げーむ?

レッドスター赤星

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ヨン

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 少女はおれ達と目が合うと更に笑みを深くした。
 顔の半分を占めているといっても過言ではない口がさらに大きくなったと錯覚してしまう。

「れ、零士! 一体あれはなんなんだ!?」

「……おれが知るわけないだろ?」

 おれ達の間に沈黙が訪れた。

 それが恐怖によるものなのか、驚きよるものなのかは当然考えるまでもない。 

「み、みんなどうする?」

 朝霧さんが恐る恐るといった様子で提案する。こんな状況下で冷静な判断を下せるのは彼女が学級委員長だからなのかもしれない。

「どうするもなにも、帰るに決まってんだろ?」

「永井はあの子を放っておくつもりか?」

「じゃあなんだ? 鈴木はあの見るからに人を殺してる見た目のガキをこっからだしてぇのか?」


 二人とも間違ったことは言っていない。こんな時間に学校にいる女の子を放っておくのは一人の人間として間違っている。
 だが、永井の言う通り見るからに血と思われる赤い液体のようなものが付着している鉈を担いでいる女の子に近づくのも危険だ。

「ふ、二人とも落ち着いて。……愛菜と零士くんは何かある?」

「わ、わたしは特に……」

 おれだって状況を整理できていない。 女の子を保護するか、根拠もない理由で女の子を放っておくか。
 
 だか、おれは気付いてしまった……。


「……あの子は?」


 ……三階の情報処理室から覗いていた日本人形のような少女が消えていることに。



「あの子?」

 誰が言ったのだろうか。

 だが、みんながおれの言葉を理解するのに時間はかからなかった。

 4人の瞳が一斉に少女がいたはずの場所へと向けられる。

「え、嘘でしょ? どこにいったの?」

 シーンとまるで時が止まったかのように風が止まり、おれ達は沈黙した。

 だが、そんな沈黙もすぐに破られることになる。


 コン、コン、コン、と一定のリズムでゆっくりと歩いている事がわかった。足音が軽い事からも歩いている者が小柄であることは容易に想像できる。

 いや、あの少女がこちらに向かっているとおれ達はすぐさま想像した。


「チッ! やっぱり大人しく帰った方が良かったじゃねぇか!」


 永井の声が夜空に響く。

 暗闇の生徒玄関からドアを開け姿を現したその少女の手には血だらけの鉈があり、近づいてくるにつれ少女の身体の至る所に血が付いていることに気がついた。

「おい! お前らさっさと逃げるぞ!」

「ま、まて永井! もしかしたらあの女の子が助けてくれると思って……」

「あの顔を見てもそう思うか!?」

 永井の言う通りだ。とてもじゃないが、あの女の子の笑みは助けを求める少女のものじゃない。

 コツ、コツ、コツ、コツコツ、コツコツコツ、コツコツコツコツコツ!!

 女の子が少しずつ歩く速さを変えている事が不気味なまでに響く足音でわかった。
 残虐なまでの笑顔で、まるで暴れるようにおれ達に向かってきている。


「あ、あぁ……に、にげろぉぉ!」

 優斗の声が学校中に響き渡ると同時に、おれ達は門へと走った。

 全速力で、乱れる息など気にしないで、ただ無我夢中で走った。
 だが、問題というものはいつでも訪れてくる。

「きゃ!」

 小さな悲鳴がおれの耳を通った。その声は背後から聞こえて、それで必然的に誰の声なのか判断がついた。

「佐藤さんっ! 大丈夫か!?」

「い、痛い……膝が」

 転んでしまったのだろう。佐藤さんの膝からは血が出ていた。大怪我ではないが、今すぐ走ることは疎か初めのうちは歩くのにも人の肩がいるだろう。

「ま、愛菜!? 大丈……」

「……はやく行けっ!」

 今こんな事をしている間にもあの少女は近づいてきている。
 わざわざ振り向いてくれた朝霧さんには悪いが、彼女が今ここに来たところでなんの解決にもならない。

「佐藤さん今からおんぶするから、はやく背中に乗って!?」

「は、はい。……ごめんなさい」

 佐藤さんも冷静でいられているのか、大人しく背中に乗ってくれた。
 
「よし! あとはおれが走るだけ……ッ!」

 だけど、現実は甘くなかった。

 考えてみれば簡単だった。三階の情報処理室にいた少女が僅かな時間で消え、すぐさま生徒玄関から姿を現したのだ。
 
 の少女はそんなことできない。少なくとももっと時間がいる。

「……そんな……いつの間に……」

 その先の台詞は出なかった。おれの頭の中には絶望があり、恐怖しかなかった。

「え、……い、いつの間に……! ね、猫屋敷くん! はやく逃げよう!?」


 なぜだ。なぜだ、なぜだなぜだなせだ。
 なぜ本来なら背後にいるはずの少女がおれのにいる。
 ありえない。仮にどんなに足が早かったとしても、おれの正面を取るためには、横を通らざる負えない。

「そ、そうだ、はやく逃げなければ……!」

 おれの行動に合わせるかのように少女が鉈をおれに向かって振り回しながら走ってきた。

「速いっ!?」

 あまりの速さにおれは震え上がり、鉈から身を守るように佐藤さんの太ももを掴んでいた片手を離し、前へと突き出した。

「……え?」


 瞬間。


 ブシャァァ。


 おれの左腕は切断され、その断面から大量の血飛沫ちしぶきが前方にいた少女に降りかかった。






 
 
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