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君がためをしからざりし命さへ
side Hasegawa
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いつも通り教授の講義資料をまとめた後、簡単に研究室にある冷蔵庫の中の検体を確認してから、部屋を出る。
昨日はあんなことがあったのに、いつも通りの日常がやってくる。
ほしいものは、つかみとれ、か。
アニキの言葉を再度噛み締めるように、口の中で繰り返す。
今夜、また、彼のところにいってみようか。
携帯番号すら、聞いてはいなかったが場所は覚えている。
逆にオレがストーカになってしまうかもしれない。
名刺にあった番号は、会社用の携帯だろうか。
昨日手にしたあと、どこにしまったんだっけ。
あのまま強引に家まで連れ込まれて、とりあえず白衣のポケットに入れたような気がする。
ごそごそと白衣のポケットに手を伸ばし、カフェで探してから電話をしようかと、学生たちにまぎれて校門を出ると、いきなりぐいと強く腕を引かれた。
「待ってたぜ」
振り返ると、夕闇に少しだけ陰りがさして表情が見えにくいのに成春が笑って立っているように見えた。
昨日の今日で、本当に懲りない人だ。
まさか、自分からくるだなんて、思わなかった。
オレが何をしたかなんて、まるっきりなかったことにしたのだろうか。
昨日の今日ですっかり忘れたなんてことはないよな。
「先輩、いきなり…………なんですか」
さっきまで自分から連絡の手段を探していたのに、迷惑そうな顔を作って不審な表情をして嘆息を漏らして成春を見上げた。
成春はオレの態度にまったくこたえていない様子で、にっこりと微笑みかける。
「迎えにきたんだ」
ちらりと路肩に置いてある車をみやり乗れというように視線を向ける。
「僕が、そんなに暇そうに見えますか」
実際にやるべきことは終わらせてはきたし、彼の家に寄ろうとしていたぐらいだ。
時間なんて腐るほどあるのに、まったく素直にはなれない。
「飯くらい、一緒にできないか、セイハ?奢るし」
オレの言葉にいちいちめげない姿勢は、昔の成春を思い出す。
学生たちの視線が気になり、オレは面倒そうに助手席に乗り込んだ。
横に座る成春を確認すると、シートベルトを着用する。
「僕が、……貴方に何をしたか、もう忘れたんですか」
「まさか、俺はそんなに忘れっぽくはねぇぜ。…………言……っただろ?オマエに許されるなら、身体なんかいくらでも好きにしていいって」
はっきりと断言して車を走らせる。投げやりにさえ聞こえる言葉なのに、決意には期待すら感じられる。
…………馬鹿だなと、思う。
「夕食だけで良いのですか?」
期待しているのは、オレも一緒なのかもしれない。
流れいく景色を視線で追いかけて、顔をわざわざ逸らす。
期待はオレもしている。だけど、彼には悟られたくはない。
「え……、セイハ泊まっていってくれんのか?」
て、飛躍しすぎだろ!?
思わず顔を凝視すると、成春は真顔である。だから、天然はイヤなのだ。
「…………遅くなったら、泊まらせてもらいますよ」
なんで、こんな言い方しかできないのだろうか、オレは。
あの頃みたく、素直な言葉を言ってみたいのにできない。
悔しいのか、なんなのか感情がわからなくなっている。
複雑すぎて、考えることも拒否してしましまいたくなる。
「やった、じゃあ、いっぱい飯作るかな」
嬉しそうに、屈託なく笑う成春に、オレは自分がひどく小さく感じてたまらなくなる。
どうして、オレは素直に彼の期待ににこたえて、やれないのだろうかと。
昨日はあんなことがあったのに、いつも通りの日常がやってくる。
ほしいものは、つかみとれ、か。
アニキの言葉を再度噛み締めるように、口の中で繰り返す。
今夜、また、彼のところにいってみようか。
携帯番号すら、聞いてはいなかったが場所は覚えている。
逆にオレがストーカになってしまうかもしれない。
名刺にあった番号は、会社用の携帯だろうか。
昨日手にしたあと、どこにしまったんだっけ。
あのまま強引に家まで連れ込まれて、とりあえず白衣のポケットに入れたような気がする。
ごそごそと白衣のポケットに手を伸ばし、カフェで探してから電話をしようかと、学生たちにまぎれて校門を出ると、いきなりぐいと強く腕を引かれた。
「待ってたぜ」
振り返ると、夕闇に少しだけ陰りがさして表情が見えにくいのに成春が笑って立っているように見えた。
昨日の今日で、本当に懲りない人だ。
まさか、自分からくるだなんて、思わなかった。
オレが何をしたかなんて、まるっきりなかったことにしたのだろうか。
昨日の今日ですっかり忘れたなんてことはないよな。
「先輩、いきなり…………なんですか」
さっきまで自分から連絡の手段を探していたのに、迷惑そうな顔を作って不審な表情をして嘆息を漏らして成春を見上げた。
成春はオレの態度にまったくこたえていない様子で、にっこりと微笑みかける。
「迎えにきたんだ」
ちらりと路肩に置いてある車をみやり乗れというように視線を向ける。
「僕が、そんなに暇そうに見えますか」
実際にやるべきことは終わらせてはきたし、彼の家に寄ろうとしていたぐらいだ。
時間なんて腐るほどあるのに、まったく素直にはなれない。
「飯くらい、一緒にできないか、セイハ?奢るし」
オレの言葉にいちいちめげない姿勢は、昔の成春を思い出す。
学生たちの視線が気になり、オレは面倒そうに助手席に乗り込んだ。
横に座る成春を確認すると、シートベルトを着用する。
「僕が、……貴方に何をしたか、もう忘れたんですか」
「まさか、俺はそんなに忘れっぽくはねぇぜ。…………言……っただろ?オマエに許されるなら、身体なんかいくらでも好きにしていいって」
はっきりと断言して車を走らせる。投げやりにさえ聞こえる言葉なのに、決意には期待すら感じられる。
…………馬鹿だなと、思う。
「夕食だけで良いのですか?」
期待しているのは、オレも一緒なのかもしれない。
流れいく景色を視線で追いかけて、顔をわざわざ逸らす。
期待はオレもしている。だけど、彼には悟られたくはない。
「え……、セイハ泊まっていってくれんのか?」
て、飛躍しすぎだろ!?
思わず顔を凝視すると、成春は真顔である。だから、天然はイヤなのだ。
「…………遅くなったら、泊まらせてもらいますよ」
なんで、こんな言い方しかできないのだろうか、オレは。
あの頃みたく、素直な言葉を言ってみたいのにできない。
悔しいのか、なんなのか感情がわからなくなっている。
複雑すぎて、考えることも拒否してしましまいたくなる。
「やった、じゃあ、いっぱい飯作るかな」
嬉しそうに、屈託なく笑う成春に、オレは自分がひどく小さく感じてたまらなくなる。
どうして、オレは素直に彼の期待ににこたえて、やれないのだろうかと。
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