白黒の心霊写真を見つける……
夏美は心霊写真に写る黒髪の少女に恋心を抱いたのかもしれない……
サイコさんの噂
長谷川
ホラー
最近ネットで大流行している都市伝説『サイコさん』。田舎町の高校に通う宙夜(ひろや)の周囲でもその噂は拡散しつつあった。LIME、Tmitter、5ちゃんねる……あらゆる場所に出没し、質問者のいかなる問いにも答えてくれる『サイコさん』。ところが『サイコさん』の儀式を実践した人々の周囲では、次第に奇怪な出来事が起こるようになっていた。そしてその恐怖はじわじわと宙夜の日常を侵食し始める……。
アルファポリス様主催第9回ホラー小説大賞受賞作。
※4話以降はレンタル配信です。
ある復讐者の日常~灯台下暗し~
登美能那賀須泥毘古命
ホラー
不定期で、書いていこうと考えています。
もしよければ感想をお願いします。
ある町で、悲惨な事件が起きた。
その事件とは一家惨殺事件で、犯人はいまだに捕まっていない。
この物語は、そんな事件でただ唯一生き残ってしまった父親の物語である。
三日月が傾く夜
ここあん
ホラー
舞台はなんの変哲もない、とあるベッドタウンの中心部。
そんな、住むのに不便なし、かといって楽しみもない町で日常を送る高校生の非日常に視点を置いた、脱出ホラーストーリー。
あなたの知らないホラーが、ここにある…。
作品コンセプト
通常のホラーでは明かされることのない、敵の正体、そして、今回の現象の発端を明かしつつも、読者に与える恐怖感。未知なるものから感じる恐怖だけに絞らず、不信感、嫌悪感など、人が持つ感情から生まれる、人としての恐怖を感じて頂ければ。
他の見所は、この不思議な世界に関わることで変わっていく、主人公たち自身、また、それによって変わる、彼らの行動の変化に注目。
赤い目の影が笑う
きもとまさひこ
ホラー
愛梨には影がいる……名前はイリア
2004年に文学フリマで販売した「作家たちの夢束」という同人誌に寄稿した短編です。
※ これはホラーだろうと思ったので、ジャンル変更しました。
喪失~失われた現実~
星 陽月
ホラー
あらすじ
ある日、滝沢の務める会社に桐生という男が訪ねてきた。男は都立江東病院の医師だという。
都立江東病院は滝沢のかかりつけの病院であったが、桐生という名の医師に聞き覚えがなかった。
怪訝な面持ちで、男の待つ会議室に滝沢は向かった。
「それで、ご用件はなんでしょう」
挨拶もそこそこに滝沢が訊くと、
「あなたを救済にきました」
男はそう言った。
その男が現れてから以降、滝沢の身に現実離れしたことが起こり始めたのだった。
さとみは、住んでいるマンションから15分ほどの商店街にあるフラワー・ショップで働いていた。
その日も、さとみはいつものように、ベランダの鉢に咲く花たちに霧吹きで水を与えていた。 花びらや葉に水玉がうかぶ。そこまでは、いつもとなにも変わらなかった。
だが、そのとき、さとみは水玉のひとつひとつが無規律に跳ね始めていくのを眼にした。水玉はそしてしだいにひとつとなっていき、自ら明滅をくり返しながらビリヤードほどの大きさになった。そして、ひと際光耀いたと思うと、音もなく消え失せたのだった。
オーナーが外出したフラワー・ショップで、陳列された店内の様々な花たちに鼻を近づけたり指先で触れたりしながら眺めた。
と、そのとき、
「花はいいですね。心が洗われる」
すぐ横合いから声がした。
さとみが顔を向けると、ひとりの男が立っていた。その男がいつ店内入ってきたのか、隣にいたことさえ、さとみは気づかなかった。
そして男は、
「都立江東病院の医師で、桐生と申します」
そう名乗ったのだった。
滝沢とさとみ。まったく面識のないふたり。そのふたりの周りで、現実とは思えない恐ろしい出来事が起きていく。そして、ふたりは出会う。そのふたりの前に現れた桐生とは、いったい何者なのだろうか……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる