恩讐の貴方に

受粉

※6

なんとか逃れられないかと手足をばたつかせるが、無駄なあがきでびくともせずに息苦しさに力が抜けてしまう。
　高坂は目の前の男が、静かな目で獲物を捉えるかのように見返す表情に体をこわばらせた。
　穏やかさが消えて獰猛な肉食獣のような目を向けられる。
　本当に、殺される……のか。
「……こちらもあまり貰えない休暇を潰されたわけだしな。褒美くらいもらっても罰はあたらないだろう」
　カチカチと高坂のベルトのバックルを外して引き抜くと、東郷はスラックスを下着ごと引き下ろした。
「ばっ、はな、せ……や、やめろッ、俺はゲイじゃねえ」
「知っているよ。だけど、恨むなら何度もチャンスを与えたのに、素直に帰らなかった自分の浅はかさを恨むのだな」
　東郷は目を伏せて引き出した高坂のペニスを口に含み、慣れた所作で唇を吸い付かせた。
　堅いが弾力のある唇が、陰茎の裏筋をゆるゆると扱きあげて劣情を刺激していく。
　高坂はもがくように抵抗するが、簡単に腕を纏めて掴まれて喉の奥まで呑み込まれてしまう。
「――っ、な、なにしてんだ……よ」
　このままじゃ、快感に呑まれてコイツに掘られてしまう。
　必死に相手から腕を剥がそうと体を動かすが、唇からの刺激に力がまったく入らずに、脳までジンジンと痺れてきてしまう。
　いや、だッ……。このまま、このヤクザに俺は強姦されちまうの、か。
　ぎゅんと熱が下肢へと移動して力が抜けてしまい、腕を外されたのに逃れることもできない。
　このまま掘られるとか、真っ平だ。
　高坂は、拒絶の意思を示そうと首を左右に振って目の前の東郷を見上げた。
　怖くないよと優しい手つきで東郷に頭を撫でられ、勃起させられたペニスが、ずるんと温かな心地よい感覚に包まれる多幸感に思わず恍惚の表情を浮かべてしまう。
　弾力がある唇ではない、もっと狭くて……あったか、い。
「……いい顔だな……。なあ……、気持ちが悦いか」
　問いかけられ視線をやると東郷の尻の合間に、自らの屹立がすっかり埋没していた。
　緩い締めつけは、東郷の肉洞の圧迫によるもので、うねるように肉が竿に絡みついて震えを刻んでいる。
「……ッふ……っう、な、な、なに……っ」
　肉茎を包みこむ粘膜の柔らかい感触は、じくじくと熱をもってここちよい圧迫でペニスへの刺激を繰り返している。
　高坂にはこれが東郷の内部だということに驚きながらも、自然に心地のよい強い反発と刺激を求めて腰を動かしてしまうのを抑制できずにいた。
「ッはぁ……結構……、ァ、ッあっふ……とい……。いいモチモノだな……若いからか、張りもあって……ッおお、きい」
　湿った音と共に淫らに煽るような少し掠れた声で囁かれ、高坂は脳がじりじりと焦げ付くように劣情を唆されていた。
　我慢、できねえ。
　解放された腕で東郷の脚を一気にぐいと引き寄せると、腰を使って下からぐちゃぐちゃと突き上げを繰り返していく。
「ッ……ふ、ふざけ……んなよ。これは、立派な強姦……だ」
「強姦罪で……俺を……しょっ……ぴく……かなッ……ッふ、ああッ、ああ、イイ……ッいい……アッ……う、ちんぽ、ふとく、て、あ、ああ、あつい」
　東郷がくくっと鼻を鳴らして笑いを漏らすが、息苦しそうに喉仏を晒しては無防備に淫語と小さな喘ぎを繰り返している。
　高坂は腕を伸ばして高級そうな白いシャツを思い切りはだく。
　ボタンがばちばち飛び散り、露になる肌はほのかに赤らんでみえ、背中と肩を彩る朱を含んだ牡丹と蛇が絡み合う柄が艶やかに汗に濡れて撓む。
　職業柄色々な柄を見てきたが、こんなにも見た目が淫靡な紋々は初めてだった。